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死に戻りの皇妃は困惑中~私を殺せと命じたはずの夫がなぜか執着強めな過保護ヤンデレと化した件~  作者: 桜祈理


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26 断罪のとき②

「ああぁぁぁぁ!!」


 突然大声をあげてその場に泣き崩れた侍女に、ユスティナ様ははっきりと怯んだ。


「え……?」

「安心しろ。約束通り、お前の家族は帝国が無事に保護した」

「あ、ありがとうございます……! 皇帝陛下……!」


 リナルド様が声をかけると、侍女は安堵したように一層泣きじゃくる。それを見たキシルが即座に寄り添って、侍女を優しく宥める。


「ようやく出番ですか。待ちくたびれましたよ」


 隣室に控えていたアルベルト殿下も当たり前のように乱入してくるものだから、ユスティナ様はあからさまに狼狽えた。


「こ、これは、いったい……?」

「わからないか? お前らの悪事はとっくに全部バレてるんだよ」

「え……?」

「お前が密かにダロッセを栽培していたことも、その毒を使ってヴィアを殺害しようとしていたことも、すべてはお前の母国カッシアンが企てた陰謀で、いずれこの国に再び攻め入ろうとしていたことも、全部な」


 有無を言わさぬリナルド様の圧に、ユスティナ様はぴしりと顔を強張らせる。


「……陛下まで、いったい何を仰るのですか……?」

「ほう。意外に往生際が悪いのですね」


 アルベルト殿下は煽るようにそう言って、ふふん、とほくそ笑んだ。


「この期に及んで、逃げ切れるとは思わないことですよ、ユスティナ様」

「ですから、いったい何を――」

「すべてはこの、大いなる古代魔法文明の遺産でもある魔導具が、一言一句記録してあるのですからね……!」


 妙にもったいぶった口調で言いながら、アルベルト殿下は胸ポケットからさっと何かを取り出した。


 それは、小さな丸いメダルのような形をした、黒い物体。


「……は? 魔導具……?」

「そうです。帝国皇家にはですね、古代魔法文明の遺産ともいえる魔導具が数多く残されているのですよ。これはその一つでして、会話などの音声をそのまま記録し、保存できる代物なのです」

「……か、会話を、保存……?」

「ええ。実は先日の琥珀宮でのお茶会の際、ラリッサに命じてこの魔導具をあなたの自室に仕掛けさせてもらったのですよ」


 驚いたユスティナ様がラリッサに目を向けると、「ダロッセの鉢植えの底に隠しました」なんていけしゃあしゃあと応えるラリッサ。


「ああ、でもですね、さすがになんでもかんでも録音するというのはデリカシーがなさすぎるといいますか、プライバシーや人権を侵害することにもなりかねませんでしょう? 僕だってあなたの会話の一部始終を逐一確認しようと思うほど狂気じみた人間ではないつもりなんですけど、なんとこの魔導具、予め設定しておいた単語が会話の中で検出されたときにのみ録音が開始されるという前代未聞の機能を保持したとんでもない魔導具なのですよ……!」


 魔導具の説明になった途端、信じられないほどの熱量を発揮して早口かつテンション高めに語り出したアルベルト殿下に、ユスティナ様はちょっと呆気に取られている。無理もない。


 古代魔法と魔導具の話になったら止まらない人だから、大目に見てあげてほしい。


「会話の記録にあたり、予め設定した単語は『ダロッセ』『毒』『フラヴィア』の三つです。このうちのどれかの単語が発せられた瞬間、その数秒前から会話が録音されるような仕組みになっています。まあ、百聞は一見に如かずといいますし、どんな会話が録音されたのか実際にお聞かせいたしましょう」


 言いながら、アルベルト殿下は手にしていた魔導具を何やら操作した。


 そうして数秒後、聞こえてきたのは――――



『……このダロッセの毒を、フラヴィア様のティーカップに一、二滴たらすだけよ。そんなに難しいことじゃないでしょう?』

『……で、でも、ユスティナ様。そんなことをしたら、フラヴィア殿下は……』

『なあに? もしかして、わたくしの言うことが聞けないとでもいうのかしら? あなたの家族がどうなってもいいの?』

『それは、それだけは、おやめください!』

『そうでしょう? あなたのご家族、母国の領地に半ば監禁状態なのよね? お父様からも、家族の命が惜しかったらわたくしの指示に従うようにと言われているのでしょう? 言うことを聞かないと、カッシアンの軍隊があなたの領地に向かうことになるのだけど……?』

『わか、わかりました! 仰る通りにいたします! フラヴィア殿下のティーカップにダロッセの毒を混ぜれば、家族は助けていただけるのですね?』

『ふふ。うまくいったら、あなたの家族のことは直接お父様にお願いしてあげてもいいわよ? フラヴィア様が死ねば後宮廃止の話はなくなるでしょうし、寵妃を失って悲しみに暮れる陛下をお慰めして骨抜きにする絶好のチャンスですもの。お父様たちは戦争だのなんだのときな臭いことを画策しているようだけれど、いずれにしてもフラヴィア様を殺さなきゃ始まらない話ですからね』

『……あ、ありがとうございます……』

『わたくしとしてはね、丹精込めて育てたダロッセから自分で抽出した毒が、いったいどれほどのものなのかこの目で確かめてみたいだけなのよ。ああ、水晶宮でのお茶会が待ち遠しいわ。フラヴィア様はどんなふうに死んでくれるのかしら。ふふ』



 音声の再生が終わった瞬間、部屋を満たしたのはなんとも不気味な静寂だった。



 私たちは五人とも、実はこの会話を事前に確認している。だから、聞くのは二度目である。



 二度目だけど、知ってはいたんだけど、改めて聞いても相当やばい内容じゃない……!?



 あの穏やかで気遣いに長けたユスティナ様が、心の中ではこんなに不穏で物騒なことを考えていたなんて……!!



 もう、やばいとしか言いようがない。あまりの衝撃で語彙が死滅してしまう。



 ちなみに、一度目に聞いたときの衝撃と動揺はもっとひどかった。


 五人全員で一緒に聞いたのだけど、ラリッサとキシルはユスティナ様の二面性に「(こわ)っ!!」と恐れ戦き、アルベルト殿下は「化けの皮が剥がれるとは、まさにこのことですね!」となぜか小躍りし、リナルド様はほぼ条件反射のように「今すぐ血祭りにあげてやる!」と部屋を飛び出していきそうになったから全力で止めたのだ。


 私自身はといえば、もちろんショックではあった。前回の後宮生活で唯一心を許した相手が、まさかここまで下衆な悪党だったなんて思いもしなかったから。


 でも、あまりにもショックすぎたのか、なんかもう一周回って、こんなやばい人には絶対に殺されたくないという闘志が沸々と湧いてきたのだ。


 むしろ意表を突いて出し抜いて、思い切りぎゃふんと言わせてやりたい……!


 幸いにも今回の私には、それを可能にしてくれる『ドリームチーム』ともいうべき心強い味方がいる。『死神』と謳われた帝国皇帝に諜報部隊出身の護衛騎士、毒の知識や医学的素養に優れた侍医と、古代魔法オタク。



 ……こうして並べてみると、アルベルト殿下だけはすごいのかなんなのかよくわからないけど。



「さて、ユスティナ様」


 挑むような目をするアルベルト殿下は、悠然とユスティナ様に近づいた。


 最も聞かれてはいけない決定的な会話を記録されていたと知ったユスティナ様は、文字通り顔面蒼白になっている。


「これでおわかりいただけましたよね? あなたにはもう、逃げ道など残されてはいないのですよ」


 とどめを刺すような鋭い声に、ユスティナ様はわなわなと震え出す。


「ただですね、我々としては、もう一つあなたに確認したいことがあるのです」


 そう言ったアルベルト殿下が、リナルド様顔負けのとんでもない殺気を瞬時に纏った。


「カッシアン王家がダロッセの毒を手にしていたのなら、先帝陛下暗殺の真の黒幕もあなたがただったのではありませんか?」










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