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叛火の遺産〈リベルファイア〉  作者: 夏影 識
第1章
7/11

灰の焔と光の腕

 夜の森は、月明りに照らされていた。

レヴァンは膝をついたまま、息を荒げていた。

抑えきれない炎の余韻が、手のひらでぽうと揺れる。


「見つかってしまいましたね」


 木陰から現れた少女は、そう言いながらレヴァンへ近づく。

銀の髪が月光を浴びて輝く。

優雅な制服を着た、見たことのない美しい少女。


「あなたの魔法からは、キラキラした光と黒く淀んだ()()()を感じます。一体、あなたは何を抱えているのですか?」


 少女の言葉は、穏やかで、どこか優しかった。

レヴァンは言葉を失った。

誰も、自分の炎をそんな風に言ったことはなかった。


 怖がるか、嘲笑うか。

それだけだった。

だが、この少女は違う。

 

 レヴァンは、ゆっくりと立ち上がった。


「・・・どうして、そんなことを」


 少女は微笑んだ。


「申し遅れました。(わたくし)、セレナと申します。セレナ・アルテリアです」


 セレナ・アルテリア。

エデリア王国の第一王女。

先王が魔獣被害によって急逝した影響で、若くして現国王が即位し、現国王の唯一の嫡子となり第一王女となった。


 王女の名に、レヴァンは息を飲んだ。

だが、王女はそんな反応を気にする様子もなく、膝をついていたレヴァンへ手を差し伸べた。


 レヴァンはその手を見つめた。

震える自分の手。


――父と母を、守れなかった手。


だが、今は――。


 レヴァンは、セレナの手を取った。


 温かかった。


 レヴァンとセレナは、近くの倒木へと腰を掛ける。


「・・・俺は、村を焼いたんです」


 レヴァンは、ぽつぽつと語り始めた。


 魔獣の襲撃。

父の死、母の死。

暴走した炎で、すべてを灰にしたこと。


「大事なものを、人を、守れなかった。だから、もう二度と…」


 声が震える。


 セレナは想像していた以上に悲惨な話に、嫌な顔一つせず、ただ静かに聞いてくれた。


「そのようなことが・・・。でも、あなたは、悪くない。それだけは分かります」


 セレナはレヴァンへと目を向けた。

その瞳は、優しかった。

セレナは続ける。


「もう二度と失いたくない。その気持ちが、あの炎を形成していたんですね。あなたの魔法は、どんなに小さなものでも丁寧に、緻密に魔力が練られています。()()なあの炎。あなたの努力が伝わってきます」


 そう言いながら、セレナは手のひらの上に小さな水の塊を作り出した。


「私も、それなりに努力しているつもりですが、あなたのそれには及びませんね」


 セレナはそういい微笑を浮かべる。


「辛い記憶で魔力が扱いにくいのであれば―」


 セレナが、何かを言おうとした刹那――。


 空から、鋭い鳴き声が響いた。


「あれはっ!」


 レヴァンの記憶が再びフラッシュバックする。


「レヴァン、早く逃げて!」

 そんな母の声が、レヴァンの頭の中に響く。


 現れたのは、鳥型の魔獣。

猛禽類のような獰猛な眼をし、翼の先には飛竜のような鉤爪を持つ。

大きさは、以前にレヴァンの村を襲った魔獣よりも小さく、人ひとり分くらいの大きさ。


 しかし、パイアホルト村に現れた魔獣のように金色のオーラを纏っていた。


「俺が、やらなきゃっ!」


 レヴァンは立ち上がり、その手に魔力を集中させる。

手のひらにこぶし大の火が生成され、魔獣へ放つ。


 レヴァンの魔法は、寸分の狂いなく魔獣へ命中する。

命中と同時に、小規模の爆発が起こり、魔獣の体は煙に包まれる。


 煙が晴れると、無傷の状態の魔獣が現れる。


「やっぱり、この程度の威力じゃ無理か・・・。だったらやるしかないっ」


 レヴァンは体中に魔力を集中させ、濃密な魔力がレヴァンの体を覆う。

その瞬間、過去の記憶が再びフラッシュバックする。


 体に纏う魔力は、次第にレヴァンの制御を外れ暴走し始める。


「どうして、どうして出来ない・・・。目の前にいる人すら守れないのか・・・」


 無力感がレヴァンを支配する。


「大丈夫です」


「っえ?」


 セレナが前へ出る。


「≪ギガント・アーム≫」


 鈴の音のような詠唱が、静まり返ったレヴァンの心の中に響く。


 直後、セレナの伸ばした手から、光が集中し巨大な光輝の腕を形成する。

光の巨大な腕が魔獣を握りつぶす。


 金色のオーラが砕け散り、魔獣は浄化されたかのように、綺麗に消え去った。


 森の広場には、レヴァンとセレナだけが残された。


 セレナは振り返り、レヴァンへと微笑みかける。


「ほら、ね」


 直後、セレナは糸が切れた人形のように意識を失い、倒れこんだ。


「っあ」


 レヴァンはすぐさまセレナの下へと駆け寄る。

 瞬間、木陰から人影が現れた。


「姫様!」


 従者らしき学園の女生徒が、慌ててセレナを抱き上げる。


 女生徒はレヴァンを見て、静かに言った。


「魔法の光を見て来てみれば・・・。おい、平民。事情を聞かせてもらおう。ついてこい」


 レヴァンは頷いた。


 セレナの手の温もりが、まだ残っていた。


 あの炎を、「綺麗」と呼んでくれた少女。


 レヴァンの胸に、何かが芽生え始めていた。

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