夢に見た婚約破棄なのに
クロイツ家との因縁を思い出したルシアは、思ったままのことを口にする。
「思い出したわ!あなた昔私の先祖に踊りだけで負けたクロイツ家の末裔ね!」
おおお、なんか知らんが言い方がすごく悪役令嬢っぽい!!これはチャンスよ!
もっと!もっと悪役令嬢になりきるのよルシア。
「それで?負け犬のクロイツ家の末裔が私に何の用かしら?」
ああー!この挑発!この煽り。まさに私がやりたかった悪役令嬢だわ。ありがとう神さま!ありがとうクロイツ家!
「な、何を……さすが下品な赤い髪と踊りで王を魅了しただけのことはあるな。したたかな女だ。エルド侯爵、私はこの婚約に反対だ!こんな悪魔みたいな女と婚約するなど……末代までの恥になる」
えっ……そ、そこまで言う?いや、だけどこの展開はうまくいけば。
夢にまで見た婚約破棄じゃないの!?
「…………」
侯爵様は黙っているわ。まさか本当に?
ひょっとして今日の夜会は婚約発表と見せかけた婚約破棄の場だったの??
そう思ったら、なぜかちくりと胸が痛む。
なんか、なんかそれは嫌かも……侯爵様ーーエルド様と婚約破棄は嫌……
心臓がうるさいほどに音を立てる。どうして、これは私の望んでいた展開のはずなのに。
『婚約を破棄する!!』
と、いつか読んだ本のように言ってもらうのが私の夢だったのに。
だけど今は……
ーーいやだーー
私は思わず侯爵様のスーツの裾をギュッと握っていた。侯爵様は驚いたように目を丸くしてこちらを見た。
うう、視線が痛い。でも……
「あ、あの……侯爵様……」
私は不安そうに侯爵様の方を見上げる。
考えが伝わったのか、侯爵様は優しく微笑みを浮かべた。ドキッと心臓が跳ねる。
ーーかっこいい//優しい……
「……大丈夫だよ、ルシア。あれだけのことで私の意思は揺るがない」
「えっ??」
そう言って私の頬を撫でると、侯爵様はクロイツの方を向き直った。
「話はそれだけか?ヴァルター・クロイツ伯。どうやら私は招待する客を間違えていたようだ」
侯爵様が呆れたようにため息を吐いた。
「ヴァルター・クロイツ伯、あなたはこの場にふさわしくない。今すぐに出て行ってくれないか?」
それを聞いて、すぐさまヴァルターが怒りのままに叫ぶ。
「お、俺はルシアに用があって来たんだ!……この日をずっと待っていた。ルシアが公の場で婚約発表をする日をな」
「……それは貴公の都合だろう」
えっ、ひょっとしてこの人私と侯爵様の婚約発表を待っていたの?
……ということは私と侯爵様がこの日までずーっとあれやこれややってる間も待っていたってこと??なんて健気なの??
「侯爵様、待ってください。私に考えがあります」
ここまで待ってくれたヴァルターに申し訳なさを感じた私は、侯爵様を止めた。
いまさらですが婚約破棄される事が夢って、ずいぶん変わった夢ですよね。笑
最後まで読んで頂きありがとうございました。




