六月十三日 友達
内容はだんだんと進んでいきます。
「…そりゃ、生理なんて来てほしくないですけど…来たらそんなにやばいんですか?」
「ヤバイなんてものじゃないです。前例で言うと、六月中に一度生理が来てしまった人は90パーセント女性で定着してしまっています。そして二度迎えた人は100パーセント。来なかった人は10パーセントです」
「…そんなに…というか来なくても可能性があるじゃないですか…」
「えぇ。どうやら一番重要なのはご自身のメンタルの様ですからね…もし、女だったとしてもいいって思い初めてしまったら…ということです。というよりも生理自体が、自分が女でありたいというサインのようなものらしいです」
まぶしい。ベタな起き方なんて思うかもしれないけど、めざましなんかを使うよりも朝日の方がよく起きられるんだよな。
「んっーはぁ!」
伸びを一回。女の身体だと、なぜか無性にしたくなる。身体が柔らかいからかな?伸びてる実感がある。
実際前屈とかやってみるとかなり違うんだよね…前は指先が床に付くか付かないかぐらいだったのに、今では手のひらぺたんだよ。それだけは女になってのメリットだなって思う。
…って朝からなにを考えてんだ俺は。
それにしても…ずいぶん身体の調子がいい。やっぱり一日中休んでたからかな?すっきりしてる。
でも、寝汗が酷かったからか全身ベトベト…そこだけは気持ち悪い。
「シャワー浴びようかな」
そういや、朝風呂とかも増えたな。いつもだったら決まった時間にしかお風呂なんて入らないのに…最近は入りたいと思ったら入ってる気がする。昨日だって…
ん?昨日…なにかあったような?まぁいいか…
「あぁ…すっきりした!」
朝風呂最高!身体にはあまりよくないって聞いたことあるけど、あんなの嘘だね。やっぱりすっきりするものはいいんだよ。
さて…と、あれ?着替え忘れた。どうしよう。さすがに汗べたのシャツを着るのは気が引けるし…まぁ、誰もいないしそのまま部屋まで取りに行くか。
でも…こんな真っ裸で家の中を歩くなんて…なんか…変な気分だ。タオルくらい巻けばよかったかな?でも、タオルを女巻きするのもなんか…
とん、とん
あれ?足音?
「おい、音がしたけど起きたのか…」
「あっ…」
「「…」」
そうだ…こいつ、昨日泊まっていったんだったじゃんか。これだよ、これを忘れてたんだ…
あれ?俺、今裸だよな?裸で廊下を歩いてて…リビングで寝かせてたあいつが今起きてきて…あっ。
「え、あ、うっわ…す、すまん!!」
バタン!
やつはリビングに帰っていった。…今の内に部屋に帰ろう。
俺、裸見られたのか。
「よお、お前まだいたんだな」
「あ、う、うん…」
「俺、すっかり忘れてたよ。そんなこと忘れててさ、裸で歩いてんの」
「あぁ…」
「しかもさ、その理由が着替えを持ってくるの忘れたからだぞ?バカみたいだろ?せめてタオル巻いときゃよかったかな」
「…」
なんだよ、マジで照れてんのかこいつは。お前ぐらいの男なら女の裸なんていくらでも見てるだろうに…今さら照れられても。
つうか、見られた俺だって恥ずかしいんだから、こっちの気持ちも少しは考えて欲しいっつうの。
本当に、恥ずかしかったんだから。
「あ、の、な?その…すまんな。その…見てしまって」
「いや、俺が考えなしだったから」
やっと喋ってくれたよ。ちょっと安心。
「それに修学旅行とかでは一緒に風呂入ってただろ?今さらだって!まぁ、そりゃ姿は違うけどさ、変わんないさ」
「あ、あぁ、ありがとう」
なんで感謝なんだよ。俺だって間違ったこと言ってるような気がするけど、こんくらいじゃないと気まずいし。
なんで俺が空気読まなくちゃなんねえんだよ。
「ほら、朝飯まだだろ!俺作るから待ってろよ」
「あぁ…」
確かまだ卵があったはずだから、ベーコンエッグを作ろう。
「お前って、ちゃんとエプロンとかするんだな」
空気に耐えかねたのか、あいつは聞いてきた。まぁ、質問ぐらいには答えてやるか。
「そりゃな、いつも料理するときは付けるよ。俺、下手くそだからとくに服汚さないために必要なんだ」
「そうか。うん、似合ってる」
「そいつはどうも。なんなら裸エプロンとかしてやろうか?」
もちろんするつもりはない。ただ、ギャグでも言って場の雰囲気を和まそうかと。
「え…いや、いいよ」
「あ、そう…」
あれ?なんか俺バカみたいじゃん。なに冷静にいいよとか言ってんの?そこはスケベのお前らしくじゃあ頼むぜうへへとか言って貰わないと突っ込めないじゃん!
うわーまた空気が凍ったよ。ひょっとして俺の所為なの?もういいや…
「ほら、ベーコンエッグ、出来たよ」
「おっ、サンキュー…」
「どうしたよ」
「いや、お前、ブラ着けてねえのかよ」
「あ、まぁ…家じゃ着けねえな。なに?興奮してんの?」
いたずらっぽく笑ってやる。なんだ、こいつ純真じゃん意外と。
「うるせえ!女がはしたない格好すんなってんの!裸エプロンよりたちわりいぞ!ノーブラシャツ一枚短パンに、エプロンとか!つうか、全部男もんだろそれ!」
「あ、うん。買うのめんどうだからな。前に言わなかった?」
「いや、聞いたけど。サイズがまったく合ってないから…チラチラ見えんだよ」
「うへ、スケベ!」
「黙れ!」
うひゃー、こいつがこんなにうろたえてんのはじめてみた。普段セクハラ発言してくるわりには大したことねえな。本番に弱いタイプなんだきっと。
なんかこんな調子のこいつ見てると羞恥心とか逆になくなってきたよ。
「はいはい、じゃ気をつけますよ」
「なら着替えてこいよ。それかブラ着けろよ」
「まぁまぁ、飯ぐらい食わせろよ」
「それもそうだな。んじゃいただきます」
「へいへい、どうぞ召し上がれ」
つうか、こいつ目線あわせてくれねえな…からかい過ぎたか。まぁ、着替えてきたらいつもの調子に戻ってくれるだろ。
「ん、うまい」
「そりゃベーコンの上に卵落としただけだからな。素材の味そのものだ」
「いや、でも、味付けしてるじゃねえか」
「塩胡椒振っただけだって。そんな過大評価すんな」
「ふーん。でもうまいには違いねえ。なんだよ、料理出来るじゃないか」
「大したことないって」
「いや、でも俺には出来ないし。すごいよ」
「そ、そうか?」
まぁ、誉められてうれしくないわけないし。ここは正直でいいか。
「あ…ありがとう」
「…やめろよ、そういうの」
「え?」
「いや、素直に照れたりすんなよ。なんか、こっちが恥ずかしい」
「はぁ?お前が俺を喜ばせるために言ったんだろうが!」
「そりゃそうだけどよ、なんか、こう、違うんだよ…なんか焦る」
「わけわかんねえ」
なんか気分悪い。無言で食べてやる。
「ごちそうさま。んじゃ、俺着替えてくるよ。お前が目のやり場に困るみたいだからね」
「あぁ…」
なんだよ、こいつ。戻ったり変になったり。わけわかんねえ。
わけわかんねえ。
「ほら、これでいいだろ?」
ジーパンにさっきよりはサイズの合ったTシャツ。それにちゃんとブラまで着けた。
「あ、あぁ。幾分かましになったよな」
「幾分か?」
これで不満垂れても俺にはどうしようもないんだけど。さすがに夏場なんだからもう一枚なにか着ろとか言われるのは勘弁願いたい。
「…お前さ、女って自覚ある?」
「は?そりゃ肉体は今女のそれだけどさ。あくまで俺は男だ」
「それでもよ、まわりから見たら女なわけだ。それぐらいはわかるだろ?」
「わかってる。そりゃ一応気を付けてだっている。でもさ、ちょっとうっかりだって時もあるだろ?さっきのは俺だって被害者だったんだって」
「…悪かったよ」
「いや、いいけど。お前に見られたぐらいじゃどうとも…」
まぁ、男でも裸は見られて気持ちがいいもんじゃないけどさ。諦めはいいほうなんだよ。
「…今は男寄りか」
「え?」
「お前、たまに自分が女っぽくなるって自覚はあるか?」
こいつからこんな言葉を聞くとは思わなかった。真面目な話をするときのこいつは…なんか怖い。
普段見せてる顔が偽りなんじゃないかって思ってしまう。
「…やっぱりそうなのか?俺自身あまり自覚ない。でもたまにあ、今の俺女の子っぽかったなとか思ったりすることはある」
「今のお前は間違いなく、男よりだと俺は思う。でもお前が女よりの思考をしてる時があるのも事実だ。例えば…いや、やめとこう」
「なんでだよ、気になるじゃん」
「卑怯な気がした」
いつもと考えてることが全然違う。まったく意図がわからない。なにを気にしてるんだろう。
「お前さ、恥ずかしくないとかさっき言ったよな」
「ま、まぁ…似たようなことは言ったかな?」
「だったら…もう一度、全裸になって俺に見せてくれないか?」
「…は?」
なにを言いだすんだこいつは!シリアスに話してると思いきや、そういう乗りか!
「なにを驚いてんだよ、恥ずかしくないんだろ?」
「それとこれとは話が別だろ?男に裸になれっていうのはおかしいだろ」
「今のお前は女だ。俺は女のお前に言ってる」
「…知らねえよ。どのみち嫌だ」
「だったら…」
やつは立ち上がった。立ち上がると身長の差が一気に出る。なぜかとても圧迫感を感じた。
「無理矢理脱がす」
「…えっ?」
…なんだ?なにが起きてる?こいつはなにをいった?
「なっ…なに肩を掴んでんだよ」
「お前、こんなに細かったんだな」
「え…そりゃ女の身体だから」
「肌も白いよな。とっても綺麗な肌してる」
「…そうかもしれないけど」
「もっと、見たくなる」
「はぁ!?」
気が付けば一瞬。俺は床に押し倒されていた。
痛い。ちょっとだけ衝撃が走った。肩を押さえられていて動けない。しかもマウントポジションをとられてる。
「や、やだ…やめっ…」
「無理…」
「嫌だ、なんだよ!怖い、怖い怖い怖い…」
「見るだけだから…。さっきも見せてくれだだろ?」
「あれは不慮の事故…」
いつのまにかシャツが胸のあたりまで捲られていた。もうちょっとでブラジャーが見えてしまう。
今のこいつが…とても怖い。
あれ?なんで?私…泣いてる?
「えっぐ…や、め…うっ、て…」
「…」
問答無用にシャツは捲られた完全に胸が出てしまっている。守っているのは一枚の布だけだ。
「これを外せば…」
「いや!!やめて!!変態!!犯罪者!!!」
「…」
「だいっきらい!!もう、絶交だ!!!」
「うっ!?」
のばしていた手が止まった。
そして肩にかけられていた力も途端に緩められる。
今がチャンスと思い、私は…
バシンッ!!!
「…いっ!!」
思いっきりビンタした。
乗っかってたやつはたじろぎ、私の上から退いた。
直ぐ様私は服を元に戻し我が身を抱いた。彼と距離を取って。
冷静になって思った。裏切られたと。
「帰って」
「…お、俺は…」
「帰ってって言ってんの」
「違うんだ…俺は…」
「絶交。最低。もう顔もみたくない。母さんもなんでこいつなんかを…」
「は、話を聞いて」
「嫌だ!私に近寄らないで!」
「いや、だってお前…」
「近寄らないで…お願い…」
「…わかった、ごめん」
なんであんなことをしてきたんだろう。なんであんなことになっちゃったんだろう。
静かに彼は帰っていった。
身体の震えが止まらない。今まで同じ性別だった彼から、初めて恐怖というものを感じた。
それと同時に、とてつもない虚無感を味わった。
なんなの?これは?
ねぇ…なんなんだよ…
わけもわからず過ぎてしまった時間。
今日は、最悪の一日だった。