Σ(゜д゜lll) 仮面の部屋
お城ではその頃、舞踏会の準備が急ピッチで進められていた。
特に、調理場は大忙しだ。たくさんのカボチャ料理を、せっせとつくっている。
もうすぐ舞踏会が始まる時間だ。門の前には次々と、招待客たちの馬車が到着している。
お城の一室では、二人の若い男が今夜の準備をしていた。
「俺はこれにしようと思う」
「私はこちらの仮面にしましょうか」
金髪の王子と銀髪の執事だ。タイプは違うが、どちらも美形。
部屋の中には無数の仮面が並んでいた。
今夜開かれるのは、仮面舞踏会だ。出席者は全員、顔の上半分を隠す仮面をつけることになっている。この国の王子といえども例外ではない。
二人はそれぞれ、自分が選んだ仮面を着用した。
今夜の舞踏会には、秘密のミッションがある。
王子の結婚相手を決めるのだ。
このことはお城の一部の者しか知らない。
しかし、勘の良い者たちはすぐに気づいたようだ。招待客たちの男女比や、その顔ぶれなどから推測したものと思われる。
招待客たちの間では、すでに噂が広まっているらしい。今さら否定したところで、それを信じる者の方が少数派だろう。
そう考えて、二人は噂を放置していた。
王子は執事の仮面を見ながら、
「本当にそれでいいのか?」
執事がつけているのは、おどけた表情の仮面だ。本人のクールな雰囲気とは、ミスマッチに感じる。
「今夜は冒険してみようかと思いまして」
こういう男なのだ。この銀髪の執事は。
王子の結婚相手を決めるらしい、そんな噂が広まっている。したがって、いつもの舞踏会よりも気合いを入れて着飾ってくる者が、たくさんいるに違いない。
だからこそ、おどけた表情の仮面は、会場の良いアクセントになるだろう。整ったものばかりが集まっていては、かえって窮屈な感じになる。息抜きのような存在は、あった方がいい。
それがわかっていて、この男はこの仮面を選んでいる。頼りになる男だ。
そこでふと王子は、あるアイデアを思いついた。
自分の中で素早く吟味してから口に出す。
「今夜の舞踏会で、俺の影武者に『本物の王子』を演じさせるぞ。その間はそうだな、俺は『旅の騎士』でも装うか。お前は影武者の方について、サポートしてやってくれ」
執事は微笑すると、
「お戯れを」
「かなり本気で言っているのだが。あくまでも舞踏会の前半だけだ。後半にはもちろん、元に戻るぞ」
「それでしたら、悪くないかもしれませんね。影武者を囮にして、王子は密かに招待客たちを観察するわけですか」
「そういうことだ。噂を逆に利用する」
今夜の舞踏会では、王子の結婚相手を決めるらしい。その噂を耳にしている者たちは、自然と王子に意識を向ける。まさか目の前にいる王子が「影武者」だとは考えまい。真実に気づく者がいたとしても、少数だろう。
王子には確認しておきたいことがあった。
影武者が演じる王子の前と、それ以外の状況とで、どのように性格や態度を変えるのか。
「これを悪趣味と受け取る者もいるだろうが、俺の結婚相手だ。本気で選びたい」
王子もわかっている。人間には誰しも裏表があるものだ。あって当然。ない方がおかしい。
とはいえ、裏表の差があまりに激しいのは困る。そこを見定めたい。
王子は仮面を選び直すことにした。今の仮面は影武者につけさせるとして、新たな仮面が必要だ。本物の王子だと周囲に悟られない、そのような仮面が。
「これにするか」
選んだ仮面を着用すると、金髪の王子は銀髪の執事に尋ねる。
「ところで、カボチャ畑の件はどうなっている?」
昨夜、王家所有のカボチャ畑に大きな流れ星が落ちたのだ。
それについて、午前中に大まかな報告を受けていたが、
「さっき小耳に挟んだぞ。王家の畑にあったカボチャに、かなりの被害が出た、というのは本当か?」