秘儀の囁きと炎の誓い
夜の学園。
その一室に光が灯る。
セレナの従者の女生徒は、セレナを抱えたまま、学園の校舎内のある一室に運び込む。
「ここは、王家の方々が学園を訪問した際に利用される特別室です。ここなら学園の者が来ることはないでしょう」
女生徒はそう言うと、部屋の奥にあるベッドにセレナを寝かせる。
「魔力が完全になくなっていますね。姫様、またあのお力を使ったのですね」
女生徒は、セレナの手を握ると魔力を繋いだ手へと集中させる。
集中させた魔力は、繋いだ手を通じてセレナへと魔力が供給される。
――魔力譲渡。
魔力は通常手段では、自然回復しか存在しない。
しかし、魔力の操作に長けた者は、他者に魔力を譲渡することができる。
目の前の女生徒は、セレナへと魔力を譲渡しているのだ。
女生徒が手を離した時には、セレナの顔色は先ほどよりもよくなっていた。
魔力譲渡を終えた女生徒は、レヴァンへと向き直り、
「では、事情を聞かせてもらいましょうか」
と言う。
レヴァンと女生徒は、部屋の中央にある椅子にテーブルを隔てて座る。
レヴァンは、自分が魔力暴走が原因で謹慎中であること、克服するために夜に寮を抜け出して訓練していたこと。
そこにセレナが居合わせたこと。
突如魔獣が現れて襲われたこと。
自分が対処しようとしたが、魔力を暴走させそうになり、セレナが特殊な魔法で魔獣を仕留めたことなどを説明した。
説明が終わると、女生徒はため息をつき、
「やはり、あの光は姫様の魔法でしたか。まさか、王都に魔獣が出現するとは・・・。これは流石に陛下に報告しないわけにはいかなくなりましたね」
レヴァンは女生徒の言葉を聞き、疑問に思っていたことを質問してみる。
「あの魔法はいったいなんですか?」
それに対し、女生徒は言う。
「それは、私の口からは言えない。君も、今日見たことは忘れたほうがいい」
そんな時、ベッドの方から声が聞こえる。
「・・・ミーシャ?」
セレナが目覚めた。
目覚めたセレナは、体を起こして女生徒、ミーシャの名前を呼んだ。
「姫様、お目覚めになりましたか。事情を聴かなければいけないので、彼に同行を求めましたが、流石に姫様のお部屋に入れることはできないので、学園の特別室へお運びいたしました」
セレナにミーシャがそう説明するとセレナは、
「そう、ありがとう。それでね、彼と、レヴァン君と二人で話がしたいの。少しだけ、席を外してもらえる?」
とセレナが言うと、ミーシャは慌てて答える。
「それはいけません。姫様、ご自身のお立場を考えてください。彼は、平民の上に男です」
セレナは静かに答える。
「ミーシャ、お願いよ。彼は私を勇敢にも助けようとしてくれた人です。貴女の心配するようなことはありません」
それでもミーシャは拒もうとする。
「しかし、姫様――」
「ミーシャ、私のお願い、聞いてくれないの?」
セレナの言葉に、ミーシャは言葉を詰まらせる。
渋々ミーシャは了承した。
「かしこまりました。しかし、もし何かありましたら――」
「ミーシャ」
セレナの圧が飛ぶ。
「かしこまりました」
ミーシャが部屋を出る際、レヴァンの方へと目を向け、
「おい、レヴァンとやら。姫様に何かしたら・・・、分かるな?」
とだけ言い放って、部屋を出て行った。
セレナはレヴァンに、ベッドの横の椅子を勧めた。
「ごめんなさい、驚かせてしまったわね。あの魔法、反動が大きいから・・・」
レヴァンはセレナの弱った姿を見て、心が痛んだ。
魔力は譲渡によってある程度回復しているとはいっても、一度はすっからかんになってしまった。
譲渡された魔力も、セレナ本来の保有魔力から考えれば、微々たるもの。
顔色もよくなったとは言え、今だ本調子ではない。
セレナは続けた。
「あなたは、過去の家族を守れなかったという自責の念で魔法が暴走するのね。魔法にはイメージが大事なの。あなたは、大きな炎をイメージをする際に、無意識に過去の・・・村を焼いてしまった記憶とリンクさせてしまっているのね。だとしたら、詠唱を試してみて。魔法と村との記憶を切り離す必要があると思うの」
そう言って、セレナは手を出す。
「≪ウォーターボール≫」
その詠唱と共に、セレナの手の上にこぶし大の水の塊が出現する。
「≪エヴァポレーション≫」
セレナがそう詠唱すると、生成された水の塊は、綺麗さっぱり消え去った。
「詠唱によって、魔法で起こる事象だけをイメージさせることができる。これなら、記憶とリンクさせることなく魔法が行使できると思うの。私も、あの魔法を使う時は詠唱を使用しているの。水魔法みたいに、イメージしやすいものなら詠唱がなくても使えるんですけどね」
セレナの言う『あの魔法』とは、魔獣を屠った魔法のことである。
そのことに気づいたレヴァンは、セレナへと質問する。
「セレナ、様、あの魔法はいったい何なんですか?」
セレナは笑みを浮かべると、
「セレナでいいですよ。あなたには、そう呼んでもらいたい。あと、敬語も不要です。流石に、公式の場では周囲の目もありますが、私と二人の時は、敬語もなしでお願いします」
レヴァンは困惑した。
これまで会ってきた貴族たちは、平民である自分にここまで好意的に接してくれた人はいなかった。
「セレナ様、それは流石にダメだと思いますが――」
レヴァンがそう言うとセレナは困ったような表情を浮かべる。
「私からのお願いです。どうか、セレナとお呼びください」
セレナからのお願いからは、妙な力を感じさせた。
「わかり、分かったよ、セレナ」
レヴァンがそう言うと、セレナは笑みを浮かべた。
「はい。それで、あの魔法についてですね。あれは、王家に伝わる秘術、『ギガント・リンムス』という魔法です。属性は不明ですが、王家の血脈を継ぐ者が発現する力みたいです。ただ、魔力の消費が激しく、一日に一度ほどしか使用ができません。属性が不明な点と、どのような事象を起こしているのか分からないので、詠唱を使用して、発動イメージを構築しています。あなたもできると思うの。やってみて」
レヴァンは頷き、試す。
「≪ファイア≫」
小さな炎が灯る。
セレナのアドバイスで、徐々に制御が安定する。
「ありがとう、セレナ」
セレナは微笑んだ。
その後は、他愛ない話をした。
長時間放置されていたミーシャが怒鳴り込んでくるまで。
――それから2日後。
レヴァンの下へと学園から通達が下った。
明日、闘技場にて試験を行う。
中規模の魔法を使って暴走を起こさず、しっかりと制御ができていれば、学園への復帰を許可するとの内容だった。
後日、レヴァンは試験を受けるために、学園の闘技場へと向かうのだった。




