ヴァルターvs余裕のエルド
由緒正しい家柄のクロイツ家を訪ねたエルドとルシア。そこへ満を持してヴァルターが登場。だがヴァルターの内心は意外なもので……
現れたのは、黒い礼装に身を包んだ一人の青年だった。
ヴァルター・クロイツ。
ヴァルターは高い階段の上から静かに二人を見下ろしていた。
その姿はまるでこの屋敷そのもののように、誇り高く、冷たい威厳をまとっていた。
* * *
ーーやばい。
かっこつけて登場したものの、何を話していいかわからない。
「ヴァルター!!」
俺を見つけたルシアの笑顔が、こんなにも眩しく映るなんて。
「……ょ、よく来たな」
しまったァ!テンパって少しどもってしまった。
「久しぶりねヴァルター!」
……ルシアは気付いていない。よかった……
いや!何をホッとする事があるか。俺は名門クロイツ家の時期当主。堂々としていればいいのだ。
ーーそれにしても。
あいつ本当に俺の一族の仇か?嬉しそうに手を振りやがって……
本当に調子が狂う。
「手紙は読んだようだな」
階段を降りながら、ヴァルターは自身の胸の高鳴りから耳を逸らし、平静を装ったまま冷たく言い放つ。
「ええ!」
ルシアは胸を張った。
「ちゃんと来たわよ。約束でしょう?一緒に踊るって」
ルシアのその無邪気な様子に、ヴァルターはほんの一瞬だけ嬉しそうに目を細めたが、慌てて気を引き締めた。
(落ち着け、落ち着けヴァルター……こいつは俺の一族の仇。来てくれて嬉しいなどと思ってはいけないのだ)
「ゴホンッ」
ヴァルターは軽く咳払いをすると、嫌になるくらいの威圧感を感じる、背の高い男がいるのに気がついた。
いや、正確にはずっと前から気がついてはいたが、目を逸らしていた。
エルド・グレイシアード侯爵。
仕立てのいいスーツに、その黒髪は上品に撫でつけられ、磨き上げられ洗練され、一縷の隙もない何もかも完璧なその立ち姿は完全に余裕のある大人で。
「……まさか侯爵まで来るとは思わなかったが」
「問題があるか?」
ずっと二人の様子を見ていたエルドが、わずかに微笑みながら穏やかに返す。
まるで最初からすべて分かっているかのような余裕の笑みだった。
(鼻につく余裕のある態度だ。何があってもルシアは自分のものだと信じて疑わないのか……?)
「いや」
ヴァルターは肩をすくめた。
「むしろ都合がいい」
「……」
エルドはヴァルターのその言葉にも特に反応せず、ただ静かにルシアの肩に手を置いた。
それだけで、まるで最初から勝負など成立していないと言われているようだった。
(……くっ、この侯爵の態度……俺など相手にもならないとでも言うのか?)
まあいい……俺とルシアは踊ることを約束した。
その踊りを見て、決して自分には勝てる気がしないと思うがいいさ。
何せ、我がクロイツ家は長年踊り子の血族ーーカルミナート家と相対して来たのだから。踊りの腕はカルミナート家と同等なはずだ。
ヴァルターは自分の気持ちがルシアに傾いていることに気付かない振りをしたまま、ルシアに一歩近付いた。
というわけで、次回はヴァルターとルシアが踊るのかな?
最後まで読んで頂きありがとうございました。




