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Act.5 黒蝶の見た綺麗な世界

鷹司 紫乃 十一歳

鷹司 紫苑 三十二歳


ガタガタと揺れた馬車が辿り着いた場所は今まで見たものを全て覆すほど高く、広く、きれいな場所だった。



白い石が敷き詰められた道。

積み上がるレンガすらも美しく規則正しい。

今まで見たことのない高い建物、色とりどりの世界を目に焼き付けていた。



馬車が止まる。


ドアが開けられて、叔父と名乗った男は馬車から降りていった。


振り返った叔父が手を差し出すのでそれを取ろうと手を伸ばそうとした。


ただ、その瞬間。タタタッと駆ける音が耳に届いた。


「お父様!おかえりなさい!」



ボフッと音を立てながら叔父の腰に抱きついた。


「ああ、ただいま。僕のお姫様。」


慈しむような柔らかな声でその影を抱きしめる叔父。そしてその影がこちらを見た。


黒い髪と満月を思わせる金色の瞳。


「その子が『一条』の姫!?本当に私と同じ色だわ!」


花が咲いたような笑顔を真っ直ぐに向けてくるその人。


「こら、挨拶が先だろう?さあ、光、満、おいで。」


もう一度差し出された手に手を載せてゆっくりと馬車の階段を降りた。へばりつくような弟が腰に巻き付いたままだったけれども降りた先は先程まで見ていた景色を更に圧倒する建物。


娼館……いや『快楽街』全部よりも大きなその屋敷に口が塞がらなかった。


「初めまして!私の従姉弟さんたち!私は鷹司 紫乃!あなた達の従姉よ!」


まるで花が咲いたように笑うその少女……少女と言っても私よりは年上だろう。その子は私の頬に手を当ててキラキラと煌めく金の目で私を見た。


「こら紫乃。相手の許可無く触れてはイケないよ。彼女は君よりも身分としては上なのだから。」


「でも、それを教えるのは私でしょう?」


明るい声で、とても温かい手で、すべてを優しく包み込むようなこの少女、紫乃はにこやかに笑う。逆に叔父は呆れたようにため息を吐いた。


「ああ言えばこう言う……誰に似たのだか。」


「間違いなく、私だろうな。」


すぐに聞こえた声。視線を上に向ければ女性が立っていた。


黒い髪と青の瞳。


どことなく、母に出で立ちが似ている気がした。


「やあ、初めまして、名前を聞いていいかい?」


細められた青の瞳が柔らかく私を見てくる。その目を見て、何故か母の橙色の瞳を思い出せる。


「光……弟は満。」


小さく答えれば、その人は頭をふわりと撫でてくる。


「初めまして、光、満。鷹司 紫苑(しおん)という。君たちの父親の妹だ。」


「いもうと?」


そう言われてみても、父と似ているのは黒い髪しか見ることができない。不思議に思ってじっと見つめれば、その人はニコリと笑いながら私と満を簡単に抱き上げた。


「似ていないとは昔から言われているからね。でも君たちの父の妹……要するに叔母だ。」


「叔母……様?」


どう呼ぶのが正解かは分からずにそういえば、叔母は少し寂しそうにわらった。


「細かいこと、詳しいこと、色んなことをゆっくりと教える。だけれども君たちはその色を持つ以上、確実に能力を継いでいる。苦難も多くなる……。」


そう言いながら叔母はトントンと背中を叩く。心地の良いリズムが微睡みを呼び寄せてくる。


「ただ、生きていて良かったよ。会えて良かった。」


叔母の言葉にぽろりと涙が落ちた。言いようもない安心感。それと同時に母とは違う優しい手に母がもう二度と触れられないものになったのだと何故か分かってしまった。


次に訪れたのは真っ暗闇。


この時の涙は母が砂のように消え去ってから初めて流した涙だった。





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