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六月二十二日 恋人

あと八日

それで6月終了ですか。

世間はいつの間にか11月…季節外れにもほどがありますね。

「だったら学校を休んでれば大丈夫ですかね…」


「まぁ、それもひとつの手段です。外部からの影響が少なければ少ないほど病気の進行は遅くなりますし、他人に与える影響も減らせますから」


「…でも…せっかく最後の中学生活なのに…別に調子が悪いわけでもないのになにもしないなんて…」


「…学校、好きなんですか」


「…嫌いではないです。というか今から好きになってすがすがしく卒業したいというか…」


「なら…これから言うことはとくに注意していくしかありませんね」








「…はぁ」


意味もなくため息。いや、意味はきっとある。でも、わからないだけだ。


今日だけで百回はしたんじゃないかな?まぁ、大げさだけど。


なんていうか…まさにあれだと思う。胸にぽかんと穴が空いたような…ってやつ。


なんだか、いつもより教室が広く感じるや。


「たーかーすーぎーくん」


「あ、あぁ、愛」


「どうしたの?そんなぼけっとして。やっぱり昨日なにかされたんじゃ…」


「いや、なにもされてないよ。今のあいつに出来ることなんてないから」


まぁ、未遂…はあったけど。あんなのはどうもしないな。


「でもさ、元気ないよ?」


「まぁ、休日なのに休めなかったからね」


「それだけ?」


「うん、それだけ」


「そ、ならよかった」


深く追及しないのは優しさなのかも。


「ねぇねぇ」


「ん?なに?」


「高杉くんってさ、私のこと愛って呼ぶでしょ?」


「あ、うん」


よく考えると女の子を名前で呼ぶって結構勇気いるよね。なんで今までこんなに自然に話せてたんだろ?


「気付いたんだけど、私って高杉くんって名字で呼んでるでしょ?」


「あ、うん…」


「不公平だよね」


「え?」


「だから!友達同士なんだから名前で呼びあうべきだよねってこと!」


友達同士…か。俺はあいつを名前で呼んだことなかったな。


「でも、名字で呼びはじめたのは愛だから俺はなんにも制限してないよ。それなら勝手に変えればよかったのに…」


「そんな言い方しないでよ!ひどいなぁ。私だってタイミングがわからなかったんだから」


「えっ?」


「だってさ、最初に名字で呼んでたから…名前で呼びにくいじゃん。なんか…恥ずかしいもん」


「…じゃあなんでいきなり呼び方変えようって言い始めたの?」


「それは……そんなこといいじゃん!とにかく、前々から名前で呼びあいたいと思ってたの!」


確かに…うれしいけどさ。なんか仲良くなったって感じがして。


「じゃあ、さっそく呼んでみてよ」


「いきなり!?」


「だめなの?呼びたいんじゃなかったっけ?」


「そうだけど…はぁ、高杉くんってたまに無神経なとこあるよね」


「なんでだよ。俺のことはいいからさ、ほら」


「むー、わかったよ」


それに無神経なんてわけないだろ。どうせ最終的には名前で呼びたいんだろうから、ぐずぐずしてたって意味ないじゃん。俺はあたりまえに返しただけ。


うん、無神経なんて…ない。考えてる。いつもちゃんと考えてるんだよ…


「…ほら、どう?やっぱり雰囲気とか変わる?」


「なにが?」


「えぇっ!?聞いてなかったの?もう、最悪!せっかく頑張ったのに!」


「あ、いや…ごめん…」


「そ、そんなに落ち込まなくても…言い過ぎた?私そんなに強く言ったつもりじゃないけど…」


「違うよ、なんか…ごめん」


「もう…いいから、ほら、今度はちゃんと聞いてよ…」


気付くと愛の顔はほとんど触れそうなくらい近くにあった。


「元気だして、陽くん」


「…くん付けじゃあねぇ…」


「ひどい!そこなの?だってそのままだと語呂悪いよ」


「うーん、じゃあそれでいいよ」


「もー…なんでそんなに無関心かなぁ…普通女の子に名前で呼ばれたら少しはどきっとしない?」


そんなものかな?なんか名前で呼ばれたことが普段ないから単純に新鮮だなぁ…くらいの感覚しかないや。


「それとも…私に呼ばれたぐらいじゃなんともないのかな…」


「いや、仲良くしてるって感じはうれしいよ。愛はかわいいからとってもラッキーなことなんだろうって感じはあるよ」


「そんなこと…って!そうじゃなくて!…だめだよ、高杉くん!」


いきなり迫るように顔を近付けてきた!迫真とした表情だ。な、なにがだめなんだろ?


「えっと…なに?」


「だから!女の子に対する反応が鈍くなってるの!」


「そ、そうかな?よくわかんないけど」


「少なくとも私と知り合ったばかりのころはもうちょっと初々しかったよ。女の子には慣れてないって感じで」


「そりゃそうさ。別段女の子と交流があったわけじゃないし。彼女なんか作ったことないし」


別に女の子が嫌いとか苦手なわけじゃないけど、そういうのって高校生になってからが健全じゃないかなぁ…みたいな考えはあったけどね。って、彼女が出来ない言い訳にしかならないか。


こんなんだから彼女さえ作るのもためらっちゃう状況になってしまったんだろうな…女の子になっちゃう彼氏なんか嫌だろうし。


「そうだ。高杉くんいいこと思いついたよ」


「さっきから高杉くんって言ってるけど、もういいの?」


「あ、そうだった…えっと…よ、陽くん、その、さ、女の子に慣れちゃったら男に戻りにくくなっちゃうよね」


「そうかもね…女の子に恋するぐらいじゃないと安心は出来ないかも。あぁ、だから…」


まさに、女の子と付き合えない俺にお似合いな病気かもしれない。


「だからさ、慣れないように刺激を求めればいいんだよ。普段しないような新しいチャレンジ。多分今の高…陽くんは病気の所為で女の子に対する適応力がついちゃってるからとくに、だよ」


「で、どうするの?女の子を見て興奮するようになればいいわけ?」


「嫌な言い方だね。…もっとさ、ロマンチックな感じだよ」


「ロマンチックって…」


「女の子に恋をする。というか試しにしてみればなにか変わるかも」


「そう?なんか違う気が…」


「ほら、そんな感じに女の子に対する執着心が薄れてきてる。それじゃ女の子になっちゃうよ。嫌でしょ?男に戻りたいでしょ?だから…」


ちょっと顔が赤くなってる。少しかわいいかも。そんなにまくしたてて喋るから息が切れちゃったのかな?


「わ、私とさ、恋人になってみようよ」


時間は午後12時30分昼休みどきでまだまだ人はいっぱい。


こんな中でそんな恥ずかしいことよくいえるなぁ。


…ん?恋人になる?女の子同志なのに?


「…どう、かな…め、名案じゃないかな?わ、私と付き合って女の子と一緒にいる楽しみを知ればきっと男に戻る確率が高くなるって」


「でも女の子同志だよ、今は。いやじゃないの?愛は?」


「え?あ、…よ、陽くんのためだよ。私全然平気だから!」


「そ、そう?じゃあ…試してみようかな」


「やった!じゃ、じゃあ…さっそく」


「ん?」


ぎゅっと抱きついてくる愛。


「よろしくね」


本当に恥ずかしくないのかな?まったく…


でも…楽しんでいれば…忘れられるよね。なら…こういうのもいいのかもしれない。


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