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死に戻りの皇妃は困惑中~私を殺せと命じたはずの夫がなぜか執着強めな過保護ヤンデレと化した件~  作者: 桜祈理


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4 なんでこうなった?

「……え? へ、陛下……?」


 目の前の光景が信じられず、私は陛下をまじまじと見返してしまう。



 なななななんで? なんで陛下が?



 前回の初夜は来なかったから、今回だって来るわけないと高を括っていたのに。



 な、何しにきたの……?



 私の動揺を察したのか、陛下はふっと小さく笑う。


「……驚いたか?」



 ……当たり前でしょう!!



 などと言えるわけもなく、私は曖昧に笑いながら「……ええ」とだけ答える。


「……話をするのは、久しぶりだな」


 そう言って、部屋に入ってきた陛下はしれっと私の隣に座った。


 なんだか、やけに距離が近い気がする。


「皇宮の中庭で、子猫を見つけたとき以来か?」

「……覚えていらっしゃるのですか?」

「まあな」

「あの子猫は、アルベルト殿下付きの侍女が引き取ったとお聞きしましたが」

「今も元気だぞ。今度、連れてきてやるよ」

「え?」



 ……だから、なんで?



 不躾な問いが口元まで出かかって、慌てて飲み込む。


 だって、なんの前触れもなく現れた陛下に、違和感しかないのだもの。回帰前ですら、こんなふうに至近距離で話したことなどなかったというのに。


 そもそも前回の時間の中で、陛下がルクレツィア様に私の殺害を命じたらしいという疑惑はまだ残っているのだ。


 ルクレツィア様の言葉がいくら腑に落ちないとはいえ、陛下への疑いがまったくなくなったわけではない。


 陛下の命がなかったら、ルクレツィア様だってあんな凶行に走るようなことはしなかっただろうし。ほかでもない陛下の望みだったからこそ、ルクレツィア様は率先して動いたのでは?


 となると、やっぱり陛下とルクレツィア様は現状最も警戒すべき人物であり、できる限りかかわりを持たずにやり過ごしたい相手なのである。


 そんな私の疑念や不信感に気づく様子もない皇帝陛下は、ますます、しれっと、距離を詰める。


「フラヴィア」

「は、はい」

「俺のことは、名前で呼んでくれないか?」

「……はい?」

「リナルド、と呼んでほしい」


 そう言って、陛下は私の手にそっと触れたかと思うと、ちゅ、と指先に口づけた。



 …………ははははいぃぃぃぃ!?



 な、な、何を仰っているんですか、この人は……!!



 名前呼びしろって!? だから、なんで!? ていうか、なんでいきなりキスするの!!??



 混乱に次ぐ混乱でおたおたと慌てふためく私を見つめる陛下の瞳に、甘やかな熱が宿る。


「可愛いな、フラヴィア」

「へっ!?」

「可愛すぎる」


 色気だだ漏れの声が耳元をかすめたかと思うと、私の唇は唐突に塞がれていた。


 ついばむような優しいキスは次第に長く深くなり、私はすぐに呼吸が覚束なくなっていく。それでも陛下は何度も角度を変えて唇を重ね合わせ、逃げる隙を与えてはくれない。


「はぁ……」


 ようやく唇が離れた瞬間、思わずこぼれた甘いため息に陛下が微笑む。


 と同時に、私は柔らかく押し倒されていた。


「え……?」

「……フラヴィア」


 つぶやいた陛下の唇がまたしても私の唇を塞いでしまうから、抗議の言葉も疑問の言葉も発することができない。


 執拗な口づけにだんだん思考さえも溶けていって、自分の身に何が起こっているのか判然としなくなる。


 やがて陛下は軽々と私を抱き上げ、すたすたと歩き出した。


「え?」


 気づけば、ベッドの上である。


「え?」


 私に覆いかぶさる陛下を見上げて、ようやく我に返った私はすかさず叫んでいた。


「へ、陛下!!」

「……なんだ?」


 どういうわけか、ちょっと不機嫌そうな声が返ってくる。


「あの! ひ、一つ、お聞きしたいことが……!」

「どうした?」

「も、もしやとは思うのですが、陛下はその、何をなさるおつもりで――」

「お前を抱くつもりだが」


 平然と、涼しい顔で、さも当然といった様子の陛下に、驚きすぎて声も出せない。


「初夜なのに、お前を抱かないなんて選択肢はないだろう? どれだけ待ったと思ってるんだ?」

「え? い、いや、でも……!」

「輿入れの時期を大幅に早めたことで、俺の気持ちはとっくに察してくれていると思っていたんだがな」

「陛下のお気持ち、ですか……?」

「……リナルドと呼べ、と言っただろ」


 ちょっと拗ねたような、それでいてねだるような視線に、抗える人間なんているのだろうか?(多分いない)


「……リ、リナルド様のお気持ち、とは……?」

「フラヴィアを愛している」


 瞬時に断言されて、あり得ないくらいに心臓が跳ねた。


「そ、それ、は……」

「信じられないのも無理はない。これまでお前との接点はほとんどなかったからな。だが言葉は交わさずとも、俺の心の中にはいつもお前がいた。初めて会った、あの日からずっと」


 言葉だけなら、これは史上最強の熱烈な愛の告白である。


 でも、俄かには信じられない。信じられるわけがない。


 だって、ルクレツィア様の言葉を鵜呑みにするつもりはないけど、陛下が求めているのはルクレツィア様だけなんじゃなかったの……!?


 そもそも、回帰前の冷遇生活や殺害指示疑惑を考えれば、陛下の気持ちを信じろというほうが無理である。


 そんな私の困惑を知ってか知らずか、陛下は真剣な顔をしてこう言った。


「お前の気持ちを無視したくはないが、後宮(ここ)へ来た以上、お前はもう俺のものだ。手放すつもりはないから、潔く諦めろ」


 強い口調とは真逆の優しいキスがまた絶え間なく降ってきて、私は再び身も心も翻弄されてしまう。


 そのまま朝が来るまで、リナルド様は貪るように私を食らい尽くしたのだった。






◇・◇・◇






 誰かが私の髪を、優しく撫でている。


 その心地よさにうっとりしながら、ゆっくりと目を開ける。


 そして、息を呑んだ。


「へ、陛下……!」

「起きたのか? ヴィア」


 目の前でにっこりと微笑むのは、全裸の(!)皇帝陛下である。


 なぜ全裸!? と驚いて、昨夜のあれやこれやが即座に脳内を駆け巡って、いや、正確にいうと途中から意識がないというか記憶がないのだけど、だからなんで陛下が私を愛称呼びしているのかも全然覚えていないのだけど、とにかく恥ずかしさのあまり私はもう一度眠ってしまいたくなった。


 でもこういうときに、都合よく意識を手放すスキルなど持ち合わせてはいない。


「お、おはようございます、陛下……」

「リナルドと呼べ、と言っただろう?」


 あくまでも名前呼びにこだわりながら、陛下、いやリナルド様は、愛おしげに私の髪を撫でる。


「体は大丈夫か?」


 気遣うように私の顔を覗き込むリナルド様の言葉で、全身の血が一気に顔面へと集中した。爆発したかと思うほど。


「た、多分、大丈夫、かと……」

「お前が俺の腕の中にいて、俺の手であられもなく乱れていると思うと、自制が利かなくなってな。悪かった」


 そう言って、私の額にキスをする、リナルド様。



 ……ちょ、ちょっと、待って……!



 そそそういうことを、恥ずかしげもなく言うような人だった!?



 なんなのこの、空前絶後の甘々展開は!!??



 目覚めたばかりで軽くパニック状態に陥る私を眺めて、リナルド様はやけに満足そうである。


「食事はあとで部屋に持ってこさせるし、眠いならまだ寝ててもいいんだぞ」

「……は、はあ……」

「俺もそばにいるから、安心しろ」

「……え」

「お前の輿入れに合わせて、三日間の休暇をもぎ取ったからな」


 だんだんいちいち驚くことに疲れてきた私は、「そ、そうなのですね……」と言いながら薄く笑ってみる。



 回帰前とはまったく違う怒涛の展開に、私の頭の中はすでにキャパオーバー、思考回路は停止寸前だった。やっぱりもう一度寝てしまいたい。寝られそうにないけど。




 それから三日間、私はリナルド様に激重な愛を注がれ続け、その合間合間に甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、ベッドの上の住人と化したのだ。













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