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天上の混迷


「なーんだ、つまらない。せっかくイルレアルタが第三覚醒まで到達したっていうのに、〝あいつ〟の余計なちょっかいでシータ君が目を覚ましちゃったみたいだね」


 ここは、連邦と帝国の戦場を遙か見下ろす天上。

 現行の飛翔船では決して辿り着くことができない、地平が大きく弧を描く星と空の境界。


 そこに浮かぶのは、一隻の巨大な黄金船。


 空鯨に牽かれずとも悠々と航行を続けるその船の中で、知識の回廊財団理事長――否、かつて帝国によって滅ぼされた、〝封印国家レンシアラの残党〟であるユリースは、大きな不満に表情を歪めていた。


「まったく……本当にあの男は、いつだってぼくの邪魔ばかりするね。あのままイルレアルタの覚醒が続けば、連邦も帝国もまとめて片付けてくれたかもしれないのに。そうしたら、ぼくももう少しイルレアルタの研究が出来たのにさ」


 ユリースの目の前には、刻一刻と変化する連邦対帝国の戦いの様子が映し出されていた。

 そしてその中の一つ。

 深紅の光を徐々に失っていくイルレアルタの姿に、ユリースは心底がっかりした様子でため息をつく。


「でもそうだね……やっぱりあの子は、前に乗ってた〝出来損ない〟と違ってとっても優秀だ。イルレアルタの力をあそこまで引き出したのに、全然平気そうだもんね。さすがは〝フェアロストの血〟――ここでイルレアルタと一緒に消さないといけないのが、本当に残念だよ」

   

 言って、ユリースは席を立つ。

 そして無数の機械が忙しなく動き続ける一角に歩みを進め、そこにある一つのボタンを見つめて笑った。


「心からお礼を言うよ、シータ君。君のおかげで、ぼくたちレンシアラは、もう一度世界の平和を取り戻すことが出来る。だから安心して……君が願っていた平和な世界は、必ずぼくたちが実現してあげる。セトリスでナズリン君が見つけてきた……この〝破滅の星(ナグナルイン)〟を使ってね!!」


 ナグナルイン。


 それはかつて、天帝戦争の末期にレンシアラによって放たれ、エオインとイルレアルタによって阻止された大陸破砕兵器。

 ナズリンの手によってセトリスから発掘されたもう一つのナグナルインは、レンシアラ残党によって運ばれ、こうしてユリースの制御下に置かれていた。


 そして今。ユリースは帝国と連邦が決戦を続ける戦場目がけ、全てを無に帰す破砕兵器の行使を目論んでいたのだ。だが――。 

 

「――なるほどなるほど。さすがは理事長。まさか、このような奥の手をお持ちでしたとは」


「あれ?」


 だがその時。満面の笑みを浮かべるユリースの背後から、一つの声が響いた。


「あれれー? どうして君がこんなところにいるのかな? いくら君とぼくが友達でも、ここに来てもいいなんて言った覚えはないし、来る方法だって教えてないよねー?」


「どうかご容赦を。私も連邦を預かる者として、〝ビジネスパートナー〟の身元は入念に確認しなければなりませんので。こちらも、それなりの備えはしておりました」


 現れたのは、連邦議長セネカ・エルディティオ。

 即座に雰囲気を変えたユリースの鋭い視線を受け流し、セネカは軽やかな足取りで部屋の中央に進み出る。


「なるほど……ナグナルインですか。星砕きの伝説に出てくる破滅の星が、物騒な破壊兵器だったなんて驚きです。本当に存在していたんですねぇ……」


「びっくりした? これを使えば、帝国軍も剣皇もぜーんぶ綺麗さっぱり消えちゃうんだ。君の大切な連邦だって、もう帝国の侵略に怯えなくてすむってわけ。そうすれば、君は連邦の指導者として戦争を終わらせた英雄ってことになるかもね!」


「私が英雄ですと!? それは実に素晴らしい! ですが……これを今から地上に落としたとして、そこにある私どもの都や、今も必死に戦っている我が軍の皆さんはどうなるので?」


「えっ? そんなの決まってるでしょ。ナグナルインにかかれば飛翔船も天契機(カイディル)も、あの帝国のお城だって、みんな一瞬で消えちゃうよ。巻き込まれた人たちは、苦しむ暇もないだろうね!」


「ほっほーう?」


 話しつつも、二人は笑みをたたえたままだ。

 今から戦場にナグナルインを落とすと言うユリースに、セネカは実ににこやかな表情で尋ねる。


「〝永遠の平和〟のためには必要な犠牲さ。この犠牲で帝国との戦いが終われば、この先もっともっと沢山の命が助かるんだ。頭のいい君なら、ぼくの考えが正しいことくらいわかるよね?」


「ええ、もちろんですとも。貴方の教えはいつだって正しく、そしてとても恐ろしい。ですから――」


 セネカは呟き、高々と掲げた指をパチンと鳴らす。

 するとどうだろう。武装した大勢の兵士達が、一斉に二人のいる室内になだれ込んできたのだ。


「残念ですよ、理事長……貴方が連邦に危害を加えるような真似をしなければ、私達はこれからも良い友人でいられましたのに」


「ふーん……説明してくれる?」 


「知識の回廊財団理事長、ユリース・ティスタリス。いいえ、封印国家レンシアラの主席技術者――〝叡智の管理者キルディス・ゾン〟。エーテルリア連邦議長、セネカ・エルディティオの権限により……貴方を捕縛します」


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