Σ(゜д゜lll) 最強の魔女に勝つために(その一)
「――というわけだ。だましていて本当にすまない」
ヴァンプラッシュ先生の話が終わった。
シンデレラは驚きを隠せない。
テテルたちが『退学』になるという話はウソだった。シンデレラたちの誰かが王子さまと結婚する必要はない。
すべては、現在の状況をつくり出すため。
舞踏会の会場、その近くにある一室。ここには今、シンデレラ、キナコ、フォーテシア、マルリアさん、テテル、クー、スティンクル、リプリスがそろっていた。
シンデレラたち四人と、見習い魔女が四人。全員が仮面を外している。ドレス姿ではなく、元の格好に戻っていた。
部屋の中には他に、ヴァンプラッシュ先生とウルフェニックス先生がいる。
今聞いたばかりの話を、シンデレラは頭の中で整理する。内容が盛りだくさんだった。
なんでも三百年前、当時の人たちが最強の魔女ゴルディロックスを、このお城の時計台に封印したらしい。
しかし、その時計台だけでは、封印は不十分だった。
そこで新たな時計台を建設。
それが、テテルたちの学校にある時計台だという。
双子の時計台による封印は、長い間続いた。
しかし、いつかは終わりがくる。
さっきヴァンプラッシュ先生が言っていた。
――今夜、最強の魔女ゴルディロックスが復活する。
そのことは、エクスアイズ先生の『未来予知』で以前からわかっていたらしい。
シンデレラは心の中でつぶやく。
(この世界には魔女がいる)
良い魔女と、悪い魔女だ。
テテルたちは良い魔女。
もともとは、その最強魔女ゴルディロックスも、良い魔女だったという。テテルたちの学校に通っていた。言うなれば、三百年以上前の大先輩だ。
が、やがて悪い魔女になった。
邪道とされる魔法研究にのめり込み、特に生命に関する分野で、禁忌の実験を繰り返していたらしい。
そうやって身につけた強い力で、この世界を自分の思うままにしようとした。
そして、戦いになる。
三百年前、最強の魔女ゴルディロックスを完全に倒すことはできなかった。封印するのが精一杯だったという。
現在でも、それは変わらないらしい。完全に倒すことはできない。
では、どうするのか? もう一回、その魔女を封印するのか?
最強魔女の復活を、エクスアイズ先生が『未来予知』した日、あの日からヴァンプラッシュ先生たちは考え続けてきた。
しかし、答えは見つからない。どの方法も絶望の未来へとつながっている。
そんな時だ。
ある日を境に、エクスアイズ先生が別の『未来予知』をするようになった。
それは、テテルが『怒り花火』をなくした日。『怒り花火』とは、特殊な『魔法道具』だ。怒りの感情を蓄積させることで、花火の威力を増すことができる。
テテル、クー、スティンクル、リプリスの四人は、入学当時から考えていたことがあった。
卒業前のイタズラで、この学校にある時計台を破壊する。
かつて多くの先輩たちが挑戦したが、未だ誰一人として成し遂げていない。
あの時計台の『不敗伝説』を、自分たちが終わらせる。新たな『伝説』を打ち立てるのだ。そのための秘密兵器が、『怒り花火』である。
そんな『怒り花火』の一つを、テテルがなくした。それを同日、ヴァンプラッシュ先生が偶然拾った。
その日を境に、エクスアイズ先生が別の『未来予知』をするようになったという。
エクスアイズ先生の『未来予知』は、絵を描くことで未来の情報を得る。
最強魔女の復活に関して、ここ何年間はずっと同じ絵ばかりだった。固定された最悪の未来だ。
ところが、ヴァンプラッシュ先生が『怒り花火』を拾った日から、エクスアイズ先生は違う絵も描くようになった。もう一つの未来。運命が変わる可能性が出てきたのだ。
この部屋にある一枚の絵、それにシンデレラは視線を向ける。
先ほどの説明でも触れていた。
そこに描かれているのは、自分たちだ。ドレス姿ではなく、今と同じ格好をしている。
シンデレラ、テテル。
キナコ、クー。
フォーテシア、スティンクル。
マルリアさん、リプリス。
八人の背景にあるのはたぶん、このお城の時計台だ。
絵の中の時計台は、十二時を少し過ぎた時間を指している。周囲が暗くなっているので、昼の十二時ではなく、夜の十二時だろう。
そして、絵の中のシンデレラは、使用済みの『怒り花火』を手にしている。
お城に向かう道中で、シンデレラは未使用のそれを拾っていた。
テテルとリプリスがヴァンプラッシュ先生と戦った直後だ。
その花火をあらためて確認してみる。棒状の物体で、虹色のテープがぐるぐるに巻かれていた。
これが『怒り花火』。テテルが入学当時からずっと怒りの感情を蓄積し続けた、秘密兵器なのか。
リプリスの言葉を借りるなら、「ものすごい威力になっていると思います」。
つまり、この『怒り花火』なら、最強の魔女ゴルディロックスに通用するかもしれない。
これは重要なことだ。なにせ、ゴルディロックスとの戦いに、先生たちは参加しないのだから。
他に役割がある。戦いのあとに、最強の魔女ゴルディロックスを封印するのだ。
ただし、過去に封印したのとは、別の方法を使う。
同じ方法では、いずれ最強魔女は復活するらしい。あの魔女は「ほとんど不死身」なので、倒しても倒しても、時間が経てば甦ってくる。
しかも、そのたびに強くなっていくのだとか。いつかは倒せなくなる、そんな時がくるに違いない。
だから、今回で最強魔女との戦いに終止符を打っておきたい。そうヴァンプラッシュ先生が語っていた。
方法ならある。『異世界への封印』だ。
仮死状態になったゴルディロックスを、こことは別の世界へと飛ばす。魔力をすべて失った状態にして、その世界の生き物に転生させる。そうすればもう、この世界に戻ってくることはできない。
禁忌の魔法の中でも、最上位の魔法だ。ヴァンプラッシュ先生、ウルフェニックス先生、エクスアイズ先生はそれに専念するため、最強魔女との戦いには参加できないという。
では、先生たちの代わりに誰が、最強の魔女と戦うのか。
さっきヴァンプラッシュ先生は次の名前を告げた。
テテル、クー、スティンクル、リプリス。
まだ見習いの魔女たち。
しかし、だからこそ、勝てる可能性があるという。
もともと、テテルたちの学校にある時計台からは、少しずつだが最強魔女の力が漏れ出していた。
といっても、その力の影響を受けたところで、せいぜいがイタズラをしたくなる程度。
逆に、最強魔女の力に普段からさらされているため、それに対して、いくらかの抵抗力が身についている。
つまり、あの学校の生徒たちには、最強魔女の力が利きにくい。
より多くのイタズラや派手なイタズラをする生徒ほど、その傾向は顕著になる。
そういう意味でテテルたち四人は、「歴代でも屈指の問題児」だとか。
と同時に、「歴代屈指の優等生」でもある。
たとえば、スティンクル。ウルフェニックス先生の必殺技『光収束』、あれを使うことができた生徒はこれまでに、彼女だけだ。
また、リプリスが使う魔法に、魔法陣から自動販売機を出現させるものがある。あれを使うことができた生徒は、過去に数人しかいない。あの魔法をリプリスは平然と使う。そこまで使いこなしたのは彼女だけだ。
だが、相手は最強の魔女。当然ながら、命の危険が伴う。
そんな戦場に自分たちの教え子を送り出すことに、強い葛藤もあったらしい。
そもそも、テテルたち四人で本当に、最強の魔女ゴルディロックスに勝てるのか?
可能性ならある。テテルが育てた『怒り花火』だ。あれを最強魔女にぶつけることができれば。
そして、もう一つ。
さっきは言わなかったが、ヴァンプラッシュ先生には何か秘策があるらしい。
それが何かをシンデレラが勝手に予想していると、ヴァンプラッシュ先生が突然、
「シンデレラ、この戦いにあなたも参加して欲しい」
は?




