52 舞踏会① アンジェリカ視点
「ふふふ♪」
この日、私の機嫌は最高に良かった。
何故ならようやく邪魔な聖女ソフィアが消えるからだ。
(私がどれほどこの日を待ち望んでいたか・・・!)
もちろんそれを実行するのは私ではない。
幼馴染のアルベールだ。
アルベール・ダグラス
ダグラス公爵家の令息で私の幼馴染でもある。私はハッキリ言って昔からこの男が苦手だった。自尊心が高く、傲慢なアルベールは私以外に友人と呼べる人間はいない。だからこそ私に心酔している。
今思えばアルベールは昔から本当に気持ち悪かった。私が少し他の男といるだけで嫉妬心をむき出しにしていたし、私のことを誰よりもよく知っているという謎のアピールがすごかった。アルベールの前では友達として接していたが本当はすぐにでも私の目の前から消えてほしいと思っていた。しかしいざというときのためにあえて友達という関係を続けていたのだ。
私はニヤリと口の端を上げた。
(邪魔な人間を二人まとめて消せるだなんて・・・なんて良い日なのかしらね♪)
この一件でアルベールもおそらく聖女殺しの罪で処刑されることになるだろうが、背後にいる私の存在が知られることはない。だって彼は私を裏切るくらいなら死を選ぶような男なのだから。
聖女ソフィアはもちろん邪魔だが、アルベールも今ここで死んでくれるならむしろ良い。愛する私のために死ねるなら彼も本望だろう。それに最後の最後にあの男にひと時の夢を見させてあげたのだから。
私はそのときのことを思い出して震え上がった。
『私ね、アルベールのこと大好きよ』
(ハァ・・・何で私がアルベールに愛想振りまかないといけないのよ!)
そのことだけが屈辱だが、アルベールに聖女を消してもらうためには仕方がない。
私はこの男を駒として利用することにしたのだ。アルベールは私のためなら何だってする人間だから。こんなに都合の良い駒があるだろうか。
アルベールの存在を思い出したときは勝ったと思った。これで自分の手を汚さずにあの聖女を消すことが出来る。
「王女殿下、今日のドレスはどれになさいますか?」
「そうね、その赤いのにしようかしら」
「かしこまりました」
今日の舞踏会ではきっと血を見ることになるだろう。だからあえて赤色のドレスを選ぶのだ。
「ふふふ、やっぱりこの色が一番しっくりくるわね」
私は鏡の前で血のように赤い色のドレスを着た自分を見て笑みを浮かべた。
「さぁ、そろそろ行きましょうか。今日は何だか私の人生で最高の日になりそうだわ」
侍女にそれだけ言って私は部屋を出た。今日はいつもより足取りが軽い。
(さぁ、楽しい楽しい舞踏会の始まりよ)




