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54 舞踏会③ アンジェリカ視点

そしてその声と共にフィリクスお兄様が会場へと入って来た。



お兄様の姿を見た令嬢たちが歓声を上げる。



「王太子殿下だわ・・・!何て麗しいのかしら!」



「今日こそは殿下の心を射止めてみせるんだから!」



「あの方の妃になるのは私よ!」



フィリクスお兄様は社交界で絶大な人気を誇っている。しかも未だに誰とも婚約していないというのだから余計に令嬢たちに気合いが入っている。実際に、この会場にいる貴族令嬢の半数以上はお兄様狙いだろう。



(まぁ、王太子という地位に加えあの容姿なら当然のことかしらね)



フィリクスお兄様の婚約者になることが出来れば未来の王妃だし、お兄様の性格からしてきっと側妃を迎えたりはしないだろうから・・・



「・・・」



それにしても、フィリクスお兄様が何故あの聖女をあそこまで気にかけるのかは分からない。お兄様はもっとハイスペックな女を狙える人だ。平民出身のあの聖女にこだわる必要などあるのだろうか。



(あの聖女、もしかして魅了魔法のようなものでも使ってたのかしら?)



どれだけ考えてもあの女の魅力が分からない私はそう思わざるを得なかった。







「国王陛下です!!!」



そして最後にお父様が入場してきた。お父様は王妃様が亡くなってからずっとその座を空席のままにしている。きっと私のお母様のことが忘れられないのだろう。



フィリクスお兄様の母親である王妃様と私のお母様。



あまり仲は良くなかったと聞く。まぁ、二人の立場的に仲良くしろという方が無理な話だが。王妃様とお母様のことを考えると何だか複雑な気持ちになる。



(ハァ・・・クレア様さえいなければ私のお母様が王妃だったのに・・・)



私は完璧な女だ。しかし一つだけどうしようもないコンプレックスがあった。それは母親の身分が低いこと。私の母は男爵家の令嬢でとてもじゃないが王妃になれるような身分ではなかった。



平民たちからしたら身分が低いにもかかわらず王太子の心を射止めた男爵令嬢のシンデレラストーリーのように感じるかもしれない。しかし貴族たちから見れば私のお母様は国王陛下の寵愛を一身に受けているにもかかわらず正妃になれなかった卑しい女という認識だった。



(屈辱だわ・・・)



お母様が側妃ではなく王妃なら母親の身分のことでここまで蔑まれることはなかっただろう。むしろお母様はあそこで死んでくれてよかったのかもしれない。どうせ生きてたところで、私の汚点になるだけだっただろうし。



私はそう思いながらもすぐにお父様の元へと向かった。



「お父様!」



「おぉ、アンジェリカ!」



お父様は私を見てすぐに破顔した。



「アンジェリカ、今日も本当に綺麗だな!成長するにつれてだんだん母親に似てきている」



「うふふ、嬉しいわ」



お父様は本当にお母様のことを愛していたようで、母親に瓜二つな私を見て顔を綻ばせた。



それから私はしばらくの間お父様と話していた。お父様は私が何を話そうとも笑顔で頷きながら聞いてくれる。これが私たちの日常だった。仲の良い父娘。そんな私たちを会場にいる貴族たちは温かい目で見ていた。



しかし、今日に限って私たちの間に割り込んできた人物がいた。



「―陛下」



その声の主を見たお父様の顔が一瞬にして強張った。



「何の用だ、公の場では話しかけるなと言っただろう!」



「・・・まぁまぁ、今日くらい良いではありませんか」



微笑を浮かべながらそう言ってこちらへ歩いてきたのは、フィリクスお兄様だった。



「お兄様・・・」



お父様はお兄様のことを嫌っている。まぁ、あの王妃様の息子なのだから無理もない。ここがもし物語の世界なら王妃様は完全に悪役なのだから。もちろんヒロインは私のお母様でヒーローはお父様。



お父様は私たちの傍まで来たお兄様を怒鳴りつけた。



「さっさと消えろ!アンジェリカとの時間を邪魔するな!」



「・・・」



フィリクスお兄様はそんなお父様を何の感情も映していない瞳でじっと見据えた。



「・・・ッ」



お兄様のその目にお父様が一瞬ビクリとした。



「ハッ・・・お前のその目、本当に忌まわしい!あの女もそうだった、あいつもいつも私をそんな目で見つめていた」



「あの女・・・」



それが誰のことか察したお兄様の表情が冷たくなっていく。



「本当に可愛げのない冷たい女だった!」



「・・・陛下」



お父様が口を開くたびにお兄様の瞳はさらに冷たくなっていった。お父様は絶対零度の視線を向けるお兄様に気付いたのか、ハッとなって口を閉じた。



(・・・ハァ。年を取っても臆病なのは変わらないのね。まぁ、お兄様相手に頑張った方じゃないかしら?)



私は実の息子に恐れおののいているお父様を侮蔑の込もった目で見つめた。



「・・・・・・と、とにかく早くどっかへ行け!お前の顔は見たくない!」



「・・・それは出来ませんね、今日はあなた方に用があってここに来たのですから」



「用だと?それならさっさと言え!」



狼狽えるお父様を見て、お兄様はクスリと笑った。お父様を馬鹿にしているかのような酷薄な笑みだった。



「ハハハ。陛下、あなたが実の息子である私相手にみっともなく騒ぎ立てたせいで会場にいる貴族全員が私たちに注目しているではありませんか」



「ハッ・・・」



そこでお父様はようやく注目を浴びていることに気付いたようだ。周りを見て慌てふためいている。



会場にいる貴族は私たち三人を目を丸くして見つめていた。当然だろう。お父様が今口にした言葉は、とてもじゃないが実の息子相手に言うことではなかったのだから。



「―でもちょうど良かった」



そのとき、お兄様はニヤリと笑みを浮かべた。



「な、何だ・・・?」



「お、お兄様・・・?」



その笑みの意味が分からず、私もお父様も困惑した。



そして、お兄様は会場中に聞こえるほどの大きな声でハッキリと告げた。



「―今日、私がここに来たのは陛下、そしてアンジェリカの罪を明らかにするためです」





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