赤髪の踊り子
幼い頃。
誰も褒めてくれなかった日々。一人で庭で回っていたあの時間。
転んでも、また立ち上がって、ただ踊り続けた。
(踊ってる時だけ……自由だったの)
その記憶が、足を軽くする。
最後のターン。
大きく踏み込み、ドレスが花のように広がり……ぴたり、と止まる。
(……やったわ!侯爵様!見てる?)
舞い散った赤い髪が、ゆっくりと肩に落ちる。
しん……
いつのまにか広間が音を失っていた。
誰も、拍手を忘れている。ただ、見惚れていた。
まるで昔、王侯貴族を魅了したという
“赤髪の踊り子”が、
今この時代に蘇ったかのように。
そして私は、にこっと笑った。
「……どうかしら?」
息も切らさずに言った。
その一言で、張り詰めていた空気が一気にほどけた。
――瞬間。
どこからともなく、拍手がひとつ。
やがてそれは波のように広がり、大広間が割れんばかりの喝采に包まれた。
「ありがとう、皆ありがとう!」
私は皆にお礼を述べる。侯爵様もこちらに向けて拍手をしながら頷いている。
(侯爵様!!)
その姿を見た途端になぜか胸がいっぱいになって、その勢いのままに私は侯爵様に抱きついた。
ぼふん!
「おっと。危ないよルシア」
「侯爵様!どうでした私の踊り!?」
「……美しい踊りだったよ。惚れ直した」
「えへへ……//」
(本当に見事な踊りだった。私だけでなく、この場にいる誰もがルシアの踊りに心奪われたはずだ)
その証拠に、拍手がいつまでも終わらない。
ーーまいったな。
私のルシア。この姿を誰にも見せたくないと思ってしまった。
燃えるような赤い髪に、スッと伸びた背中。夜を思わせる色のドレス。金色に輝く瞳。ルシアを形成する全ての要素を。私の腕の中に……
「閉じ込めてしまいたいな」
「えっ?何かおっしゃいましたか侯爵様?」
侯爵様は優しい笑みを浮かべたまま首を振った。
(でもそんなことは、ルシアには似合わない。ルシアはどんな柵も、檻も箱も必要ない)
ーールシアには笑顔で踊っていてほしい。踊っている時のルシアは誰よりも生き生きしていた。
それが今の私の願いだ。
「なんでもないよ。ほら、皆が待ってるからもう一度広間に行こう」
「ええ!私たち認められたわよね。だってあの拍手!」
「ああ、君は見事にやってくれた。みんな君の虜だ」
そんな中ヴァルターだけが拳を強く握りしめたまま、動けずにいた。
胸の奥が悔しいほど、熱くなっていることに気づいてしまったから。
いやー美しかったですね!
踊り子の先祖返り、さすがです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




