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死に戻りの皇妃は困惑中~私を殺せと命じたはずの夫がなぜか執着強めな過保護ヤンデレと化した件~  作者: 桜祈理


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5 後宮生活の激変

 三日間の(実質)軟禁生活を終えた私が自室の外に出ると、後宮の様子は一変していた。


 有り体にいうと、後宮全体がざわついている。


 後宮とは、広大な皇宮の敷地内に建てられた皇帝陛下や私たち皇妃が暮らす生活の場、いわゆる居住区域である。


 慣例として、皇妃一人ひとりには専用の『宮』が与えられている。


 ルクレツィア様には『紅玉宮』、ユスティナ様は『琥珀宮』、カリスタ様は『翡翠宮』、そして私には『水晶宮』が与えられ、基本的にはみんなそれぞれ自分の宮の中で暮らしている。


 私たち皇妃が自分の宮から出るのは、公式行事や皇室主催の祭事のとき、それと皇妃の誰かがお互いの交流のために時々開くお茶会の場くらいである。たまに高位貴族のご夫人方が主催するお茶会に招待されることもあるけど、そんな機会はさほど多くない。


 だから私たちが日常生活の中でばったり鉢合わせる、なんてことも、ほとんどない。


 でもそれぞれの宮に勤める侍女や使用人たちは、仕事の合間の交流ややり取りを禁じられているわけではないから、わりと頻繁に情報交換し合っていると聞く。


 その結果、入宮早々私がリナルド様の激重な寵愛を受けているという事実が、あっという間に後宮全体へと知れ渡ることになったのだ。


 なんだか、居たたまれない。


 そして、使用人たちの視線が痛い。


 一部の使用人からは嫌悪や嫉妬、反発といった悪意ある視線を感じることもあるけれど、ほとんどの使用人からは、むしろ安堵とか敬慕とか、ともすれば尊敬とか、そういった類の視線を感じることが多い。


 まったくもって、どういう顔をしていいかわからない。


 だいたい、前回と今回のリナルド様の『中身』が違い過ぎるのよ。はっきり言って、大問題だと思う。回帰前はあれだけ私たちを放置していたくせに、この激変ぶりは何なの?



 もしかして、見た目はリナルド様だけど、中身は別人とか?



 まあ、十分あり得る話ではある。一度死んで、三年前に回帰するなんて信じられない現象を体験しちゃっている私からしたら、これ以上何か起こったところで「さもありなん」としか思えない。


 ちなみに、ここまでリナルド様の『中身』が回帰前と違っているということは、ほかの皇妃たちとの初夜もばっちり過ごしたのでは? などと考えたのだけど、見事に違った。


 使用人たちにそれとなく聞いてみたら、「陛下はこれまでほかの宮に興味を示すことすらなく、もはや女性に興味がないのだろうとみんな諦めていたのです」などと言われてしまったし、リナルド様本人にも「俺はこんなにもお前しか見ていないというのに、俺の想いは一向に伝わっていないようだな」とか言われて、また大変な目に遭った。失言だった。やばかった。


 そんなこんなで想定外の溺愛生活が始まってしまったものの、だからといってリナルド様への疑念までもが払拭されたわけではない。


 一度殺されて、三年前に回帰して、もう後宮とはかかわらない人生を歩もうと決意した途端、出鼻をくじかれるような事態に追い込まれているのだもの。


 こんなときこそ、生き延びるための冷静な判断と臨機応変な立ち回りが必要になってくるのではなかろうか。


 と真面目に考えた私は、前回と今回との「相違点」について、ひとまず書き記してみた。



 ・ 相違点その一……輿入れの時期が一年以上早まっていること


 ・ 相違点その二……アルベルト殿下がご存命であること


 ・ 相違点その三……リナルド様が私だけを寵愛していること



 書いてみたら書いてみたで、「相違点その三」の破壊力が半端ない……!!



 リナルド様は初夜のとき、幼い頃からずっと私のことを想っていて、だからこそ輿入れの時期を早めた、と明言していた。今回のリナルド様は、初めて会って言葉を交わしたあの日からずっと、私に恋情を抱いていたらしい。


 何度もいうけど、正直信じられない。


 でもこの際、リナルド様の気持ちの真偽や態度の変化については、ちょっと置いておきたい。


 なぜなら、今一番気になるのは「相違点その二」だからだ。


 回帰前の時間では、とっくに亡くなっているはずのアルベルト殿下。


 先帝暗殺の濡れ衣を着せられ処刑されたアルベルト殿下が、なぜ今回は生きているのだろう。何があったというのだろう。


 どういうわけか、その辺りの記憶に関してはすっぽりと抜け落ちている。というか、なぜか回帰前の記憶しかない。


 でも、アルベルト殿下が生きているということは、先帝の暗殺事件が回帰前とは違った結末を迎えたということよね……?


 だったら、暗殺事件の顛末について、知っておく必要がある。


 ただ、後宮の使用人たちに尋ねたところで「口にするのも畏れ多いことですから」なんて言われて、何も教えてもらえない可能性が高い。とっくに終わったことを蒸し返して、変な勘ぐりをされても困るし。


 どうしたものかと考えあぐねていた私に、いよいよある手紙が届くのである。






◇・◇・◇






「お茶会の誘い?」


 なぜか刺すような尖った視線で、リナルド様は私が差し出した手紙に目を向けた。


 ちなみに初夜以降、リナルド様は毎晩私の自室に顔を出している。というか、私のいる水晶宮に帰ってくる、と言ったほうが正しいかもしれない。


 自分の宮である金剛宮に帰ることはなく、執務が終わるとすぐさま水晶宮を訪れ、私の自室で過ごすのが日常になっているリナルド様。いいのか、それで。


「ルクレツィア様が私の後宮入りを歓迎したいとのことで、ほかの皇妃の方々もお誘いしたそうなのです」

「……第一皇妃か……」


 忌々しげにつぶやいたリナルド様は、眉間に何本ものしわを寄せている。


 かくいう私も、招待状の送り主がルクレツィア様だとわかった瞬間、思わず「うげっ」などと皇妃らしからぬ反応をしてしまった。


 だいたい、後宮入りしてまだまもないというのに、こんなにも早くお茶会の招待状が届くとは思わなかったんだもの。回帰前は、もう少しあとになってからのお誘いだったはずである。


 恐らく、入宮した途端リナルド様の寵愛を独り占めしている私を、ルクレツィア様もおいそれと容認することはできなかったのだろう。


 私という人間を直接自分の目で確かめたうえで、何かしら難癖をつけるとか自分の優位性を誇示するとか、卑劣な言動でやり込めるとかしないと気が済まないと思ったに違いない。



 ほんと、いい迷惑なんですけど。


 

 本来なら、ルクレツィア様とのかかわりなんて極力避けたいところではある。


 でも今回に限っては、そうも言っていられない。生き延びるためには情報収集が必要だし、皇妃同士のお茶会なら、話の持っていきようによっては先帝暗殺事件に関する情報を引き出せるかもしれないのだ。


 そんな私の魂胆など知る由もないリナルド様は、どういうわけか場違いなほど深刻そうな顔をしていた。


「……行くつもりなのか?」

「断る理由がありませんし」

「確かに、第一皇妃がほかの皇妃を招いたお茶会を頻繁に開いているという報告は受けている。だがお前はまだ来たばかりだし、無理に誘いを受けずとも……」

「来たばかりだからこそ、ほかの皇妃の方々とも交流を深めたほうがいいのではと思ったのですよ」


 嘘である。


 できればユスティナ様以外の皇妃とは、交流なんか持ちたくない。何をされるか、何を言われるか、簡単に想像できてしまうから。


 でも、逃げてばかりもいられない。防戦一方では、多分生き残れない気がする。


「……俺はお前が心配なんだよ」


 やけに真剣な表情をするリナルド様の腕が、するりと伸びてきた。


 有無を言わさず私を抱き寄せながらも、その目にはなぜか切羽詰まったような不穏な感情が見え隠れする。


「……心配? 何がですか?」

「お茶会の主催者である第一皇妃は、性格に問題があるからな」


 おっと。


 だいぶストレートな物言いが炸裂した。


 というか、リナルド様も知っていたのだろうか。


「第一皇妃は苛烈でわがままで自己主張も思い込みも激しくて、なんでも自分が一番でないと許せない(たち)なんだよ。だから頻繁にお茶会を開いては、上から目線でほかの皇妃たちを貶め牽制しているらしいんだ」


 なんだ。意外によく知っていらっしゃる。


 ほぼ放置状態ではあったけど、皇妃に関する情報は思った以上にしっかりと把握していたのだろうか。


 それとも、今回に限ってのこと……?


「そんなところにヴィアが行ったら、何を言われるかわかったもんじゃないだろ」


 心底心配しているらしい不安げな目をして、リナルド様は私の首元に顔を埋める。


「お前には、これ以上嫌な思いをしてほしくないんだよ」

「……え?」

「俺だって、自分のわがままでお前を無理やりここに縛りつけている自覚はある。だからこそ、お前が傷ついたりつらい思いをしたりするかもしれない機会を、黙って見過ごすわけがないだろう? お前を傷つけるものは、全部俺に排除させてくれよ」


 その声には、どこか思い詰めたような、祈りにも似た切実な響きがあって、私はそれ以上何も言えなかった。










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