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25 お茶会

そして、お茶会の日がやって来た。



私はお茶会用のドレスに着替えて馬車でフローレス公爵邸へと向かっていた。お茶会への参加を決めたはいいものの、不安な気持ちはずっと消えなかった。そのため、私は今まるで戦場に行くかのような気分になっていた。



(気が乗らないなぁ・・・)



そんなことを思っても今さら馬車は止まってはくれない。私は誰にも気付かれないように馬車の中で小さなため息をついた。



そこで私は数日前に見たフローレス公女を思い出した。



(フローレス公女・・・彼女は一体何を考えているんだろう・・・)



彼女が私をお茶会に招待した理由は分からない。それにフローレス公女は全く感情の読めない人だった。彼女がどんな目的で私を招待したのか見当もつかなかった。



(いっそダグラス公子のように分かりやすい人だったらもう少し気が楽だっただろうに)









しばらくして私を乗せた馬車はフローレス公爵邸へと到着した。私は御者の手を借りて馬車から降りた。



そのときの私の目の前に広がったのは、大きくて立派な邸宅だった。



(ここが・・・フローレス公爵邸・・・)



貴族のお屋敷に来たのは人生で初めてだった。まさかその初めてが公爵邸になるとは思いもしなかったが。



公爵邸の前で馬車から降りた後、屋敷の執事さんが出迎えてくれた。



「聖女様、ようこそおいでくださいました。リリーナお嬢様の元へご案内します」



「あ、はい。よろしくお願いします!」



私はそのまま執事の後について公爵邸の中に入って行く。



(すごい広い家だなぁ・・・掃除が大変そう・・・)



さすがは王国の二大公爵家のうちの一つといったところだろうか。王宮ほどではないが、中はかなり広かった。使用人もたくさんいるようで、私とすれ違うたびに頭を下げて礼を尽くした。



それからしばらく歩いて庭園に到着した。どうやらフローレス公女はここにいるようだ。



「お嬢様、聖女様がいらっしゃいました」



「お通ししてちょうだい」



前を歩いていた執事の向こう側からフローレス公女の声がした。その言葉で私は庭園へと足を踏み入れた。このときの私は緊張でガチガチになっていたが、公女の前で粗相を働くわけにはいかなかった。



震える体を何とか動かし、私はフローレス公女の前に姿を現した。



(あ・・・)



庭園に用意されたテーブルを囲むようにして座っていたのはフローレス公女を含めた五人の令嬢だった。



その中には舞踏会で見たことのある令嬢も何人かいた。



皆私のことを興味深そうに見つめている。そこに敵意は感じられないが、そんなに見つめられると顔に穴が空いてしまいそうだ。



私の姿を確認したフローレス公女が椅子から立ち上がった。



「聖女様、私のお茶会へ足を運んでくださってありがとうございます」



「いえいえ、こちらこそ招待してくださってありがとうございます」



フローレス公女は穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。



「どうぞお座りください」



「では、失礼します」



私は空いている席へと向かい、授業で学んだ通りに座った。



そして、私が席に着いたことを確認したフローレス公女が口を開いた。



「聖女様にご紹介いたしますわ。私のご友人のアメリア様とマーガレット様と―」



「初めまして、聖女様」



「お会い出来て光栄です」



フローレス公女の紹介を受けた令嬢たちが私に挨拶をしていった。



「初めまして、ソフィアです」



私も彼女たちに挨拶を返した。



令嬢たちの前では何ともないフリをしていたが、このときの私の心は不安でいっぱいだった。



(平民の私を彼女たちが受け入れてくれるのかな・・・)



ここにいる令嬢たちは皆伯爵以上の爵位を持つ家のご令嬢だ。私よりもずっと高貴な身分の方々である。そんな彼女たちが平民である私と仲良くしたいと思うだろうか。いや、むしろフローレス公女から王太子殿下を奪った私のことを目の敵にしてもおかしくはない。



私はそんなことを考えながらも目の前に置かれた紅茶を一口飲んだ。その紅茶からはとても良い香りがして、何だかすっきりした気分になった。心が少しだけ落ち着いたような、そんな気がした。



「―聖女様」



「フローレス公女様・・・」



令嬢たちとの挨拶を終えた後、フローレス公女は私に声をかけた。



一体何を言われるのだろうか。良くないことを想像してしまい、私は少しだけ身構えた。



「私が今日、聖女様をお茶会へ招待したのは聖女様にお聞きしたいことがあったからです」



「・・・はい」



フローレス公女のその言葉で場の空気が一変した。お茶会に参加していた令嬢たちが急にピリピリし始めたのだ。



(え、ちょっと待って・・・何かよく分かんないけど怖い!)



先ほどまで穏やかな雰囲気を漂わせていた淑女たちが突然皆して冷気を放った。



それはフローレス公女も例外ではなかった。隠してはいるが、その表情からは僅かな怒りを感じた。



(や、やっぱり私と王太子殿下のこと誤解してるんだ・・・!)



それからフローレス公女はお茶を一口飲んでふぅと息を吐いた。



「その前に、先に説明しておかなければいけないことがありますわね」



「え・・・?」



その瞬間、フローレス公女の表情が氷のように冷たくなった。



「―ここにいる私たちは、皆アンジェリカ王女殿下の被害者ですわ」




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