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六月十四日 自分

ちょっと短めです

「つまりは男に戻りたいって思っていれば生理とかは来ないんですね?」


「そうですね。それは間違いないと思います。ただ、それを守るためには気をつけて欲しいことがあるんですよ」


「男に戻れるならなんでもやります」


「そうは言っても案外難しいですよ?」


「いいです。勿体ぶらないで教えてください」


「私が注意して欲しいことはですね、言えば単純なんですが…男を異性として見ないことです」












震えていた。もうすっかり朝なのに布団から出られない。


母さんがずっと心配してくれてるけどなにひとつまだ話してない。


ご飯がのどを通らない。それどころか吐いてしまう。


携帯を見るのが怖い。きっとメールは来てると思う。誰からのメールかもだいたい予想はついてる。でも見れない。


昨日から私は変わってしまった。感じ方が大きく変わった。


あいつは男で、今の私は所詮女だ。普段通りに接してたのが間違いだった。あんなに無防備にしていれば誘っているように見えてもしかたない。


あのときあいつがなにを考えていたかなんて想像したくもないけど、きっとあのときあいつは私のことを女として見ていたに違いない。あいつの目は…いつものそれではなかったから。


どんなに男を異性として見てはいけないなんて言われても、あんなことをされてしまったらそう簡単には同性意識なんかできなくなる。


男に戻ってしまえば、こんなことで悩まなくても済むのに…あと半月もあるんだ。


そんなに長く耐えられるだろうか?あいつと一緒の学校で授業を平然とした態度で受けられるだろうか?


そもそも、学校に行けるのだろうか?今の私には…そんな勇気がない。今は…あいつ以外の男に会うことすらままならないかもしれない。


ただ神経質になりすぎているだけかもしれないけど、間違いなく今の私は男を汚れた異性としか見ることができないと思う。


自分とは違う存在なんだ。


今はもともとの自分があんなものと一緒だったと考えるだけでまた吐き気が返ってくる。


もう、戻りたくなくなってきているのかもしれない。上辺だけではずっと戻りたいと思い続けていたけど、本心ではもう自分でもわからない。


怖い。考えれば考えるほど自分が壊れていく。十四日前の私はこんなにも弱かっただろうか?


先生も言ってたけど、確かに私の体は六月に蝕まれているようだ。


明日は学校だ。行きたくない、誰とも会いたくない。


そうだよ、今の私は病人じゃん。学校行かなきゃいけない理由なんてないじゃん。もうずっと休んでしまえばいいんだ。









玄関のチャイムが鳴った気がした。思わず体を縮込めてしまう。声が聞こえるような気がする。たぶん母さんが出たんだ。足音が近づく。きっと家の中に入れたんだ。母さんはどうして私がこんなことになってるかなんてしらないから、元気づけるためとかで平気で通したのかな。鍵閉めてない。入ってくるかも…


いや。来ないで…


「高杉くんいるよね?」


ノックとともに声が聞こえた。勝手に入ってきたりはしないみたい。こっちの反応を待ってるんだ。


「入っていいかな?あ、ちなみに私だよ?愛!」


「愛?」


なんで愛なんかが家に?風邪に対する見舞いなら昨日か一昨日に来るのが普通なはず…


「その…迷惑かもしれないけど…メール返ってこなかったから心配になって。いつもすぐ返してくれてたよね?だからまだ調子が悪いのかなって…」


なんだ、そういうことだったのか。ってことはメールは愛から?


…ホントだ、あいつからは来てない。なんだろうこの気持ちは?安心感なのかな?


「その…入っていいかな?私寂しかったの、ここ数日高杉くんに会えなくて…だからね、顔ぐらいは見せて欲しいな。あっ、気分が悪いなら無理は言わないよ!大人しく帰るから。でも…初めて家に来たんだからちょっとお話も出来ればしたいなぁって…」


「…いいよ、入って」


「いいの?」


「うん。愛って大人しそうに見えて結構強引なとこあるのわかってるから。どうせ、嫌って言ってもホントはなんだかんだ言って帰らないつもりでしょ?」


「ははは…ばれちゃってたか」


「それに…愛なら大丈夫と思うから」


「…高杉くん?」


「入って、鍵かかってないから」


「う、うん」


愛は女の子だ。だから、あんな野蛮な奴とは違うと思う。それに…私がいなくて寂しがってくれるなんてちょっと嬉しかった。だから…今は愛と話してもいい。


「では、失礼します…あ、やっぱ調子悪かったんだね。寝込んでるんだ」


「違うよ元気だから…」


「無理はしなくていいよ。話してくれるだけで十分だから」


「違うんだ…ホントに…ただ…」


「…ねぇ。もしかしてなにかあった?」


「えっ?」


「いつもみたいな元気強さを感じないよ…今の高杉くんからは…」


いつもの私って元気強かったのかな?自分ではわからないけど…でも、今の自分がホントに元気かどうかなんていえない。


「顔を見せて。やっぱり見たい」


「…これでいい?」


「…ひどい顔だね。泣いてたんだ」


すごく直接過ぎてまた泣きそうになる。


「だけど…そんなぐちゃぐちゃに泣きはらした顔でも…やっぱりかわいいよ高杉くんは。でもね、私は笑ってる高杉くんの方が好きだよ?」


「愛…ぐすっ」


「だから…泣き切ってしまおうよ。もう泣けないくらいに。それで…また笑顔を私に見せてよ」


気がつけば私は愛に抱きついていた。私と同じくらい細身の体。それでも…愛は今の私をしっかりと抱きしめてくれた。とても、温かかった。


「高杉くん、泣いてる顔もかわいいよ」


「め、めぐっ…み…」


刹那、私の唇に柔らかいものが触れた。甘い味が…した気がする。


「…」


愛は何も言わなかった。もしかしたら女の子同士の軽いスキンシップみたいなものなのかも。


なぜか、厭らしい気持ちはまったくしなかった。女の子にキスをされたっていうのに。


男としての感覚が…薄れてきている?


でも、今はそんなことがどうでもよくなってきていた。温かさを感じているだけで十分だった。


「ほら、もう涙なんて枯れ果てたでしょ?」


「うん…」


「やっぱり笑顔の高杉くんはいいね。もう泣いたりしちゃだめだよ?」


「うん、わかった」


そして愛は私の頬に伝う涙を指ですくい取ってくれた。そして、その指をなめた!?


「き、汚いよ!」


「大丈夫、高杉くんは汚くなんかないよ。それに…高杉くんの悲しみは私も共有したいから。…なんてね」


どきっとした。今の自分が男としてか、女としてかはわからないけど…確かに胸の小さな高鳴りを感じた。


やばい、ホントに好きになったかもしれない。吊り橋効果かな?


「…ねぇ、よかったらなんで泣いてたのか教えてくれないかな?私、高杉くんの力になりたいから」


「…」


愛になら…愛なら、すべてを預けてもいい気がした。


「…じゃ、じゃあちゃんと聞いてね?…昨日――――」




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