言う事を聞かないご令嬢
シオンベルクの街で偶然出会ったヴァルターとルシア。
ヴァルターは屋敷でのダンスの事もあって会いたくなかったようだが、ルシアはそんな事も知らず距離を詰めてきて……
「ヴァルター!」
最悪だ。そう言えばここシオンベルクは、エルド侯爵の治める領地でもあったのだ。
もちろんその婚約者のルシア・カルミナートももちろんいるわけで……
(何もこんな時に会わなくてもいいだろ!)
「ヴァルター!こんなところで会うなんてびっくりね。あなたの家からずっと遠いはずなのに」
先日のダンスの事もどこ吹く風。俺の気も知らずに相変わらず距離感無視で話しかけてくるな。
エルド侯爵とのダンスを見せつけられた後、どれほど俺と俺の一族が悔しがったかこの女は知らないのだ。
父親にはこっぴどく叱られ、『もうカルミナートと関わるな』とまで言われたばかりなのに。
そう言えばエルド侯爵がいないな。今日は留守か?
しかしさっきからこのルシア、エルド侯爵の婚約者という自覚はないのか?というほどの距離感だ。
ふと見ると、ルシアの侍女らしき女がまたか……という感じで顔を覆っていた。
俺はその姿を見て悟った。おそらくルシアはずっとこんな感じなのだろう。
人の事などお構いなしに無意識に距離を詰めて……
「ねぇヴァルター、何を買ったの?」
ルシアは俺の買ったばかりのマカロンの箱を指差して言った。
「ねぇ何を買ったの?」
「……ここに並んでる菓子だ」
俺は色とりどりのマカロンを指す。
「まぁ……とっても綺麗」
「まさか知らないのか?マカロンを?」
貴族なのにマカロンを知らないとは驚いた。庶民には買えないものだぞ。ルシアは一応伯爵家の令嬢のはずなのに……
「うーん、そういうお菓子ってお茶会とかで出されるものでしょ?私はどうもそういうの苦手で……ほとんど参加しなかったの」
ルシアはえへへ、という感じで頬をぽりぽりとかいた。
「お前は一応伯爵家の令嬢だろう。そういうのは参加したくなくても参加するものだ」
「だってつまらないんだもの!それより私も買おうかしら、マカロン」
俺は驚いた。「つまらないから」という理由でお茶会に出なかったなんて聞いた事がないぞ……
……エルド侯爵もこんな令嬢には会った事ないだろう。エルド侯爵には悪いが、少し同情する。きっと礼儀作法を一から教えないといけないのだろう?
しかもこんな跳ねっ返りの、言うことを聞きそうにない女に……
「どうしたのヴァルター?まるでフウカみたいな顔して」
フウカとはルシアの侍女だ。なるほど……フウカにも同情する。
個人的に
「どうしたのヴァルター?まるでフウカみたいな顔して」
このセリフ好きです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




