Σ(゜д゜lll) 宝物庫への侵入者(その七)
(こういう魔法は普通、一瞬では発動できないはず)
いくらかの下準備が必要だと、エクスアイズ先生の授業で習った。
(たしか、あの授業では・・・・・・)
クーはエクスアイズ先生の説明を思い出す。
――だから、その予兆を絶対に見逃さないようにしてください。こういう魔法は基本的に、魔力の気配を完全に消すことはできません。十分に気をつけていれば、視覚、聴覚、嗅覚、触覚のいずれか一つは異変を感じるでしょう。
あの授業では、その直後にクラスメイト全員が、先生の魔法で「マネキン人形」に変えられてしまった。
ただし、一人だけ例外がいた。クーだけは危険を感じて、とっさに天井に張りついたのだ。
それで、難を逃れることができた。
あの時のエクスアイズ先生は天井を見上げながら、
――やりますね。先生はとても残念です。生徒全員の体調不良により、この授業をここで終わりにして、早めのランチをとるつもりだったのに。
他の生徒たちを「マネキン人形」から元に戻すと、
――クー、君には特別点をあげましょう。やれやれ、僕は「自分に甘く、生徒たちに厳しい教師」を理想としているんですが・・・・・・。
そんなことを言っていた。
危機的状況なのに、余計なことまで思い出してしまう。
(さて、どうしようか)
クーは気を引きしめると、冷静に考える。
敵を前にして、四肢を拘束された状態だ。
この状態でできることは、そう多くはない。
(とりあえず、ありったけの魔力を体の周囲に放出してみよう)
紫色の魔法陣をどうにかするのが目的ではなかった。
このお城の正門前には現在、ゾーンビルド先生がいる。他にも、このお城のどこかにエクスアイズ先生もいるはず。
(だから、これに気づいてくれれば)
しかし、魔力が出せない。この紫色の魔法陣、四肢を拘束するだけでなく、魔力を封じる効果もあるみたいだ。
(かなりまずいかも)
となると、あとは大声を出すくらいしか思いつかない。
だけど、そこで気づいてしまった。この辺りの廊下に、「防音の魔法」が展開されているのだ。これは内部の音を外には漏らさない。
エクスアイズ先生の言葉が再び、頭の中で甦ってくる。
――だから、その予兆を絶対に見逃さないようにしてください。
本当にその通りだ。もっと周囲に注意していれば、「紫色の魔法陣」はともかく、「防音の魔法」には気づけていたはず。
これはもっと前から展開されていた。おそらくだけど、クーたちが銀色兜たちと戦っている時にはすでに。
相手からしてみれば、クーたちは無警戒に罠に飛び込んできた獲物だ。この結果は必然。
金色兜が嬉しそうに告げてくる。
「さて、いらない方だけ殺すとしようか」
処刑時間の開始である。




