Σ(゜д゜lll) その効果は六時間
早く必殺技を使ってみたくて、金髪の王子がうずうずしていると、
「そのカードには、どんな効果があるんだ?」
リチャードが不安げな顔で、銀髪の執事に質問した。
「女性に声をかけると強制的に、この城の外に『瞬間移動』します。カードの効果は六時間」
平然と告げる執事。
途端にリチャードの表情が曇る。
つまり、舞踏会に参加しても、会場内に留まり続けようと思ったら、女性に声をかけてはいけない。
「筆談は?」
「禁止事項に含みます。手話もです。ボディーランゲージもです」
「・・・・・・」
リチャードが真剣に考え込んでいる。何か抜け道がないかを探しているのだろう。
そんな様子を見ながら、金髪の王子はがっかりした。この感じだと、リチャードはここから逃走しそうにない。
(必殺技を使ってみたかったな。『王家の反撃・断頭台返し』)
とはいえ、すぐに気持ちを切り替える。
さて、執事からの提案に、リチャードはどう答えるのか。
考えられる選択肢は、次の二つだろう。
一つは、舞踏会に参加するという選択肢だ。しかし、それだと女性に声をかけてはいけない。
もう一つの選択肢は、舞踏会が終わるまで、この城の地下牢で孤独を体験するもの。
リチャードが何やらぶつぶつ言っている。「舞踏会が明日の朝まで続けば・・・・・・」とか聞こえてくる。
そんなことはあり得ないのに、
「そのカードの効果は、今から六時間だな?」
リチャードが真面目な顔で確認してくる。
「そうです。六時間です」
「わかった。非常に苦しい決断だが、その条件を飲もう。やってくれ!」
「それでは」
銀髪の執事が魔法を発動させる手順を踏む。
この魔法には「対象者自身による許可」が必要だ。それは、今のリチャードの言葉で満たしている。
ただし、金髪の王子は気づいていた。
執事はすべてを説明していない。一つだけ伝えていないことがある。
この魔法、女性に声をかける以外にも、対象者を城の外に『瞬間移動』させる、そんな条件が存在するのだ。
その条件とは、エクスアイズ先生や他の先生たち、彼らの誰かと話した場合。
該当するのは四人で、エクスアイズ先生、ウルフェニックス先生、ヴァンプラッシュ先生、そして、ゾーンビルド先生だ。
もしも、リチャードが何か面倒を起こすようなら、そっちの方法で城の外に放り出せばいい。そう執事は考えているのだろう。
「『刻印』」
銀髪の執事が告げると、カードが光を放った。
そのあと消滅する。
と同時に、リチャードの全身が強い光に包まれた。
が、それもすぐにやんだ。
リチャードは自分の体に異変がないかを目で確かめながら、
「これで舞踏会に参加してもいいんだよな?」
「どうぞ、お好きになさってください。ただし、言動にはお気をつけを。女性に声をかけると、わかっていますね?」
「わかっている。今から六時間だろ。余裕、余裕」
にやにやするリチャード。
そっちの話がまとまったところで、金髪の王子は切り出した。
「とりあえずリチャード、その格好は駄目だ。着替えた方がいい。俺たちと同じように、旅の騎士ということにしろ」
「ん? そういや、お前とそいつ、何で旅の騎士の格好をしているんだ? 今夜って仮面舞踏会のはずだよな? 仮装パーティーではなく」
くわしく説明するのが面倒に感じたので、
「余興だ」
一言で済ませる。
「なるほど。余興か。いい心がけだ。客をもてなすのは、主催者の務めだしな」
リチャードは納得したらしい。
金髪の王子は素早く考える。このあと三人で衣装部屋の方に、いや、その前に洗面所か。リチャードの顔にあるサインペンの落書き、あれを先に消した方がいい。
こうして二人の王子と執事が城内を移動している頃、クーとキナコの二人はお城の宝物庫に迫っていた。
ところが、あと少しという地点で発見する。
見張りの兵士が二人、うつ伏せで廊下に倒れていた。
二人とも全身を縄で縛られた状態で。




