咄嗟に呼んだのは……?
赤い髪の踊り子の実力をまざまざと見せつけられたヴァルター・クロイツ。
ヴァルターは果たしてクロイツ家の教えを守ることができるのでしょうか!
※ルシア視点です。
静まり返った広間に一人の男の舌打ちが虚しく響いた。
「……チッ」
振り返らなくても分かる。
ヴァルターだ。
割れんばかりの拍手と歓声の中、彼だけが祝福から切り離されたように立っている。
拳を握りしめ、奥歯を噛み締め、こちらを……多分私を悔しそうに睨みつけてる。
「ヴァルター!」
「……」
ヴァルターは応えない。聞こえてないのかしら?
「ヴァルター、待って!」
私は今一度大きな声でヴァルターを呼んだ。
でもヴァルターは何も言わずに踵を返し、その外套を邪魔そうに翻して、あっという間に人混みを荒く割ってずんずんと進んでいってしまった。
(ええ〜帰っちゃうの??踊りの感想聞きたかったのに)
「待って、ヴァル……」
私の声を意に介さず、ヴァルターは扉に足を向けて行ってしまった。
と同時に今まで黙って様子を伺っていた人々が私の元へどっと駆け込んできた。
(えっ、えっ?何?この人だかりは?)
やがて扉の閉まる重い音と共にヴァルターの姿は完全に消えてしまった。
「……あ、あの、ちょっと……み、皆さん近いです……!」
四方八方から人に囲まれて、私はもうヴァルターどころではなかった!
「素晴らしい踊りでしたわ!」
「まるで伝説の再来だ!」
「ぜひ我が家の夜会にも来ていただきたい!」
「ひゃ、ひゃい、ありがとうございます……?」
手を取られ、褒められ、質問され、頭が追いつかない。
どうしよう、大勢の前で踊るのは平気だけど……大勢の人に話しかけられるのは慣れてないの!!
(た、助けて誰か。助けて……侯爵様!!)
えっ?何故咄嗟に侯爵様が……?
私がパニックに陥りながらも困惑していたその時ーー
「ーーゴホン」
小さな咳払いが聞こえた。
咳払いを打っただけなのに、たったそれだけのことでひどく安心する。
大きくもない、怒鳴り声でもない。
なのに。
(どうしてこんなにも……)
私は何故かその声にホッとしていた。
最近気温が上がったり下がったりして参りますね。
皆さまも体調に気をつけてくださいね!
最後まで読んで頂きありがとうございました。




