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黄金の時


「どーだエオイン! これが俺たちみんなで作った、天契機(カイディル)の操縦席だ。とってもよくできてるだろ!」


 時は星歴九三三年。

 季の節は五、日の頃は十。


 アドコーラス帝国の都からほど近い、森の中。

 まだ子供と言ってよい年頃の少年少女たちが、木の板で組み上げられた、小さな座席の前で胸を張っていた。


「これがあれば、天契機を動かすための練習だってできるんだ! もちろんお前も一緒に練習するだろ? な? な?」


「あはは! せっかくだけど、僕にはこの弓がある。だからそれは君たちで使いなよ」


「なんだよー。お前ならきっと、天契機の操縦もすぐ上手くなりそうなのに!」


「あんな大きな体じゃ、獲物だってすぐに逃げちゃうだろ? どんなに天契機が凄い兵器でも、うさぎ一匹狩れないんじゃ意味ないね」


 子供たちの先頭に立つのは、らんらんと輝く瞳で前を向く少年――アドコーラス帝国皇太子、ヴァース・オー・アドコーラス。

 そしてヴァースの言葉に笑みを浮かべて答える、狩人然とした身なりのもう一人の少年こそ、後に伝説の弓使いと呼ばれるエオイン・フェアガッハだった。


 皇太子の身でありながら誰とでも分けへだてなく接するヴァースには、幼い頃から大勢の友が集まった。

 だがそんな人々の中でもエオインは異端で、親も家もないままに森で一人暮らしの身。

 誰とも深く関わろうとせず、空に浮かぶ雲のようにとらえ所のないエオインに、ヴァースは一際強い興味を抱いていた。


「それにいくら君が天契機に乗りたくても、貧乏なこの国じゃ、レンシアラから天契機を買うことだってできないだろ?」


「ははっ! そんなの簡単さ。お金がなくて買えないなら、俺たちで作ればいいんだよ! みんなで力を合わせれば、本物だってきっと作れる! この操縦席みたいに!」


 飄々(ひょうひょう)と尋ねるエオインに、ヴァースはどこまでも純粋な瞳で力強く答えた。


 当時の帝国の経済は、レンシアラに対する天契機に必要な鉱石の採掘と輸出に依存していた。

 険しい山岳地帯に広がる国土は農業に適さず、鉱物以外に目立った産業もなかったため、国は貧しく、発展は常にレンシアラとの関係に左右された。

 

 代々の皇族はレンシアラへの依存こそ国家存続の道ととらえ、産業だけでなく領土の防衛もレンシアラ頼み。

 アドコーラス帝国は、実質的にレンシアラに支配されているようなものだった。


「今はまだ無理だけど……俺が皇帝になったら、もっともっとこの国を豊かにして、みんなが楽しく暮らせるようにするんだ! 超かっこいい天契機もいっぱい作って、レンシアラに頼らなくても、自分の力で国を守れるようにさ!」


「そいつはいい! でもその前に、へなちょこすぎて僕の足元にも及ばない、君の剣の腕をなんとかした方がいいんじゃない?」


「言ったなー! 俺だって毎日練習してるんだ。今日こそお前に一発当ててやるからな!」


「なら、早速練習の成果を見せてもらおうかな!」


 厳しい自然の中、孤独に生き抜いてきたエオインは弓の腕はもちろん、剣技においてもすでに卓越した天才を見せていた。


 一方、ヴァースの戦いの才能は〝平凡そのもの〟。


 ヴァースの才は武ではなく、不思議と人を惹きつける天性の魅力と、他者を思いやる深い優しさと共感力。

 そして太陽のように熱い理想をありありと表現する、まっすぐな言葉にあった。


 常に人の輪から外れ、孤独を友に育ったエオインはそんなヴァースの才に惹かれ。

 ヴァースもまた、どんな困難を前にしても平然と笑い、揺らぐことのないエオインの力と生き様に憧れていた。


「ほらほら、足元がお留守だよ!」


「うぐぐ、もう一回だ!」


 互いに笑い合い、手に持った棒きれで剣術の真似事に興じるエオインとヴァース。

 ヴァースの元に集まった子供たちは歓声と笑い声をあげてそれを見守り、その輪は日を追うごとに大きくなる。


 そしてそんな輪の中には、いつしか帝国を訪れる〝レンシアラ人たちの子息〟も混じるようになった。


 初めはただ座り、レバーを動かすだけだった小さな操縦席。

 それはやがて、本当の歯車と昇華弦(しょうかつる)で出来た操作可能な腕を持ち、ペダルの踏み込みに合わせて大地を揺らす足を得るようになった。


「やったー! 見てくれよエオイン! 俺たちの天契機がちゃんと前に進んでるぞ! うわーうわー!」


「ヴァース……まさか、本当に自分で天契機を作っちゃうなんて……」


 深い森の中、周囲の動物たちを驚かせながら進む〝骨組みだけで出来た〟小さな天契機。

 その操縦席で大勢の仲間たちの歓声を浴び、ヴァースは驚きに目を丸くするエオインに大喜びで手を振っていた。


 もしかしたら、それはヴァースにとってもっとも幸福な時間だったのかもしれない。


 自らの操縦に合わせ、踏みならされる愛機の足音。

 それはそのまま、彼がこの後に歩み続ける血と戦乱の日々への足音でもあったのだから――。


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