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六月四日 クラスメイト

「……水月病?」


「はい、通称ではそう言われています」









今日は雨、昨日も雨、多分明日も雨。ついでに天気予報では明後日も雨! 雨、雨、雨、まったく嫌になる。セーラー服ってさ、透けるんだよ濡れるとさ。別に男なら気にしなかったけど、ブラとか露骨に透けるのは……ねえ?


「……おっ、おはよう!」


朝っぱらから威勢のいい挨拶をかましてくるあいつ。ってか、今までおはようなんか言ってくれてなかったじゃんか。あれか? 慈悲なのか? 友達のいない俺への慈悲なのか!


「……おはよう」


「また今日も暗い顔してんな。中学の時はもうちょっとましだったと思うぜ?」


「顔の作りすら変わってる今の俺に言っても意味ないよ」


「そんなことねえよ。面影あるって! 俺から言わしてもらえば変わった当日から気付いたし」


「マジで?」


「嘘。今の方が全然可愛いし」


「……その発言はきもいよ」


「女の子なら黙って喜べよ!」


だって俺女の子じゃねえし。それにあと一ヶ月したら元通りだし。だいたい女の子になんか染まってたまるかよ。俺は普通に女の子と付き合って甘い高校時代を過ごしたいんだよ。去年はなんとか頑張れたんだ。今年だって……。


「ったく、かわいくねえな」


「かわいくするつもりなんてねえし」


「まぁ……俺はそっちのお前で全然いいけどさ」


「…なら余計なこと言うなよ」


ちょっと嬉しいと思ってる自分がいる。なんだ、別に男らしくを貫いたっていいんだ。少し楽になった気がする。なんだ、わかってるじゃないかこいつは。


「それにしても……髪とか顔に張りついて……なんかエロいな!」


前言撤回。最低変態野郎だった。ってか、今下着透けてないよな? 大丈夫だよな? あぁ……やっぱり小雨だからって走ってくるんじゃなかった。


「ん? どうした? そんなに首ひねって……あぁ、ブラか」


「直で言うな!」


「大丈夫大丈夫。透けてねえから」


「ほんと? よかった……」


「ま、ちょっと見えるけど……」


「ん? なにか言った?」


「ううん、なにも!」


よく聞き取れなかったけど、なんか怪しい。……ま、いっか。どうせ俺は大雑把な性格だし。細かいことは気にしない主義で。


「あのさ……そのーなんだ。話し変わるけど……お前、まだ友達とかできてねえの?」


「何言ってんだよ。わかってて来たんだろ、俺が可哀想だとでも思ってさ。だいたいなんなのさ、入学してからは全然絡まなかったのにこの時期になってからいきなり話し掛けるようになってさ。あれか? 女の子の俺に話しかけたいのか? 下心丸見えなんだよまったく」


「なに言ってんだよ。お前が絶対に話し掛けるなって入学式の時に釘をさしてきたんじゃねえか。忘れたとは言わせねえぞ」


あれ? そうだっけ? まぁ……そうだったかもしれない。新しい高校生活には不要な人物だからな。


「そうだったかもしれないけどさ。じゃあなんで今さらなんだよ。この時期になったから絡んで来たんだろ」


「……あぁ、そうだよ」


ほら、やっぱり。女の子になった俺に興味がある変態だ。卑怯なんだよ、弱みに付け込むみたいな感じでさ。


「この時期に……六月になってからお前みんなに避けられ始めただろ? だから心配なんだよ」


「……え?」


「ほら、最初の紹介の時さ、一応お前の病気についても説明してただろ? だけどな、あの時点で信じてたのは誰一人いなかったんだよ。だから実際に女の子になったとたん皆気味悪がってお前を避けて……」


「……」


「あ、いや、その……すまん、ちょっと言いすぎたか」


いや、薄々とはわかってた。そりゃ全員が全員信じてくれたとは思わなかったさ。でもわかってくれてるやつだっていると思ってた。だから、こいつからそんな事実を直接言われると辛い。


そんなのまるで俺の存在自体が否定されてたようなもんじゃないか……。


「あの、もしもし?」


「帰れ……」


「あ、いや、本当にごめん。でも誤解されたくなかったから……」


「いいから帰れよ。席につけよ。誤解なんてしてないから。もういいから……」


「……そうか。じゃ、またな。ホントごめん」


「……」


そう言ってあいつは自分の席に着いた。その途端何人もの人に囲まれてた。多分……友達なんだろうな。


なに話してんだろ。いや、わかるよ。ちらちらこっち見てる。どうせ俺のことなんだろ。


そんなに珍しいかよ。そんなにおかしいかよ。別にいいじゃないか。好きでこんな身体になったんじゃないのに……。


「あ、あの……」


「ん?」


ちょこんと小さく椅子に座っている俺に話し掛けてきたのは前の席に座ってる女の子だった。名前は……ちょっと思い出せない。交流ないし。


「その……あなた、たしか高杉、えっと……」


「高杉くんでいいよ。もとは男だから」


「あ、うん、わかった。高杉くん、さっきの話しちょっと聞いちゃったんだけど……」


あぁ、なんだ、面白がって聞き耳立ててたのか。嫌な女の子だなぁ。


「その、私は気味悪いとか思ってないから。だから、あんまり凹まないでね」


「え?」


今なんて? 気のせいだよね? そんなはずがない。だってみんな――。


「えっと、私は大岡愛って言うの。よかったらその……友達とかになってくれないかな?」


「……興味本意とか? それならお断りだけど」


「いや、違うの! 私だってその……誤解されたくないから。友達になったら気味悪いなんて思ってないって証明になるでしょ?」


「まぁ、そりゃそうかもだけど」


「ね、そうでしょ? だから、はい」


差し出された携帯。あれかな? 赤外線通信でメルアド交換とかそんな雰囲気かな?


一応携帯を取り出すか。


「ほら、早く。赤外線でお願いね」


「あ、うん」


「――はい、交換完了! これで友達だよね」


「え? そうなの?」


「そうなの! 少なくともメル友にはなったでしょ? あ、先生着たからまたあとでね! ……あ、あと最後に一つ」


愛は俺の耳を近付けろと促す。仕方ないから耳を寄せる。


「高杉くんとっても可愛いから。きっとみんなすぐに好きになってくれるよ。気味悪がるなんて最初のうちだけだよ」


「……え?」


「ね?」


それを最後に愛は前に向いた。


なにか言い返してやりたかったけど、直ぐに授業が始まってなにも言えなかった。


何より……口角が釣り上がっちゃって言葉を発することが出来なかった。うわぁ……きっと今の俺、とんでもなく間抜けな顔になってるんだろうな?


ダメだダメだ。顔を伏せて寝てしまおう。こんな顔誰にも見せられない。恥ずかしいから!


それにしても……あんなことを言ってきたってことは、俺に気があるのかな? ついに青春到来? よし、よし、よしっ! 中々可愛い子だったし、仲良くしても損はないよね!


初めての友達か……不安だったけど、高校生活なんとかやっていけそうな気がしてきたなあ。なーんだ、あいつなんか全然頼らなくたって大丈夫じゃんか。


さて授業始まる前に寝よう寝よう。へへへ、久々にいい夢見れそう……。

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