38 三日間の終わり
「お兄ちゃんブサイク」
「うるさい」
あの後、休憩を終えた私たちは子供たちの元へと戻っていた。泣きすぎて目が真っ赤になっているダグラス公子を見た子供たちは爆笑した。子供たちに笑われた彼は顔を赤くした。
「俺のことを舐めてるのか!?」
「だってほんとに変な顔してるんだもん」
「黙れ!」
私はその光景を近くでじっと見ていた。
(ダグラス公子、完全に遊ばれてるな・・・)
そんなダグラス公子と子供たちのやり取りを見て私も自然と笑いがこみ上げてくる。私の笑い声に気付いたのか、彼がこちらを振り向いた。
「おい、笑うな」
「だって、仕方ないじゃないですか」
そう言いながらまたクスクスと笑うと、ダグラス公子は今度は私を怒鳴りつけた。しかし、それもあんな姿を見た後ではもう何とも思わない。
すると、一人の子供がダグラス公子の服をキュッと掴んで言った。
「お兄ちゃん、今日は遊んでくれてありがとう」
「ん・・・ああ」
視線を下に向けたダグラス公子はぶっきらぼうに返事をした。
「また一緒に遊ぼうね!」
「・・・」
満面の笑みでそう言った子供たちを彼はじっと見つめていた。言葉を返すことは無かったが、その顔は優しかった。
「聖女様もありがとう!またね!」
「うん、またね」
そして私とダグラス公子は子供たちに見送られながら教会を後にした。私たちが見えなくなるまで手を振ってくれる子供たちに私も手を振り返した。ダグラス公子に関しては、子供たちに手を振り返すことは無かったが彼らのことが気になるのか時折チラチラと後ろを振り返っていた。
「ふぅ・・・今日はよく眠れそうです」
「ガキの相手をするのは疲れるな」
「そんなこと言って、結構楽しんでたじゃないですか」
「そんなわけないだろ」
「もう、本当に素直じゃないんですね。公子様は」
「二度とそんな口が聞けないようにしてやろうか?」
「はいはい」
ダグラス公子との三日間に渡る教会での奉仕活動がようやく終わりを迎えた。この三日間で私の知らないダグラス公子の姿をたくさん見れたような気がする。
(まさかダグラス公子が泣いちゃうだなんて思わなかったわ)
不思議ともうダグラス公子のことを怖いとは思わなかった。彼の弱い姿を見たからだろうか。
しばらくして私たちはダグラス公子の馬車が停めてある場所に到着した。
「お前の馬車はどこにあるんだ?」
「あ、私馬車で来てないです」
「・・・・・え」
私のその言葉に、ダグラス公子の目が点になった。
「王宮までそんなに遠くないのでいつも徒歩で行ってるんですよ」
「・・・」
私の発言にダグラス公子は完全にドン引きしたような顔をした。貴族からしたらそんな反応になるのも無理はないだろう。それでも私はこの習慣をやめるつもりはさらさらないが。
(それにしても今日は本当に疲れたなぁ・・・)
いつもよりたくさん動いたからか、疲れが溜まっていた。一刻も早く部屋へ戻ってベッドに入りたい。そう思った私は隣を歩いていたダグラス公子に別れの挨拶をした。
「それでは私は帰りますね。公子様、三日間本当にお疲れ様でした」
そう言って立ち去ろうとした私を、ダグラス公子が引き留めた。
「・・・待て」
「・・・何でしょうか?」
まだ何か用があるのかと思い立ち止まった私に、彼は信じられないことを口にした。
「・・・・・・・王宮まで送っていってやるよ」
「え?」
私の聞き間違いだろうか。思わず聞き返した私にダグラス公子は不愉快だとでも言いたげに顔を歪めてハッキリと言った。
「王宮まで俺の馬車で送っていってやるって言ってるんだ」
「ええっ!?いやいや、いいです」
聞き間違いじゃなかったのだと悟った私は必死で遠慮するが、ダグラス公子はなかなか引かなかった。
「遠慮するな。疲れてるんだろ。さっきから足がふらついてるぞ」
「あ・・・」
そこで私は自分が思っている以上に疲労が溜まっていたのだということに気が付いた。
「そんなヤツを一人で帰らせるわけにはいかない。俺はそこまで非道な人間じゃないぞ」
「公子様・・・」
結局私は彼の提案に乗り、王宮まで送っていってもらうことを決めた。
そして私はダグラス公子と向かい合うように座っていた。
馬車の中にダグラス公子と二人きり。気まずい空気が流れるのだけは嫌だったので、私の方からダグラス公子に話しかけた。
「公子様、今日はよく休んでくださいね」
「母親みたいなことを言うんだな」
「公子様のためを思って言ってるんです」
目の前に座るダグラス公子の横顔を見て私は安堵の息を吐いた。
(最初はどうなることかと思ったけど・・・案外いけるものね)
性根を叩き直すことが出来たのかは分からないが、とりあえず無事に三日間を終えることが出来て良かったなと思う。それに、少しだけダグラス公子と仲良くなれたような気がする。
別にダグラス公子と仲良くしたいとは思わないが、嫌われたままというよりかはマシだろう。
「公子様、ありがとうございます・・・」
「・・・」
まさかダグラス公子にお礼を言う日が来るとは思わなかった。
彼は私のその声に反応することは無く、ただ窓の外をじっと眺めていた。




