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叛火の遺産〈リベルファイア〉  作者: 夏影 識
第1章
6/11

夜焔の祈り

 どこまでも続く白い空間。

風の音すら聞こえない、静寂が支配する空間。


 そんな空間に一人、目を閉じうつむく男がいた。

男はなにやら別の場所を視ている。


 石造りの古く、小さな、みすぼらしい神殿で一人の老人が祈りをささげている。


「神よ、どうか我らをお救いください。魔族は多数の魔獣を従え、我々の生存を脅かしております。どうか、あの蛮族の侵攻を食い止める力をお貸しください。魔族は、私の妻と子を殺しました。妻と子の無念を晴らせる、大いなる力を!」


 目を開けた男の表情は険しくなる。

 男は立ち上がり、歩き始める。

何もなかった白い空間から突如、霧が立ち込める。

霧が晴れたとき、そこには巨大な白い神殿が現れる。


 男は神殿へ入ると、一際大きな扉の前で立ち止まる。

ノックをすると、扉は独りでに開き、立派な玉座が現れる。


「何用だ?」


 誰も座っていない玉座から声がする。

次の瞬間、玉座に白い靄がかかり、人の姿が浮かび上がる。

靄が晴れると、そこには一人の人物が座っていた。


 玉座に座る人物からは何の情報も得られない。

中性的な顔立ち、髪は長くもなく、短くもない。


 ただ一つ言えることは、”無”であるということ。


 玉座の前まで来た男は、膝をつき頭を下げる。


「主よ、何故人類に力を授けないのですか?」


 男が問う。


「どうした、何が言いたい?」


 人物が返す。

言葉には大した抑揚がなく、聞く人が聞けば、身の毛のよだつような思いをするであろう声。


 男は答える。


「人類は、現在劣勢に立たされています。魔獣には強力な力と生命力、魔族には闇属性の魔法の力。魔族に至っては、魔獣を使役し人類へ攻勢を仕掛けている状態。このままでは人類は滅んでしまいます。先ほど、祈りをささげる人間を視ました。家族を殺され、悲痛な祈りをささげていました。今こそ、人類を救う力を授ける時でしょう」


 玉座に座る人物は、表情を一切変えずに答える。


「何を言い出すかと思えば、そんなことか。お前は、人類には魔法が必要であると言うのだな。しかし、それは出来ない。何故なら――」


 そこから先は、何も聞こえない。

男と玉座に座る人物が言い争っているようにも見える。

しかし、表情をさらに険しくする男に対して、玉座に座る人物は表情一つ変えていない。


 しばらく言い争っていると、男は突如、玉座に背を向けて走り出す。

玉座に座る人物は、男が扉から出ていくと、今までの表情からは一転、険しくなった――



 ――どれだけの時間が経っただろう。


 レヴァンは、ゆっくりと目を開けた。

 知らない天井、知らない部屋。

ほんのりと薬草の香りがする。


 レヴァンが周囲を確認しようとしたとき、足元から声が聞こえた。


「目が覚めたようだね」


 中年の女性教師だった。

学園の校章の付いたローブを着て、「聖焔(せいえん)癒舎(ゆしゃ)」の腕章をしていた。


 学園内での怪我を治療する、癒しの場。

それが、「聖焔(せいえん)癒舎(ゆしゃ)」である。


「レヴァン君、だったか?君は闘技場で魔法を暴走させた。意識を失ってから丸一日たっているのよ」


 教師の言葉に、レヴァンは体を起こした。


「エリックは!?俺と決闘をしていた生徒はどうなりましたか!?」


「君と決闘をしていた生徒は、重症だが、命に別状はない。さすがに、ここでの治療じゃ間に合わないから、王都内の治療院に送られたよ」


 レヴァンは唇を噛んだ。


 教師はレヴァンの表情を一瞥し、静かに続けた。


「決闘は学園の伝統に基づく、正式なものだった。周囲の生徒やエリック君本人もそう証言している。よって、君が彼に怪我を負わせたことは不問よ。しかし、魔法の暴走は別問題。学園の安全を脅かす行為として、しばらくの謹慎処分とすることが決まったわ。しばらく、寮での謹慎を言い渡すよう通達されたわ。その後の処分は追って通達するみたいだけど」


 レヴァンは頷き、荷物をまとめて聖焔の癒舎をあとにした。


 寮に戻されたレヴァンは、部屋で一人になった。

 窓から見える学園の塔。

貴族たちの笑い声が遠く聞こえる。


「また……守れなかった」


 父と母の姿が蘇る。

あの時も、今も。

大事なものを守れない。


 レヴァンは拳を握った。


 夜が深まった頃、学園は静まり返っていた。


 レヴァンは、寮を抜け出し、裏手の森の中にいた。

木が生い茂る中、広く開けた広場のような場所がある。


 月明かりの下、無人の広場。


「もう、暴走はさせない」


 レヴァンは深呼吸をし、手をかざす。

手の平に魔力を集中させると、小さな火が灯る。


簡単なものなら、問題ない。


だが、少し力を込めると――。


胸の奥で、熱が爆発しそうになる。


 父の姿、母の声。


 炎が膨張し、周囲の空気を歪める。


「くっ……!」


 レヴァンは必死に抑え込んだ。

汗が滴る。


「どうして・・・。どうして、できないんだ・・・」


 挫折感が、レヴァンを襲う。

抑えるのがやっと。


「(これでは、何も守れない)」


 今更、何を守るのか――


 レヴァンは膝をついた。


 その時――。


 木陰から、静かな視線を感じる。

誰かが見ている。


「誰だっ!?」


 レヴァンは振り返った。


「見つかってしまいましたね。夜中に寮を抜け出す影が見えたので、ついてきてみれば、このような光景が見れるとは」


 木陰から出てきた人物は、やわらかな笑みを浮かべてレヴァンの方へ近づいてきた。


「あなたの魔法(ほのお)からは、キラキラした光と黒く淀んだ()()()を感じます。一体、あなたは何を抱えているのですか?」


 出てきた人物はレヴァンへ問う。

どういうことなのかわからず、レヴァンは言葉を出せない。


「あ、申し遅れました。(わたくし)、セレナと申します。セレナ・アルテリアです」


 セレナは笑顔で、膝をついていたレヴァンへと手を差し伸べた。

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