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六月十五日 他人


「男を異性として見ない?それは元々同性なんだからあたりまえじゃないんですか?」


「そうです。あたりまえのことです。しかし、あなたはしばらく女性として生活しなければいけませんよね?そこで女性としての感性が嫌でも芽生えてくるわけです」


「そういうものなんですか?あまりピンと来ないんですが…」


「そうでしょうね。ですが、自然に男性と接することは難しくなるでしょうし、私としても薦めることはできません」


「でも、異性として見ないほうがいいんですよね?」


「極論はです。しかし、どう言っても身体は異性。そう簡単にはいかないのですよ…」










ピンポーン。


玄関のチャイムが聞こえる。昨日はあれだけ怯えてたのに、今日は全然怖くなんかない。


「よし、準備も出来たし、行きますか!」


玄関へ直行。もちろんそのままドアも勢い良く開けた。


「おはよう!愛!」


「おはよう高杉くん」


たぶん、今日からは楽しい登校になると思う。









「ねぇ、昨日はよく眠れたかな?」


「うん、おかげさまで。今日はもうかなり調子いいよ」


「一応風邪引いてたんだから無理はしちゃだめだよ?辛かったら私にじゃんじゃん頼ってね!」


「あはは、ありがとう」


何年ぶりだろ…こんなに楽しい登校は。思えば中学三年の時も病気になってからは気味悪がって近づいてくれない人が多かったからな…


逆に変に興味を持って近づいてきたやつもいたけど、ほんの少数だった。気を遣ってくれた人もいた。でも、友達と呼べる存在はいなかったと思う。


だから今は…今この時間はずっと求めてきた理想の時なんだ。


「高杉くん」


「ん?なに?」


「一緒に学校行くってなんかいいね。私さ、こういうのって中学ぐらいまでだと思ってた。でも、案外大学とかになっても気持ちいいものかもね」


「そうだね。でも、俺としては愛だから、うれしいんだよ」


「あっ、だったら私も!」


「「ははははっ」」


意味もなく笑えるって、こんなに気持ちいいんだ。










「着いたよ」


「うん…」


「…やっぱり怖い?」


情けない話だとは思う。でも、実際にあいつの顔を見ていて平静を装える自信はないんだ。


「この扉を開けて、教室に入ったら…あいつはいるよね」


「うん、休んでない限りはね」


「ねえ、愛」


「ん?」


「手、握ってもらえるかな?」


「…ふふっ、いいよ」


小さな手、今の俺と同じくらい頼りない。でも、安心する。


「じゃ、開けるよ」


「うん…」


女の子でも今どき手をつないで歩くほどの仲良しは見ない。だから、少しだけみんなからの視線を集めてしまう。


今の俺にとっては誰の視線でもひとつひとつが怖い。だから、愛の手をちょっとだけ強く握り締めた。愛は答えるように握り返してくれた。


それにしても…教室を見回してもあいつの姿は見えないみたいだ。よかった、今日は遅刻なんだ…


安心して席に着くことができた。


「よかったね、高杉くん」


「う、うん。でも、ごめん愛。変に注目されちゃって…」


「あぁ…確かに普段は私も日陰者だからね。ちょっとドキドキしたかな」


「でも…愛が日陰者なんてのは変だよ」


「そんなことはないよ。だって…私、友達いないから」


「えっ?」


「あ、余計なこと言ったかな?心配しないでよ?今は高杉くんが居てくれるから全然寂しくないし」


「そ、そう…」


今はってことは、寂しかったってことじゃんか…なんで、こんないい子なのに、友達がいなかったんだろ。絶対におかしい。


俺がもし女の子として生まれて、女の子として愛と出会っていたら、きっとすぐに友達になれたはず。


「ね、愛」


「ん?」


「これからは寂しくなんて絶対にしないよ。俺がずっと友達だから」


「…そう、だね。ずっと…か」


「愛?」


「高杉くんは、私の心配じゃなくて自分の心配をしてなよ!むしろ私が守らなくちゃならないくらいなんだから!」


「ははは、そうでした…」


頼りがいがある。やっぱり良い奴だ。でも…ちょっとだけ見せた陰りは気になってしまった。


俺自信が、それを埋めることが出来るときはくるのかな…俺も、愛になにかあったら力になりたいなぁ。


まぁ、今は自分のことで精一杯だけど。今だってこれだけ考えれるようになったのは愛が落ち着かせてくれたおかげだし。


愛無しではいられないのかも…


「…こないね、彼」


「うん」


「まぁ、あっちだって気まずいだろうから…ちょっと様子見ってことなのかな?」


「でも、様子見って言ったら普通くるんじゃないの?」


「それは違うよ。たぶん、彼の考える様子見って言うのは高杉くんからのアプローチだろうから」


「俺からの?」


「うん。普通逆に考えるなら高杉くんが学校にくるとは思えないと思わない?」


「そう…かな?うん」


「だから、たぶんメールとかでも待ってすぐにでも家に謝りに行けるよう待機してるんじゃないかな?」


「ほー」


愛って天然に見えて結構考えてるんだなぁ。


「あれ?でも、それじゃ反省してるって前提じゃない?」


「そりゃそうだよ。その…あの時に真っ先に謝ってはいたんでしょ?」


「…あ、うん」


「ごめんね、思い出したくなかった?」


「いや、大丈夫…」


「じゃ続けるよ。だから、高杉くんが今、考えなきゃいけないことはすぐには許さないってこと!」


「うん、許す気は毛頭ないよ」


「そう、それでいいの。簡単に許しちゃったりしたら調子に乗るかもしれないから…まぁ、なんだかんだ言っても彼は大丈夫だと思うけどね…」


「え?」


「なんでもない!とりあえず、しばらくは無視を貫こ!とことん反省させてやろうよ!」


「お、おー!」


そうだ、簡単に許してたまるか!あんな変態となんて二度と口を聞いてやるもんか!


これからは…ずっと愛と一緒にいるんだ。それだけで十分なんだ。

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