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ホラー

パーラーササキのフルーツパフェ

作者: 六福亭 鹿西さち


 私の親友、西田奈美は本当にいい子。高校1年のクラスで席が隣り同士になった時から、ケンカなんてしたことがない。彼女は活発で、だけど優しくて、クラスの人気者だ。だけど、私といる時が一番落ち着くと言ってくれる。

 奈美はバレー部で、私は陸上部だ。だから下校時間が大抵一緒になる。私が生徒玄関で待っていると、奈美はバレー部の集団を抜け出して私のところに来てくれる。そして2人でコンビニやパン屋さんに行って、電車の中で食べるアイスやお菓子を買うのが毎日の楽しみだった。


 だけどたまにどちらかの部活動が休みで、一緒に帰れないこともある。そんな時奈美は大抵バレー部の友達皆と下校するし、私にも別の友達がいる。いつもべったりな訳じゃない。周りの友達はよく、私達のことを「カップル」とか言ってからかうけど。


 高校2年生になってから、私と奈美にはそれぞれ好きな子が出来た。私は同じクラスのクラス会長を、奈美は男子バレー部の先輩を。私達の会話は、お互いの相手の好きなところや情報交換がメインになった。

 奈美は人懐っこいから、先輩にも積極的に話しかけることができる。彼女の話を聞いている限りでは、先輩も奈美のことを悪く思っていないみたいだった。だけど私はダメだ。片思いをしていると、ろくに相手と話すこともできない。ふとした偶然で目でもあうと、大げさに顔を背けてしまう。きっと相手は私のことをなんとも思っていないか、無愛想な奴だと思っているはず。

 そう言って落ち込む私を、奈美はいつも励ましてくれた。ネガティブなことばかり言い続ける私に、きっとうんざりしていただろう。だけどそんなそぶりは全く見せずに、可愛くなる研究に付き合ってくれた。


 奈美は努力しなくても、今のままで十分に可愛い。そう知っているのは私だけじゃなかった。

 部活動が休みだったある日、私は同じクラスの優香という友達と帰ることにした。茶道部の社交的な女の子だ。生徒会にも所属していて、クラス会長と仲が良かった。

 彼女は私が会長に片思いしていることを知らない。けれど、クラスの噂話をしているうちに、自然と話題は会長の方へ向いた。

「会長って……モテるよね?」

 私はおそるおそるそう言った。

「うん。片思いしてる子はいっぱいいると思う」

「優香ちゃんは、会長のこと好き?」

 彼女は驚いたように目を見開き、笑った。

「えー、あたし? ううん、全然。あたしは野球部の松井君が好きなの」

 私はホッとした。松井君は野球部のエースだ。2年生なのに試合に出ているらしい。

「それに、会長には彼女がいるみたいだから」

 その言葉で、私は息を止めた。信じられなかった。だけど、気力を振り絞って聞いた。

「誰?」

 優香はあっさりと答えた。

「西田奈美」


 ただの噂だけどね。そう言いながら、優香は教えてくれた。会長と奈美が、一緒に図書館で勉強をしていた。休日に、イオンで2人が歩いているのを見た子がいる。それに、会長はずっと奈美が好きだったらしい__。

「ねえ、どうして最近私のことを避けてるの?」

 夕暮れに、奈美の影が伸びている。私は答えず大股で歩いて行った。けれど、渡ろうとした踏切が閉じてしまったので、その手前で立ち止まった。急行列車が通過する時間なのだ。

「ねえ、待ってよ!」

 追いついた奈美が、私の腕をつかんだ。私は渋々振り向いた。奈美は汗をかいて、長い首筋が夕陽にきらめいていた。

 赤い陽射しに照らされた奈美を美しいと思った。会長もきっとそう思ったのだろう。

 

 だから、許せなかった。


「奈美は、会長と付き合っているんでしょう」

 奈美は息を呑んだ。私はそれ以上何も言わず、彼女を睨みつける。奈美は、口をもごもごと震わせた後、首を横に振った。

「違うよ。違う。付き合ってなんかない。誰に聞いたか知らないけど、大嘘だよ」

「図書室で一緒に勉強してたのは?」

「そんな噂、誰が流したの?」

 奈美は傷ついていた。悪いな、と一瞬思ったけど、それ以上に怒りが勝った。

「とぼけないで。本当なの? じゃあ、イオンでデートしてたのは? 会長がずっと奈美のことを好きだってのは知ってた?」

 奈美はうつむいた。踏切の音が耐えられないほどうるさくて、奈美の声が聞き取れなかった。

「なんて言ったの!」

「……たしかに、会長は私に好きだって言った」

 奈美は鞄の紐をきつく握りしめ、私に訴える。

「だけど、あんたに悪いって思ったから、断った! 本当だよ、信じて! あんたが会長と上手くいけばいいって本当に思っていたから!」

「やめて!」

 私は叫んだ。そして、踏切をくぐって彼女から距離をとった。奈美は息をのみ、私の後を追って踏切の中に飛び込んだ。

「待って! ねえ、恭子!」

 奈美が私にすがってくる。私の中で憎悪が弾け、彼女を突き飛ばした。彼女は尻餅をつく。私は彼女から離れようと踏切から飛び出す。

 そして、一瞬のうちに、列車が踏切を超えた。奈美の姿は私からは見えなくなった。


 その次の休日に、私は1人で買い物に出かけた。可愛い服と、コスメ用品がほしい。もっと可愛くなるために。会長の心から、奈美を追い出すために。

 買い物の帰りに、行きつけのパーラーに寄った。パーラーササキ。奈美とも何度か行ったことがある。

 この店の名物は、フルーツパフェだ。ちょっと値段が高いけど、自分へのご褒美だと思うことにした。

 ガラスの器にこれでもかと盛られたフルーツ__いちご、メロン、マスカット、パイナップル。天使の羽みたいな形に切られたオレンジ。とろりと甘いホイップクリームと、チョコアイス。私は早速、スプーンをクリームに入れた。

「おいし~い!」


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