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灼熱の戦場


 セトゥから流れ落ちるマグマの流れは二つの火の川となり、その周囲に新たな地形を生み出した。

 天契機(カイディル)ですら突破出来ない超高熱の大地と、そこから沸き立つ有毒な大気である。


 だがセトリスの人々は代々この地獄のような土地に根を張り、様々な恩恵を享受してきた。


 一つは、セトゥのマグマによって大地の底から運ばれてきた希少な鉱物類。

 レンシアラとセトリスが殆ど対等の条件で貿易を成立させていたのも、この火山帯でしか手に入らない希少な鉱物資源があればこそ。


 そしてもう一つの恩恵は言わずもがな、首都防衛の容易さである。

 セトゥの灼熱地獄を迂回してセトリスを攻めようとすれば、今度は広大な砂漠を越えるために甚大なコストが必要となり、更なる地獄が外敵に襲いかかる。

 

 セトリス建国からおよそ二千年。


 この古の大国はほんの数ヶ月前までこの地獄に守られ、育まれて繁栄を謳歌してきた。だが――。


「て、帝国軍……来ます!!」


「弩砲隊前へ! 帝国軍に火の川を越えさせてはならん!!」

 

 それはまさに地獄と呼ぶに相応しい戦場だった。


 砂漠を横切る赤黒いマグマが大蛇のようにのたうち、炸裂と共に火柱が昇る。

 周囲の景色は蒸気と灰でかすみ、恐るべき高熱によって陽炎がゆらめく。


 シータたち独立騎士団がセトリスに到着して三日目。


 帝国軍進軍の報せを受けたセトリスは、すぐさま最前線のバーリバン砦へと迎撃の軍を進めた。


 その陣容は、渡河を狙う帝国軍を狙い撃つ弩砲隊を中心に、砂エイと呼ばれる〝宙に浮かぶエイ〟を操るセトリスの騎兵隊が数百。

 さらには将軍ラファムが操るレンシアラ製天契機、セルクティも守備隊の総大将として控えていた。しかし――。


「だ、駄目です! やはりこちらの弩砲は効果がありません!」


「足元を狙え! 少しでも奴らの足を止めろ!!」


 しかし今。

 火の川を渡り迫る帝国軍めがけ、次々と矢を放つセトリス軍からは絶望の悲鳴が上がっていた。


 たった今彼らが矢を放つ先――そこでは〝地を這う芋虫のような形の兵器〟が、車体の周囲に凄まじい蒸気をまき散らしながらゆっくりと前進を続けていたのだ。


「ご覧下さい。我々はあれをラシュドゥーム(死の虫)と呼んでいます。二ヶ月前の戦いにおいて我らはあの兵器によって陣形を崩され、大敗を喫したのです」


「あれが帝国の新兵器か。なんとも気持ちの悪い見た目をしている!」


 セトリスが用いる天契機と砂エイに乗る騎兵たちは、古来から用いられる〝防毒と耐熱の技術〟によって、短時間であれば火山帯でも戦闘が可能だ。


 しかし堅牢な前面装甲を持つラシュドゥームに弩砲は効果が薄く、生身の騎兵ではラシュドゥームが機体の冷却時に吐き出す熱蒸気で焼かれてしまう。


「先の戦いで、我が方の天契機は多数のラシュドゥームを撃破することに成功しています。しかしこちらがラシュドゥームに気を取られている隙に、帝国に有利な状況で天契機戦を仕掛けられ……」


「戦力としては天契機に劣っても、火山帯では双方の戦術が制限され、大きな脅威になるということですね」


 バーリバン砦の(やぐら)から戦場を見つめ、ニアは傍に立つセルクティから響く将軍ラファムの言葉に頷く。


 ニアの読み通り、もし通常の砂漠や平地にラシュドゥームが現れたとしても、これほどの脅威にはならなかっただろう。

 強固な前面装甲と引き替えにラシュドゥームの機動力は鈍重であり、前面以外の守りは薄い。


 対歩兵への迎撃手段も機体の冷却に伴う熱蒸気のみであり、明らかに火山帯の突破だけを想定して開発されたことが窺えた。


「ところで、私はまだルーアトランに乗らなくてもいいのか?」


「ええ。そもそも、ルーアトランは砂漠での戦いにも、火の川での戦いにも向いていないの。戦うにしても、出来る限り敵を引きつけてからの方がいいわ」


「なるほど、つまり奥の手というわけだな!」


 戦場を眺めるニアの隣。

 すでに軽鎧に身を固めて逸るリアンに、ニアはルーアトランの弱点と用兵を話して聞かせる。


「ですがこのままでは、今回も先の大敗の二の舞になります。エルフィール様が仰った〝戦力の秘匿〟による有利は失いますが……どうか今こそ、エリンディアの力を我々にお貸し願いたい!」


「承知しております。いずれにしろ、ここを突破されれば策も何もありませんから」


 ここでエリンディア軍の力を示すということは、ニアが事前に提案した強襲策の放棄を意味する。

 だが将軍ラファムの苦肉の懇願に、この戦場においては客将の立場であるニアはすぐさま従った。


「ならば、まずはシータ君の出番だな! 頼んだぞ、ナナ!」


「コケ!」


「イルレアルタのシータさんに伝えて。セトリスに迫る帝国軍の兵器を、一つ残らず破壊するようにって!」


「コケコッコーーーー!!」


 だがなんということか。

 リアンとニアが伝令として指示を与えたのは、しれっとリアンの肩に乗っていた白鷹のナナ。

 二人の言葉を当たり前のように理解したナナは一瞬にして櫓から飛び立つと、噴煙渦巻く黄金砂漠の上空を一直線に北へ。


 その白い翼が砂丘の向こうに消えると同時。

 ゆらめく陽炎を切り裂き、一条の光芒(こうぼう)がラシュドゥームの群を射貫いた。


「こ、この光は!?」


「見ろ! 忌々しい帝国の虫共が、次から次に吹き飛んでいくぞ!!」


 砂漠を翔る光芒の主。

 それはシータが駆る灰色の天契機、イルレアルタ。


 金色に輝く砂丘の上に姿を現わしたイルレアルタは、その灰褐色のケープを熱風にはためかせ、火山帯を進むラシュドゥームめがけて更に一矢、二矢と高威力の光弾を連続して叩き込む。

 

「コケーー! コケコケ!」


「大丈夫! ナナは危ないから離れて!」


「あれは星砕きだ! 伝説の星砕きが、我らのために戦っているぞ!」 


「星砕き……あれが!?」


 それはまさに一網打尽。

 イルレアルタの矢を受けたラシュドゥームは、弩砲の直撃にも耐える前面装甲を容易に撃ち抜かれ、為す術なく破壊されるのみ。


 やがて敗勢を悟った帝国軍は全軍後退を告げる信号弾を天に放つと、蜘蛛の子を散らすように火山帯の東へと撤退。

 後には赤黒いマグマの上で燃える、いくつものラシュドゥームの残骸だけが残った。


「帝国軍の撤退を確認!! 支流の砦まで後退した模様です!!」


「やったぞ!! 我々の勝利だ!!」


 沸き上がる歓声が黄金の砂漠に響き渡る。


 たった一機。

〝たった一機の天契機(イルレアルタ)〟の参戦が、戦場の趨勢を一瞬にして塗り替える。

 それはまさしく、英雄の再来と呼ぶに相応しい戦果だった。


「これが星砕きの力……なんと凄まじい……」


「これで帝国軍も、暫くは火山帯の渡河を試みようとはしないでしょう。私たちも、すぐに次の一手を講じるべきかと」


「これならばきっと摂政(せっしょう)殿も納得して下さるはず……急ぎ都に戻り、この勝利を陛下にお伝えしましょう!!」


「むぅ……?」


 目の前で繰り広げられたイルレアルタの活躍に、セトリスの戦士たちは驚愕と喜びが交じり合った感情で興奮を露わにした。だが――。


「なんだろうな……前に戦った帝国軍と比べると、ずいぶんと綺麗な引き際に見えるが……」


 だがそんな中。

 一人リアンだけは、帝国が見せた〝迅速すぎる引き際〟に、言いしれぬ違和感を抱いていたのだった――。


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