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31 奉仕活動

一度は無視されたものの、だからといってここで諦めるわけにはいかない。この先の三日間を平穏に過ごすことが出来るかどうかは彼に委ねられているようなものなのだから。



「あの、聞いてます?」



「・・・」



そう思って話しかけたが、相変わらずダグラス公子からの返事は無い。



「公子様」



「・・・」



一体彼は何度私を無視するつもりなのだろうか。



(もう、あったま来た!)



私はついに我慢の限界を迎え、ダグラス公子に向かって声を張り上げた。



「ちょっと、公子様!」



「うるさい」



ダグラス公子は不快そうな顔をしてそれだけ言った。



そしてダグラス公子はこのときようやく私の方を見た。彼は非常に不快だという目つきで私を見下ろした。



「品が無い女だとは聞いていたが・・・想像以上だな」



「・・・」



イラッ。



何かがプツンと切れる音がした。



アンジェリカ王女殿下から聞いたのだろうか。たしかに彼女なら私のことをそんな風に言っていそうだ。



(いけないいけない・・・冷静にならないとね)



ダグラス公子のその言葉を聞いた私は彼を思いきり殴り飛ばしたくなる気持ちを必死で抑え込んだ。



「とにかく!行きますよ、ダグラス公子。今日は私のお手伝いをしてくださるんでしょう?」



「・・・」



私がそう言っても、ダグラス公子はその場から動こうとしなかった。



(こうなったら・・・!)



私は先ほどからずっと不貞腐れているダグラス公子に意地の悪い笑みを浮かべて言った。



「あれ、良いんですか?ダグラス公爵様の命令でここにいるんでしょう?サボってるのがバレたら大変なことになるのでは?」



「お前・・・」



それを聞いたダグラス公子は恨めしそうに私を見た。父君の名前を出されたら反論の余地が無いのだろう。



「・・・チッ」



そして舌打ちをすると黙って私について歩いた。



(・・・うん、これからダグラス公子が生意気なこと言ったら公爵様の名前を出そう)



私はそう心に決めて、さっそく奉仕活動に取り掛かった。




◇◆◇◆◇◆






「今からは掃除をします!」



私はどうにかしてダグラス公子と仲良くなろうと思い、明るい声で彼に言った。



しかしダグラス公子はそんな私の言葉に眉をひそめた。



「・・・この俺にそんな使用人たちがやるようなことをさせる気か?」



「はい!」



「・・・」



満面の笑みで返事をした私にダグラス公子が呆れたような顔をした。



(考えてみれば、案外悪くないかもね)



この教会の中をたった一人で掃除するというのは本来であればかなり時間がかかる。相手がダグラス公子だということについてはともかく、それを見返り無しで手伝ってくれるというのは悪い話ではない。



「それでは、公子様は雑巾がけをお願いしますね」



私はダグラス公子に雑巾とバケツを手渡した。しかし彼は私の手にあるそれを受け取ることなくじっと見つめた。



「これは何だ?何をする道具だ?」



どうやらダグラス公子は掃除などしたことが無いようだ。



(まぁ、高貴な家のご令息だから当然のことなのかな・・・)



私も平民だった頃はよく自分の家の掃除をやっていたが、王宮に上がってからはまるでしなくなった。



貴族たちにとってそういうのは”使用人がやる仕事”という認識のようで、普通に貴族として過ごしていればまずそれをすることは無いらしい。



「教会の中を綺麗にする道具です。公子様はどうやら初めてのようですので、一から説明しますね。ではまずこのバケツに水を入れてきてください。詳しい説明はそれからします」



「何で俺がそんなこと・・・」



「公爵様に言いつけますよ?」



「・・・・・・本当に嫌な女だな、お前は」



ダグラス公子は乱暴な口調でそう言いながらもバケツを手に取って外へと向かった。



(やっぱり、お父様に告げ口されるのだけは嫌みたいね)



私はそう思いながら教会から出て行くダグラス公子の背中をじっと見つめていた。



(何だか悪い人になった気分)



まぁ、ダグラス公爵もとんでもないことを押し付けてくれたのだからこれくらいはしてもいいだろう。



それからしばらくして、バケツを手にしたダグラス公子が戻ってきた。



「入れてきたぞ」



その言葉の通り、バケツの中には水がいっぱいに入っていた。



「あら、早かったですね」



「うるさいな、さっさと説明しろ」



私ならバケツいっぱいの水を運ぶのにもう少し時間が掛かっていただろうが、流石は男の人といったところだろうか。力仕事は得意なようだ。



「このバケツの水で雑巾を濡らして椅子とかテーブルを拭いてください」



「・・・」



ダグラス公子はその場から動かず、不快そうに顔を歪めていた。私はそんな彼を鼓舞するかのように言った。



「ほら、早く!お父様に知られてもいいんですか!」



「クソッ」



私の言葉に、ダグラス公子は雑巾をバケツに入れて床に投げつけた。



「ああ、公子様!それじゃ床がビチョビチョです!ちゃんと絞ってください!」



「何だよ、言った通りにやってるだろ」



「雑巾はこうやって絞るんです!」



「いちいち細かいんだよ!」



「公子様が無知すぎるんです!」



「何だと!?」






◇◆◇◆◇◆






そんなソフィアとアルベールの様子を、教会の外にいた子供たちは扉の隙間からこっそりと見ていた。



もちろん言い争いに夢中になっている二人はそのことに気付いていない。



「聖女様、楽しそう」



「うん、何だかものすごいはしゃいでるね」



「それよりあのお兄ちゃん、聖女様のお友達だったんだね!」



「なーんだ、怖い人だと思ってたけど聖女様のお友達なら安心だね」



こうしてソフィアはせっかくの休みをアルベールと共に過ごすことになっただけでなく、挙句の果てに懇意にしている子供たちにとんでもない勘違いをされてしまったのである。




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