手紙
『やぁやぁ、皆様ごきげんよう! みんな大好き、連邦議長のセネカ・エルディティオでございますよぉ! とはいえ……この手紙を皆さんが読んでいる頃には、きっと私はもう死んでいるでしょう。なのでここは一つ〝死人の特権〟を生かして、私が知り得たレンシアラの全てをお伝えしようと思います』
連邦と帝国。
大陸を二分する大国同士の決戦は、レンシアラ残党による破滅の星投下によって一時の停戦に至る。
連邦側として参戦していたエリンディア軍の騎士、シータ・フェアガッハは、乗機であるイルレアルタの矢によって破滅の星を見事射抜き、〝星砕き伝説の再来〟を大陸中に轟かせることになる。
『今から三十年前……おおやけにはなっていませんが、天帝戦争で勝利した剣皇ヴァースは、〝数十万のレンシアラ人を虐殺〟しています。そしてその虐殺を生き延びたレンシアラ人の憎悪と復讐心によって生み出されたものこそ、彼ら知識の回廊財団でした』
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「リアンさんっ!」
「コケーーーーッ!!」
「シータ君! よかった、無事だったのだな!」
イルレアルタによって中枢を破壊され、活動を停止した天空城の甲板上。
酷く傷ついたルーアトランの操縦席から身を乗り出して手を振るリアンの姿に、シータはすぐさまイルレアルタを接近させた。
「もう、あんな無茶しないでくださいっ! 本当に……すごく心配したんです……っ! リアンさんまでいなくなったら……僕……っ」
「シータ君……」
同時に、シータは開放されたイルレアルタの操縦席からリアン目がけて飛び出す。
リアンは後方の座席に倒れるようにしてシータを受け止め、その背に腕を回して抱き寄せる。
「私も、また君に会えてとても嬉しい……いつも心配ばかりさせてすまない……」
それは、これまで二人が経験した中でもっとも過酷な戦場を切り抜けた先に得たぬくもり。
涙を浮かべて必死にすがりつくシータに、リアンは抱きしめた腕に力を込めて応える。
二人は互いが負った深い傷を癒やすかのように、操縦席の中でいつまでもその身を重ねていた――。
『――逃れたレンシアラ人のほとんどは、私達と変わらない無害な人々です。ですが知識の回廊財団と、その理事長であるユリース・ティスタリスはそうではありません。近年、帝国領内で発生している神隷機による破壊活動も、円卓での殺戮も……どちらも彼らの意志によるもの。私ですら、彼らが今もどれほどの技術を操れるのかは把握できていません』
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「陛下。連邦側の退避が完了したようです」
「そうか」
沈黙した天空城――カシュランモールの玉座。
宰相アンフェルからの報告を受けたヴァースは、玉座に深く腰掛けたまま応じた。
「連邦議長の死は確かなようです。さきほど、後方の野営に〝連邦から書状〟が届いたと、雷竜騎士団のルイーズ将軍から報せがありました」
「ままならんものだな……」
セネカが残したレンシアラ残党に関する書状。
それは連邦国内のみならず、セトリスやエリンディアなどの友好国はもちろん、敵国であるアドコーラス帝国にも送られていた。
「連邦からの書状がレンシアラへの糾弾文であるなら、他国との同盟締結も検討可能かと思いますが」
「……いいや。その必要はない」
アンフェルの言葉に、しかしヴァースはその目を見開いて玉座から立ち上がる。
その老いてなお燃えあがる眼光には、〝激しい怒りと憎しみの意志〟が宿っていた。
「停戦は終わりだ。雷竜騎士団の到着を待ち、進軍を再開する」
「御意」
「キリエ……そしてセネカ。俺より若く才ある者の命が、レンシアラのウジ虫どもによって失われる……そんなふざけた道理は、俺の手で終わらせなければならん」
剣皇は止まらず。
総力を結集して建造した天空城を破壊されようとも。
今も続くレンシアラの暗躍が明るみになろうとも。
そしてそれにより、敵対する他国との共存という一筋の光がかいま見えたとしても。
それでも、剣皇がその覇道を止めることはなかったのだ。
「待っていろキルディス……貴様だけは、必ずこの俺の手で殺してやる」
数日の後。
帝国軍は連邦の首都エステリアを制圧。
主要都市も次々と陥落し、エーテルリア連邦は事実上消滅した。
だがしかし。
剣皇が狙った連邦軍の士気破壊は叶わず。
カシュランモールを失った帝国軍も、広大な連邦全土の完全制圧は不可能となった。
いまだ高い士気を持つ連邦の残党と帝国軍は、再びこう着状態へと。
そして祖国存亡の危機に命をかけた決戦を仕掛け、天空城を落とした連邦軍の戦いぶりは、大陸各地の反帝国勢力を大いに勢い付かせることになる――。
『――とまあ、レンシアラ残党の活動については以上です。もし私がもっと早くに彼らと手を切り、はっきりと対策を打っていれば、こんな遺書なんて書かなくてよかったかもしれませんが……今となって思うと、きっとこの辺りが私の限界だったのでしょう』
――――――
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――
「――みんなでエリンディアに帰りましょう」
首都決戦から数日の後。
修復を終えたトーンライディールの甲板で、ニアはシータとリアンにそう告げた。
「それはいい! 私もそろそろ帰りたいと思っていたところだったのだ。この前は連邦でお留守番だったからな!」
「でも、連邦のみなさんはまだ戦ってます。僕たちだけエリンディアに帰ってもいいんでしょうか?」
「ええ……私もシータさんと同じ気持ちよ。けど今回は良いとか悪いとか……そういう問題じゃないの」
「???? なら、どういう問題なのだ?」
唐突なニアの言葉は、二人を大いに驚かせた。
しかしその驚きは、目の前のニアが見せる沈痛な表情によってすぐにかき消される。
「さっき、エリンディアから報せが届いたの……半月前に、ソーリーン様がお倒れになったって……あまり、よくないって――」
『――最後に。残念ながら私には、剣皇のような英雄になるほどの力も、勇気もありませんでした。ですが、だからこそ私はこの手紙を目にする皆さんに託したいのです。子供の頃の私が夢見た……剣皇をも越える英雄の到来を。そして私が愛した連邦の未来を、命ある貴方達に託します。どうか、皆様の頭上に武運の星があらんことを。
エーテルリア連邦議長、セネカ・エルディティオ』
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「――早く早く! こっちだよ!」
「そう急かさないでおくれよ! そんなに急いだらこっちが怪我人になっちまう!」
首都エステリアの北にある山間部。
そこでは連邦議会の避難指示も知らず、変わらぬ日常を送っていた村人達が、騒然とした様子で野山をかけていた。
「あれだよ! 見て!」
「この子、怪我してるの!」
「こりゃあ……確かに、酷い傷だ……」
「けどまだ息がある! それに、よく見りゃ傷もそこまで深くはねぇ。早く運んで手当してやらんと!!」
「けどこの子の格好……天契機乗りの〝騎士様〟か? もしかして、昨日都であったっちゅう戦でやられちまったのかのう?」
「そうなの? でもこの子の鎧、都で見た騎士様とぜんぜん違うよー?」
「いいから! 無駄口叩いてないで、さっさと運ぶ!!」
深い森の奥で村人達が見つけたのは、金属製の羽に守られ、重傷を負いながらも奇跡的に命を繋いだ〝一人の少女〟の姿だった――。
天穹のイルレアルタ
エーテルリア連邦編 完
次章、最終章。
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