ルシアの本気
曲が流れた途端、まるで覚醒したかのようにエルドをリードするルシア。その姿にいつもの無邪気な様相は無く、エルドは混乱する。
踏み出したのはルシアだった。しなやかに迷いなく。エルドの腕の中で脚を伸ばし、時折エルドに身を委ねながら。
まるで最初からこの舞を知っていたかのように。
(……これは)
エルドの思考が、一瞬遅れる。
ルシアの動きは軽やかで、それでいて艶やかだった。
一瞬の気の迷いも許されないーー気を許せばルシアの腕の中で翻弄されてしまう。
(まさか、あのルシアが……)
婚約披露で見せた舞とは、まるで違う。
これはーーもっと直接的で、抗えない。
この曲がそうさせているのか?
腰のひねり、足の運び、視線の使い方ーー
赤髪の隙間から見える金色の視線がキラキラして、眩しい。
ーーこのエルドが、翻弄されている。
そのどれもが、どこか挑むようで。誘うようで。
逃げ場を与えない。
「侯爵様」
ルシアはくるりと回転したかと思うと、またエルドの胸に戻って耳打ちする。
「……ちゃんとついてきてくださいね?」
逃がさないとでも言うかのように。エルドに向けるルシアの熱を帯びた視線。
「……ッ!」
(なんだ、このルシアの色気は……無意識か?それとも潜在的な何かか……)
「ふふ、考えごととは……ずいぶん余裕ですこと」
エルドから視線を外さず、ルシアはそう囁く。挑戦的な瞳はそのままに、口元に笑みを浮かべながら。
ルシアはエルドの肩に手を回し、脚を絡ませながらステップを踏む。
本来なら、このくらいの踊りは余裕で受け流せるはずだった。
だが。
目の前のルシアはーー
(これは、いつものルシアではない。今はもっと扇情的で挑戦的で)
これが、王をも翻弄し、王が涙したという踊り。
生きている踊りーー命そのものの踊り!
「……」
その時。
いつのまにかルシアの指に、一輪の薔薇が挟まれていた。
その薔薇が、ゆっくりとーーエルドの喉元を這う。
「……っ」
その一瞬。
エルドの呼吸が、完全にルシアに奪われた。
花弁が、肌のすぐ上をなぞるたびに……意識がそこに引き寄せられる。
「どうしました?」
ルシアが囁く。互いに見つめ合い、息がかかる距離で。身体を密着させたままで。
「侯爵様ともあろう方が」
そう言うと、ルシアはエルドの体を一旦離れて音楽に乗って回転する。
視線はエルドから離さないまま。赤い薔薇は持ったままで。ひどく楽しそうに。愉快そうに。
(ああ、クソッ……)
ルシアは再びエルドの肩を抱き、耳元でくすり、と笑い。囁く。
「……ついてこれていませんよ?」
まるで試すように、甘く、鋭く。ルシアはエルドを挑発している。
踊りの描写は書いててとても楽しいです!あと少しだけやらせてください。
いつもは余裕のエルドを、ルシアが翻弄する様子を楽しんで頂けると嬉しいです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




