番外編・侯爵様のホワイトデー
もう過ぎてしまったけどホワイトデーのお話です。
お暇な方は読んで行ってください。
ある晴れた春の午後。
侯爵邸の庭は淡い花の香りに満ちていた。
ルシアはテーブルの上に並ぶ焼き菓子を前に腕を組んでいる。
「ねぇフウカ〜?」
「何ですか?お嬢様」
「ホワイトデーって、どういう日だったかしら」
フウカは少し考えて答えた。
「一般的には、バレンタインのお返しをする日ですね」
「お返しかぁ……じゃあ侯爵様は今日、私にお返しをくださるのよね!?わぁ〜楽しみ。一体何をくださるのかしら?少し焦げたお菓子?それとも少し焦げたケーキかしら?」
フウカは呆れたようにため息を吐く。
「お嬢様、エルド様はお忙しい身なのですよ。それにあまり期待しない方がいいです。特にお嬢様はあんなに焦がしたチョコレートを渡したのですから。私は今でも屋敷を追い出されても仕方がないほどの無礼を働いたと思っていますよ」
「そこまで言わなくてもいいじゃない!それに侯爵様は喜んでくれたわ」
「それはエルド様が海のようにお心が広いからです」
二人がやいのやいの言い合っていたその時ーー
庭園の奥から侍女たちが現れた。
「あっ、ほら噂をすればきたわよ!やはり侯爵様、私の婚約者様。きっととびきり大きな焦げたケーキを……」
(あ、あれ……??なんか様子が……)
侍女が一人、また一人と増え、その腕に抱えているのは箱。箱。箱。そして抱えきれないほどの花束。
ルシアは目を丸くした。
「え?」
侍女たちはテーブルの上に次々とそれを並べていった。
白いリボンの箱。
高級菓子店の袋。
宝石箱。
刺繍の美しいドレス箱。
色とりどりの花束。
テーブルはあっという間に埋まった。
「……フ、フウカ!今日は何の日って言ったっけ!?」
「いっ、一般的には、バレンタインのお返しをする日ですね……」
二人が言葉を交わす間にもテーブルの上には次々と箱と花束が積み上がっていく。
これにはさすがのフウカも閉口した。
「これは何?どういう事?」
ルシアが混乱していると、庭園の石畳に、静かな足音が響いた。
振り向くと、そこにはエルドが立っていた。黒い外套を纏い、いつもの落ち着いた顔でこちらを見ている。
「侯爵様!」
ルシアは慌てて駆け寄る。
「これ全部、どうしたんですか!?」
エルドは平然と答えた。
「ああ、それは私からルシアへの贈り物だ」
「贈り物!?」
「今日はホワイトデーだろう」
「そ、そうですけど……」
エルドはさも当然のように言った。その表情は、何か間違えていたか?とでも言いたげだ。
「だから用意したのだが……」
ルシアはテーブルの山を指差す。
「こっ、こんなに多く……いくらなんでももらえませんわ。私……」
エルドは首を傾げる。
「そうか?」
「私、その……焦げたチョコしか渡してませんよ!?」
「知っている」
エルドはルシアに一歩近づき、逃げられないようにルシアの体を挟むようにしてテーブルの上に両手をつく。
「こ、侯爵さ……」
「だがホワイトデーとは」
ルシアに顔を近づけ、考えるように言葉を区切る。
「愛しい者に贈り物をする日だろう?」
フウカが小さく咳払いした。
「侯爵様……それは少々解釈が違うというか……」
「違うのか?」
こちらを振り返るエルドに、フウカは両手を肩に挙げて苦笑いをするしかない。
(エルド様は本気だ。本気でそう思っていらっしゃるのだ)
ルシアは真っ赤になって代わりに答えた。
「ち、違いますよ!//」
「そうなのか?」
「お返しの日です!私があげたのは、焦がしたチョコレートだったから……お返しも、もっとそれに見合ったものが来るとてっきり」
(ああああ!自分で言いながら恥ずかしくなってきた//焦がしたチョコレートなんて……)
エルドはしばらく黙った後、ルシアを安心させるように微笑んだ。
「なら問題ない」
「え?」
「私は君に返すつもりだ」
「えっ……?」
「君が私にくれたものを」
そう言ってエルドは、ルシアの手をそっと自分の胸に当てた。
「……!!//」
突然の事にルシアは体を仰け反らせたが、すぐにエルドがルシアを自分の方に引き寄せる。
「わ、私があげたもの??チョコですか?」
(わわわ、侯爵様の心臓の音が……//)
「違う」
エルドは相変わらずのルシアの答えに軽く笑い、次の瞬間には真顔で口を開く。
「心だ」
ルシアの顔が一瞬で真っ赤になる。
「えっ……//そ、それは……」
(そんなものあげたっけ??私の心??)
ルシアはドキドキしすぎてまたも混乱していた。
エルドはさらに一つ小箱を差し出す。爽やかな青い箱に、白いリボンが飾られている。
「ルシア、開けてみて」
ルシアは渡された箱とエルドの顔を交互に見ながら恐る恐る開けた。
中にあったのは、赤い宝石のついた小さな髪飾り。
(私の髪と同じ色……?)
その輝きにルシアは思わず息を呑む。
「君に似合うと思って」
エルドは当たり前のように言う。
「気に入らなければ別のものを用意する」
「そっ、そんなことありません!」
ルシアは慌てて首を振った。自分の髪の色と同じ赤が、金色の瞳の中でキラキラしていた。ルシアはうっとりとその輝きを見つめる。
「とても……綺麗です」
エルドは満足そうに目を細めた。
「ならよかった」
「でも……」
ルシアはふとテーブルの上に山のように積まれた贈り物を見た。
「侯爵様……来年は、もっと質素なものがいいですわ。たとえば、クッキーとか……」
「ふふっ、善処しよう」
「絶対ですよ!?約束!」
「ああ、約束だ」
エルドのその答えにフウカが肩をすくませた。
「お嬢様、前言撤回しますわ。エルド様は海のように広いお心と、海のように深い愛情があるのですわね……」
一時はどうなる事かと思ったけど……どうやらうまくやっているみたいね。お嬢様……
二人の微笑ましいやりとりを見て、フウカと隣でずっとやりとりを見ていたアキラはほっと胸を撫で下ろしたのである。
久しぶりのエルドとルシア。可愛い二人が書けてよかったです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。




