伝説の始まり
『もしかして、本気でぼくたちを倒せるって思ってたかな? でもざーんねん! この全てを消し飛ばす究極の爆弾、破滅の星で、君達のこれまでの頑張りも苦労も、ぜーんぶおしまいってわけ!』
「破滅の星……究極の爆弾だと!?」
『どう? どうかな? 今どんな気持ち? ぼくに家族も友達も仲間も殺されて、それでも一生懸命頑張ったのに、ぜーんぶ無駄だったってわかった今の君の気持ち……想像するだけで笑えてくるよ! アハハハハハハハッ!!』
「ふざけ……やがって……ッ!!」
終局の戦場に響くキルディスの声。
明確にヴァースめがけて放たれる嘲りに、ヴァースはしかし、愛機の操縦桿を血が滲むほどに握り締めることしか出来なかった。
『フフ……でも安心して。反レンシアラの英雄ヴァース・オー・アドコーラス……今日まで戦い続けた君の伝説は、このぼくがこの先もずっと語り継いであげる。愚かにもぼくらレンシアラに逆らい、〝ちっぽけな私欲〟で世界の平和を脅かした大罪人……史上最悪の大馬鹿者としてねぇ!』
「く……っ」
天上から迫る星の光。
ヴァースはキルディスの言葉を聞きながら、もはや何度目かもわからない、自らの無力と不甲斐なさに奥歯を噛みしめる。
散っていった仲間たちの仇を討ち、力なき人々が意味もなく命を奪われない世界を作る。
無数の喪失の果て、一瞬でも気を抜けば砕け散るほどの傷ついた心。
その心をつなぎ止めていた夢と約束、そして怒り。
キルディスの言葉通り、それらを奪われたヴァースの心は、今まさにくずおれようとしていた。だが――。
「――そんなことはさせない」
「エオイン……!?」
「ヴァースは罪人でも、愚か者でもない……! この世界の誰よりも傷ついて、誰よりも痛みを知っている……僕の、この世界で一番の友達なんだ!!」
その時だった。
ヴァースも、ソーリーンも。
彼らと共に戦い抜いた数多の英雄も。
戦場にある全ての命が、その生を諦めたその時。
神隷機との死闘で半壊し、剥き出しの骨組みを露出させ、立つことすらやっとというありさまの一機の天契機――イルレアルタが、その弓を迫り来る破滅の星を目がけて構えたのだ。
『ふーん……そんなにボロボロのくせに、本当に君はしぶとい奴だね。もしかして、君が虫ケラみたいに焼け死ぬ姿をぼくに見せに来てくれたのかなぁ?』
「やめろエオイン! イルレアルタもお前も、もう戦える状態じゃない……! 死ぬぞ!!」
レンシアラ領内で行われた最後の戦い。
この戦いにおいて、レンシアラ側が投入した神隷機は合計四体にも及ぶ。
エオインとイルレアルタは、一度の休息も挟まずにその全てを撃滅し尽くしていた。
だがその代償は大きく、この時点でイルレアルタは中破。
操縦席に座るエオインも深手を負い、意識があることすら奇跡的な状態だった。
「僕が死んで君が助かるならそれでいい……! 僕の命は君の物だ……君の役に立てて終わるなら、それでいいんだ!!」
「お前……!」
その壮絶な覚悟と立ち姿に、ヴァースはかつて帝都が神隷機の襲撃を受けた際に見たエオインの姿を重ねた。
(まただ……俺はまた、エオインに……)
だがしかし。
かつてと同じく命すら燃やしてヴァースを救おうとするエオインの姿を見たヴァースの胸に去来する思いは、〝かつてと同じではなかった〟。
(俺はまた……エオインに守られることしかできないのか……? このまま破滅の星を撃たせれば、エオインは死ぬかもしれない……なのに、俺はそれを止めもしないで……俺はまた、守られることしかできないのか……?)
二十年……あの襲撃の夜。
ヴァースがエオインに救われてから、二十年がたっていた。
その間。ヴァースはエオインを越えられはしないまでも、自らの力で友であるエオインを守れるようにと、あらゆる分野において誰よりも過酷な修練を積んできた。
追いつけなくてもいい。
自分が世界の主役でなくてもいい。
けれどせめて、ずっと憧れ続けたかけがえのない親友を、〝次は自分が守れるように〟と。
長い時の中で、ヴァースが求める力の方向性は何度も変化し、無数の痛打にさらされた。
しかしその根底には、今もエオインへの強い憧れと想いが渦巻いていたのだ。
「ごめんよ、イルレアルタ……お前にも、これまでずいぶんと無理をさせてしまったね……けど、それもこれで最後だ」
傷ついた装甲を補うように、あふれ出た青い光がイルレアルタからほとばしる。
エオインの覚悟が形を成したかのような光はやがて、天上へと構えられた弓へと収束。
破滅の星が放つ光と同等――否、はるかに強く輝く地上の星となって、その狙いを定めた。
「やめろ、エオイン……俺は……」
「――今!!」
最後の時。
ヴァースの発した弱々しい制止は荒れ狂う大気に飲まれ、エオインに届くことはなかった。
そして放たれた光芒の矢は迫る破滅を撃ち抜き、大陸中に降り注いだ光が、新たな伝説の誕生を告げた――。




