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六月二十五日 優男

「…受け入れてくれる人…考えてもいませんでした。確かに不安になります。でも…受け入れてくれるっていうか、気にしないでくれるやつなら、たぶんいます」


「…それはよかった。だけど、それは憶測でしかありませんから…期待はしないでいて欲しいです。ですが、もし本当にあなたの変化を気にしないでいてくれるのなら…その人にめいいっぱい甘えた方がいいでしょう」








「いってきます」


玄関を開ける。そこにはいつも迎えに来てくれる人はいなくて、久々に一人の登校をすることになる。


毎日のように来ていたメールも途切れた。気になって送ってみたものの…返信なんてない。


寂しいとは思わない。もとに戻っただけだから。それに…俺が悪かったから仕方ないんだ。


昨日、俺が愛を拒まなかったら…きっとこうはなっていなかったはず。でも…



受け入れたら、


愛と今の気持ちで恋人になっていたとしたら、


本当に楽しく過ごせていただろうか…


だって、愛は俺のことを見ていたんじゃなくて…水月病にかかった一人の人間をみていたんだから…


全部が全部そうではなかったのかもしれないけど…そう簡単には受け入れられなくなった。


そんな物珍しものとして見てほしくなかった…


だから…


友達でいたいっていったのに…










「えっ…」


びっくりした。俺の前の席に誰も座っていなかったから。


ようするに…愛が学校に来ていないのだ。


「あ、えっと…」


誰かに聞いてみようとしたが、そもそも仲のいい人なんていないし、愛について一番詳しいのは間違いなく自分だから意味がない。


呆然としたまま席に座るしかなかった。


「…」


一人がこんなにさみしいものとは思ってもいなかった。ポツンと席に座っているだけで自分一人がみんなとは全く違う空間に切り離されたような気分になる。


…授業が始まるまで寝よう、誰かと話すのも疲れるし、誰かと関わりを持つだけで不安になるから。









…なんだろう?周りがざわついてる。こんなのじゃ寝れやしない。


まったく、迷惑掛けてないんだから寝てる時ぐらい一人の空間にさせてよ。


いったい何をそんなに…










視線の先、みんなは見覚えの無い少女の姿に戸惑って、まわりからは誰?かわいい、などなど様々な感想が飛び交っていて…


でも俺の思うことは一つ。


もう会うはずの無いと思っていた奴がいた。


「…あ…」


歩き方がぎこちないけど、まっすぐに俺の方まで歩いてくる。人形のように可愛らしい容姿に不釣り合いな男物の制服がなんともおかしかった。


皆の視線は俺たちに集まる。


「…な、なんで来たんだよ」


いきなり目の前に立たれてあまりの威圧感に声を出してしまう。話しなんてする気はなかったのに。

ちょっと上擦ってしまった俺の声を聞いてクスッと笑いながら奴は口を開く。


「学校は休んじゃだめだろ」


それはごもっともだ…










「…あ、終わったの?」


「うん、お前って前例があったから案外皆すんなり信じてくれた。まぁ、お前と違って面影ひとつないからまだ半信半疑ってとこなんだろうけど」


「そうだろうね…。で、なに?」


「なにって…まぁあれだけあってお前に話かけるなんてそりゃ無神経か…いや、たださ、ここ最近どうしてたって聞きたいだけ」


「はぁ?」


「いや、だから…俺といざこざがあって心痛めてるんじゃないかと…思って…あ、これも無神経か」


…こいつは、何を考えてるんだろう。俺だってこいつの心を痛めつけたのに…


「…別に。俺そんなに弱くないし。それにそうだったとしてもそんなこと聞くなんてどうかしてる」


「そっか、すまん…それならよかった」


「だいたいお前はどうなんだよ、そんな恰好で学校なんか来たりしてさ」


俺も着ていた男物の制服。なぜか懐かしく感じてしまった。まわりにはこれを着てる人はいっぱいいるのに。まぁ、もうすぐこれをまた着れるようにはなると思うけど。


「…えっと…すぐには用意できない…採寸しなきゃいけないからな。だからあと一週間以上はかかると見てくれってさ」


「なんだ…じゃあお前はしばらくそのだぼだぼ制服を着てるってことか。一週間とか言ったら六月も終わるし…お前のセーラー服は見れないのか…」


「あ…そう…だな…」


「ってか、別にそんなサイズ合わないの着てこなくてもよくない?男に戻るまで学校休むとか、制服以外の違う服でくる許可もらうとかさ。考えつかないかな、普通さ?」


「…あぁ」


「はぁ…俺が初めて中学のころセーラー服を着て学校に来たときの辱めと言ったら…あんなにひどかったのにさ。お前は味わうことないのか」


「…」


「ああ、あの恥をお前も経験してくれたら今までの俺への失態も許してあげないこともなかったかもしれないのに」


「え?」


っと、余計なこと言った。冗談でも言うべきじゃなかったな。こいつとのことはもう忘れるって決めたんだった。


「…」


なんだ?こいつ。とたんに無口だ。ってか、こいつとこんなに話してちゃ許すもなにも変わらないじゃん。だめだめ、そろそろ口を閉じなきゃ。


「…」


「…」


「……ぅ」


「…」


いつまでとなりにいんだよ。


「あぁ、もうなんなんだよ…調子狂うな」


「あ…いや…ごめん」


「……はぁ、なんかもういい。……ったく、なんでこいつの方が学校に来て愛が来なくなるんだよ…最悪」


「大岡が?風邪か?」


「いや、違うけどさ、たぶん」


まぁ…理由ははっきりしてるけど…こいつに言う必要はないよな。


「…あいつには話すことあったのに…」


「え?」


「……あ、聞かなかったことにしてくれ」


「そんなこと言える立場なの?」


「…すまん」


こいつ謝ってばっか。これだったら男の時の方が数千倍おもしろかったな。変態だったけど。


「…授業はじまるよ、さっさと席ついたら?」


「あぁ…」










「…なにしてんの?」


「あ、いや…なにも?」


「…そこにいられると結構邪魔なんだけど?」


「…はっ!お、お前…トイレに用があるのか?」


「だったらなに?」


「…いや、なんでもない」


…わかり易。授業終わってから妙にこそこそ教室から出てくと思ったら…ってかこんな露骨にトイレの前でうろつかれちゃあね…こいつ、最初の難関に立たされてるな。


「…俺のことはいいから、ほら、いけよ」


…強がりだね。こんな変な場面で。さっきまでなんか暗かったくせに。


「…女の子が女子トイレに入ってくとこ見たいの?変態」


「ちがっ!それに今は俺だって女だし…」


「…はぁ…嘘だよ。俺こんなとこ使わないし」


「え?」


「障害者用トイレ。あそこ使ってるから。綺麗なんだよね、あそこ。あとは…来客用トイレとか。あっちも男女兼用のあるし…」


「あ…」


「今日は障害者用の方にしよっかな…あ、廊下通る人の邪魔にもなるからちゃんと退いててよね、じゃ」


「あ、おう」


……あ、後ろから走っていく音がする。来客用の方に向かったかな。


あいつ、どっち入ったらいいか悩んでたんだろうな…。たぶん、俺が入ってくほうにしようとしてたんだろうけど。どうしても俺には聞きたくなかったんだろうか。プライド?みたいな。


普通あの格好じゃ女子トイレには入りにくいだろうけどな…あ、男子トイレもかわらないか。うーん、あのままにしてたらどうなってたかな。


ふっ、俺、優しいやつ。敵に塩を送るってこういうこというのかな。

当初に比べるとかなりブルーな雰囲気に…


コメディ要素が少ないとここまで暗くなるんですね。


シリアスな作品を目指してますのでこれでいいのですけれど…面白みも少しは必要なのでしょうか?難しいです。

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