六月十七日 友人
「…やっぱりある程度は女として自覚を持たなければいけないってことですか?」
「はい。やはり勝手は変わりますからね。女性として生きていくだけでも危険はつきものですし」
「なんか、嫌ですね…」
「仕方ないですよ。なんせあなたは病気なんですから。病気に善いものなんかあっちゃいけないんです」
「結局昨日も来なかったね」
「うん…」
「さすがに二日間も平和だと落ち着いて来たんじゃない?」
「うん…」
「元気ないね…」
「…」
別に元気がないわけじゃないんだ。ただ、こうも平穏が続くと怖くなってくるだけ。一体あいつは何を考えてるんだろう…って。
「確かにここまで何にもないと私も怖いかな。ひょっとしたら次の作戦を立ててたりして…」
「作戦?」
「この前は無理矢理過ぎたから次は優しくしてあげよう…とか?」
「それって懲りてないよね?」
多分愛なりの冗談だろうな。そういうのは純粋にうれしい。
「あ、ホームルーム始まるよ」
「うん」
「聞いた?」
「あ、うん。聞いたけどさ…」
「なんで今さらなんだろうね」
「いや…楽になったから連絡を学校に入れたとか?」
「なるほど」
まさか、あいつが休んでた理由が風邪だったとはね。あれ?もしかして俺のが移ったからなのか?
「あっ!わかった!高杉くんのが移ったんだよ」
「あはは、俺も同じこと考えてた」
「やっぱり?そうだよね」
「でも…これは自業自得だよね?」
「うんうん。一度痛い目みた方がいいんだよ」
でも俺の風邪もちょっと治りが遅かったからなぁ…あいつもしばらく学校来ないのかも。授業も遅れるし、かなり痛い目になるな。
「…」
「まだ不安なの?」
「あ、いや…なんかつまんないなぁって」
「なにが?」
「えっと…なんか勝手に罰を与えられてる感じがね。どうせなら俺自身があいつに何かしたかったなぁと」
「そんなことしたらまた襲われるよ!」
「そ、そうかな?」
「うんうん。一度あることは二度あるって言うよ」
「なんか違わない?」
「良いんだよこれで!どの道これからは警戒しなくちゃ!」
「…ずっと?」
「そう。彼が風邪を引いてても、怪我だらけになっていてもずっと!」
「う、うん。わかった」
なんだろう…やっぱり釈然としないなぁ…
「ね、ねえ愛?」
「ん?なに?」
「今日さ、あいつの家に行ってみない?」
「えーっ!いきなりなに言いだすの!?」
「あ、いや…さすがに風邪ってのが気になって…だって風邪くらいならメールだって打てるだろうに送ってこないだろ?」
「それは受けに回ってるからじゃない?男の子って基本言われないと謝らないよ?」
「いや、でもさ。ことがことじゃん。俺が警察なりなんなりに訴えたら捕まるくらいだろ?なのにずっと待ってるってのは…」
「その時はその時って思ってるんだと思うけど…」
「でも…」
「結局なにが言いたいの?」
あれ?愛ちょっと怒ってるような気が…俺はただ、あいつがどういう状態なのかを確認して今後の身の周りの警戒に役立てようかな、なんて思ってるわけだから…
「ねえ高杉くん。もしかしてなんだけど…」
「なに?」
「会いたいなんて思ってるわけないよね?」
「えっ…」
それは自分でもないと思う。だってあいつは俺を襲ってきたようなやつだから。
「高杉くんは余計なことをしなくていいんだよ?ただ、彼を無視すればいいんだから」
「えっあ…でも…」
「…はぁ。やっぱりわかってるだね…」
「な、なんのこと?」
「彼のこと」
「…どういう意味?」
「そのままの意味」
そのままってどういう意味かがわからないんだけどなぁ…俺が変なこと言った所為で愛もよくわからないことを言いだしちゃったのか?
「いいよ。行ってみようよ、彼の家」
「え、いいの?」
「うん。でも明日ね。もし明日彼が学校に来なかった場合はさすがに怪しいからってことで」
「あ、うん。わかった!」
「…わかりやすいよ、高杉くんは」
「へ?」
「なんでもない。授業始まるよ」
愛って気になるようなこと言って授業でうまいこと逃げるよな。でも俺がわかりやすいって何がわかったんだろう。まぁ、もういちいち気にはしないけど。
とりあえず明日のことを考えておこう。風邪なんて言ってたのが本当だったとしたら身体の丈夫なあいつのことだからさすがに治るはず。それでも学校に来てなかった場合はこれはきっと何かを企んでるからに違いないんだ。
それを暴くために家に行く。万が一に備えて愛もいるから何かあっても大丈夫なはずだし。
あれだけ俺に酷いことをしたんだから、ちゃんと会ってもう一度謝って欲しいしな。メールですら謝らないなんて非常識にも程がある。
わざわざこっちから出向くのは俺が優しすぎるような気がするけど…まぁ、このまま逃げられるのは恐怖を克服した俺の努力が無下にされるようで嫌だからな。
ふ、明日覚えてろよ…