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混迷の再戦


「まずは一機撃破……っと。ほんと、先生もレヴェント団長並に人使いが荒いんだから。本気で転職考えようかなぁ……」


 激戦が続くカシュランモール甲板。

 イルレアルタとルーアトランの降下地点近くの戦場。

 フィールグランの撃破を見届けたナズリンは、愛機レイランナーの操縦席で安堵の息を漏らす。


「もう兵士とか騎士なんてこりごりですよ……次はもっとこう、歌ったり踊ったりするような……それで、どこかの街でキラッキラの歌姫になったりして! むふふ、夢が広がる~!」


「連邦め! よくも団長を――!!」


「団長の仇――!!」


 しかし安堵は束の間。

 降下先に待ち構えていた三機の従騎士(ヴァレット)級が、ナズリンの乗るレイランナーに襲いかかる。


「おっと――」


「な……!?」


「消え……!」


 駆け抜ける閃刃。

 怒りと共に放たれた従騎士級の刃は虚空に外れ、機体と機体の狭間を霞のようにすり抜けたレイランナーの二刀は、一瞬にして三機の従騎士級を爆散させた。 


「――すみませんね。こっちにも色々と事情があるんですよ」


 倒した三機には目もくれず、ナズリンは離れた位置で漆黒の天契機(カイディル)――リーナスカースと対峙するイルレアルタを見つめた。


「さーて……今回はどっちが勝つんでしょうね? まあ、〝勝った方を私が殺す〟んですけど。はぁ……つら……」


 どうせなら、〝あの優しい子〟が負ければいい。

 そうすれば、少なくとも自分の手であの子を殺さなくてもよくなるのだから。

 

 傷ついたイルレアルタの背をゴーグル越しに見つめ……ナズリンは一人、そう心の中で願うのだった――。


 

 ――――――

 ――――

 ――



「わかってるなガレス! ここから先はもう騎士道はなしだ。どんな手を使っても、こいつらはここで絶対に潰す!!」


「無論だ。背中は任せたぞ……イルヴィア!」


「へへ……っ! ああ……任せとけ!!」 


 影王リーナスカースと炎姫ドラグラーサ。

 再びシータとリアンの前に立ち塞がった二機の天契機が、戦場を震わせるほどの咆哮をあげる。


「コケー……? コケコケー……?」


「シータ君……本当に大丈夫なのか!?」


「〝わかりません〟……! 大丈夫かどうかなんて、自分でもわからないですよ……でも、だから――!」

 

 恐るべき圧を放つ宿敵を前に、傷ついたシータはなおも操縦桿を握る。


「だから、また僕と一緒に戦って下さい! お願いします……リアンさん!!」


「お、お願いなんて……そんなの、いいに決まってるだろう!? これからもずっと……たとえなにがあろうと、私は絶対に君から離れたりしない!!」


 瞬間。

 対峙する四機の狭間に、連邦軍の投下した火薬樽が着弾。

 無数の炸裂が巻き起こり、両者の間に黒煙と火柱の壁を構築する。そして――!


「決着をつけるぞ、星砕き――!」 


「燃やせ、ドラグラーサ!!」


 炸裂を合図に、先に仕掛けたのはガレスとイルヴィア。

 変幻自在の影刃を形成したリーナスカースを前衛に、後衛となったイルヴィアはドラグラーサの両肩に備わる火炎弾を連射。

 シータとリアンの逃げ場を潰し、二人の機体が得意とする機動戦を封じにかかる。


「撃つ――!」


「来い、シータ・フェアガッハ!」


 ガレスが狙うはイルレアルタのみ。

 これまで二人は二度戦い、一度目はシータが、二度目はガレスが勝利した。

 最後と定めたこの戦い、放たれたイルレアルタの矢をリーナスカースは正面から切り払い。

 地響きと共に踏み込み、イルレアルタの眼前に迫る。だが――。


「――お前の相手は、この私だぁああああああああああ!!」


「なに!?」


 だがしかし。

 迫るリーナスカースに対し、イルレアルタはなんの躊躇も執着も見せずに退避。

 そしてそれと同時、ガレスの視界に純白と蒼穹とを宿すエリンディアの守護神――ルーアトランの剣刃が肉薄した。


「帝国の黒騎士!! お前の相手はシータ君だけではない……このリアン・アーグリッジもいることを忘れるな!!」


「エリンディアの眠り姫……! この剣の冴え……貴卿もかつてとは違うと見える!」


「おいおいマジかよ!? ってことは……」


「今――!!」


 刹那の交錯。

 ルーアトランを前衛としたイルレアルタが、跳躍と共にドラグラーサに矢を放つ。

 不意を突かれたイルヴィアは、咄嗟にドラグラーサの翼を展開。

 灼熱の炎を目くらましとして回避、同時に二振りの戦斧を抜き放つと、イルレアルタめがけて加速突撃する。


「この――! びっくりさせやがって!!」


「それだって、リアンさんに教えてもらってます!!」


「コケコケーー!!」


 ドラグラーサの突撃に、しかしイルレアルタはあえて前進。

 軸をずらして〝交差機動で回避〟すると、今度はルーアトランと切り結ぶリーナスカース目がけて射撃。

 更には軽業(かるわざ)的な動きで宙を舞い、背面に隙を晒すドラグラーサにも追い打ちをかける。


「甘い!!」


 だがしかし、ガレスはそれにも瞬時に反応。


 機体出力を全開にしてルーアトランを押しのけると、展開した影刃で閃光の矢を破壊。

 さらに延伸した影の刃はルーアトランにも襲いかかるが、ルーアトランは風の翼を展開して垂直回避。

 返す刃でリーナスカースに大上段からの一撃を叩き込む。


「なるほど、手強い――!」


 だがリーナスカースはその一撃をぎりぎりで回避。

 しかしルーアトランの斬撃はカシュランモールの分厚い甲板を粉砕、陥没した足場から二機は同時に離れる。


「ぐぬ! 避けられた!!」


「どけ、ガレス――!!」


 それと入れ替わり、業火を纏うドラグラーサがまだ体勢の整わないルーアトランめがけて突貫。

 リアンは逃れようと風の翼を操るが、すでに最高速度に乗るドラグラーサ相手には間に合わない。


「――させない!!」


 そこに飛び込む衝撃。

 ドラグラーサはルーアトランまで到達せず、イルヴィアは回転する視界に目を回す。


 衝撃の主はイルレアルタ。

 シータは飛翔するドラグラーサの胴に空中で飛び蹴りを叩き込み、紅蓮の機体を足場に流れるように跳躍。

 空中のルーアトランを支えて無事な甲板に導くと、油断なく周囲の戦場に視線を向けた。


「ち……っ! こいつら、前と比べてずいぶん手際よく戦うじゃないか!」


「円卓ではあれほどに感じていた、星砕きの〝私への殺意〟が完全に消えている。あの時の少年が……恐ろしい相手になったな」


 未だ終わりの見えない戦場。

 見違えるほどの戦いぶりを見せるイルエアルタとルーアトランに、ガレスは思わず感嘆と畏怖の声を漏らした。しかし――。


(お師匠……キリエさん……っ)


 しかしシータの心は未だ癒えず。

 今も深い嘆きと後悔の出口を求め、せめてもう失うまいと前を向いていた。

 

「まだです、リアンさん……! 僕たちの役目は……〝この人たちを倒すことじゃない〟!!」


「そうだな……! ならば、君の道は私の剣で切り開く! 頼んだぞ、シータ君!!」


 問いも答えも、全てを後回しに。

 今にも砕けそうになる心を必死にかき集め、シータは再び矢をつがえた――。


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