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真実の先


『う、嘘だ……破滅の星(ナグナルイン)が……ぼくの計画が……! なんで……どうして!? 劣等種のはずのアイツが、どうしてここまでイルレアルタを――!?』


 星砕きの伝説。

 その日、ケルドリア大陸に住む人々は、昼も夜も問わずに降り注ぐ数多の星を見たという。


「エオイン……っ」


「よか、った……君が……無事で……」


「しっかりしてエオイン……!!」


 だがしかし、伝説誕生の中心となった戦場に喜びはなかった。

 限界を超えて大破したイルレアルタ。

 そして全身傷だらけのエオイン。


 ソーリーンは必死にエオインの救命を指示し、ヴァースは自らの姿を見て安堵する血まみれのエオインから、何も言えずに目を逸らした。


(なぜ、俺は……)


 戦火の終息に尽力するソーリーンと、負傷したエオインを後に残し。

 ヴァースはすでに勝勢が決した戦場を、レンシアラの中枢目がけて大勢の兵士達と共に突き進んだ。


 まだ、自分の役目は終わっていない。


 エオインが、ソーリーンが、無数の同胞が切り開いた道の先。

 そこにあるはずの物――レンシアラが隠し続けてきた、超古代技術の中枢。

 それを解析、無力化し、レンシアラを隠れ蓑にこの世界全てを意のままに操ってきた、キルディス・ゾンの根幹を断つ。


 そうしてこそ、ヴァースの戦いは意味のあるものになるのだと。


 ヴァースは、先に見たエオインの星砕きによってえぐられ、砕かれた心の傷から目を逸らすように、最後の力で前に進んだ。


「これがレンシアラの……いや、フェアロストの残した遺産……」


 到達した技術都市の最深部。

 散乱した情報資料や、ろくな封印もされずに残されたそれらのデータは、管理者であったキルディスがいかに余裕なくこの地を放棄したかを表していた。


「フェアロストの力……〝水晶炉を介した精神接続〟……レンシアラの天契機(カイディル)は、その端末……?」


 そこで待っていたのは、ヴァースの想像をはるかに超えた事実だった。


 古代フェアロスト文明の遺産。

 その真髄とは、天契機の動力炉として利用されている〝水晶炉を介したあらゆる情報とエネルギーの伝達〟。


 フェアロスト文明は大陸各地の遺跡や動植物、さらには人間にいたるあらゆる存在に水晶炉を埋め込み、目に見えない〝情報伝達領域〟を蜘蛛の巣のように張り巡らせ、高度に発達した文明を築きあげていた。


 キルディスが自らの精神を他者に移し替えて生きながらえてきたからくりも、各地に散らばるレンシアラ人の体内に、端末となる水晶炉が埋め込まれているからだった。


「ふざけ……やがって……ッ」


 まるで、その場にいないはずのキルディスの高笑いが聞こえて来るようだった。


 キルディスは、レンシアラが敗北した今もこの巨大な情報伝達領域を掌握している。

 たとえレンシアラを滅ぼしても、大陸中にレンシアラ人がいる限り、天契機がある限り、キルディスは生き延び、何度でも暗躍を繰り返すだろう。


 その上、ヴァース達が膨大な血を流して制圧したこの技術の中枢には、フェアロストが構築したネットワークを制御する力も、破壊する手がかりもなかった。


 技術封印国家レンシアラ。


 その繁栄の実態は、フェアロストという過去の文明が残した遺産に〝ただ乗りしていただけ〟の、寄生虫に過ぎなかったのだ。


〝どうか、私達を殺してください。私達レンシアラ人の呪われた運命を、陛下の手で終わらせて下さい〟


(キル……お前は最後にこれを知ったから、俺にあんな遺言を……)


 ヴァースの脳内に、失われた友の最後の願いが響く。

 その手によって奪われた、愛する妻子の死に顔が蘇る。


 もはや、レンシアラ人を救う方法は失われた。


 キルディスという巨悪を完全に抹殺するためには、友の言葉通りレンシアラ人そのものの数を減らすしかないのだと――ヴァースは疲れ果てた心の中で悟った。


「いや……待て。これは、まさか……」


 だが、その時だった。

 フェアロストの遺産という、どんな財宝にも勝る知恵の集積を前に、ヴァースの視線がある一点に釘づけになる。


「そうか……キルディスは、これを……」 


 果たして、ヴァースがそこで何を見つけたのか。

 

 それはエオインも、ソーリーンも知らない。

 ただ確かなことは、この時を境にヴァースの〝前に進む意志〟が再び動き出したということだ。


 ――――――

 ――――

 ――


「報告は以上だ。レンシアラには、キルディスの不死を阻止する方法は存在しなかった。だが奴を完全に滅ぼさない限り、この大陸の戦乱は終わらない。それがどういう意味か……わかるな、ソーリーン」


「性急過ぎる……! 埋め込まれた水晶炉が問題だってわかっているなら、それを摘出すればいいでしょう!?」


「小石の欠片程度の水晶炉を、どうやって人の体から見つけ出すつもりだ? 切り刻んで探し当てたころには、そいつはとうに死体になっているだろう」


「だからって……! ううん……わかったわ。これまで、私だってずっと貴方と一緒に戦ってきたんだもの。貴方にだけ、そんな罪を負わせるわけにはいかない……貴方に従うわ、ヴァース」


 レンシアラの虐殺。


 この日、帝国国内で隔離されていたレンシアラ人とあわせ、レンシアラ領内に住む数十万のレンシアラ人が反レンシアラの軍勢によって殺された。


 その殺戮は凄惨を極め、レンシアラの都に注ぐ川はレンシアラ人の流した血で一ヶ月もの間赤く染まり続けたという。


「……どういうことだい?」


「言葉の通りだ、エオイン。お前はもう戦わなくていい。どこへなりとも、望む地で平穏に暮らせ」


 史上類を見ない大虐殺。


 そのような恐るべき大罪に手を染めてなお、エオインとソーリーンはヴァースを信じ、共にあり続けようとした。だが――。


「キルディスを殺すまで俺の戦いは続く。だがお前の傷は深く、以前のように戦える体ではない。俺は……もうお前を戦わせたくない」


「ふざけないで! 傷だらけなのはエオインだけじゃない……レンシアラを落とした時点で、私たちもみんなも、もう限界まで兵力を出し尽くしたわ。二十年も戦い続けて、さらにこの先もなんて……いくらキルディスを倒すためっていっても、犠牲が大きすぎる!」


「君の言うとおり、もう僕はイルレアルタには乗れないかもしれない……けどそれでも、君のために出来ることはあるはずだ! これまでだって、僕達はずっと一緒だったじゃないか!!」


 ソーリーンは、これ以上戦うなと。

 エオインは、これからも一緒に戦うと。


 二人の相反する願いに、ヴァースは冷徹な表情で首を振った。


「駄目だ。キルディスを倒し、レンシアラが蒔いた戦乱の種を全て刈り取るまで、俺達の戦いは終わらない。そしてエオイン……その俺の戦いに、傷ついたお前では足手まといだ」


「足手まとい……っ? 僕が……」


「そしてソーリーンよ。エリンディアを含め、他の奴らがこれ以上戦えないという言葉はもっともな話だ。ここから先、俺の戦いについてこれない者に無理強いするつもりはない」


「どういうこと……? まさか、これからは帝国だけで大陸中の親レンシアラと戦うつもり!?」


「ああ、そうだ。俺はレンシアラが必死に縋りついていた、フェアロストの力を手に入れた。この力で……今度こそ俺は、俺自身の力で世の平和を成し遂げる」


「ヴァース……」


 それまで――ヴァースはレンシアラ制圧のあかつきには、レンシアラが秘匿する技術を〝この世から完全に破壊する〟と公言していた。


 キルディスも、天契機も、神隷機(ウラリス)も。


 フェアロストにまつわる行きすぎた先進技術が失われれば、争いの規模は今よりも小さくなり、技術による格差も少なくなる――そう思っての公約。そのはずだった。


「話はここまでだ。後はお前達の好きにするといい」


「待ってくれヴァース! 僕はまだ――!!」


「フェアロストの工房で修復したイルレアルタは、餞別としてお前に預ける。体を大事にしろよ、エオイン……」


 そう言い残し、ヴァースは二人に背を向けた。


 公約は破られ、アドコーラス帝国はレンシアラから接収した技術を独占。

 反レンシアラ連合はこの時点をもって解散し、エーテルリア連邦を主力とした親レンシアラ勢力も自国へと撤収。

 

 天帝戦争は終結し、ケルドリア大陸は約三年という短い平穏を手にすることになる。


 この時より。

 ヴァースは自らを剣皇と呼称。


 そして来たるべき二度目の大戦に向け、その歩みを先へと進めていくのであった――。


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