Σ(゜д゜lll) そこで何をしている!
少し前に、金髪の王子と銀髪の執事は大広間を抜け出していた。
二人は仮面を外すと、城の中を急ぎ足で移動する。
すると、通路の先に怪しい人影を発見した。
執事が声を出さずに、目で王子に尋ねる。
(どうします?)
常日頃から行動を共にしているので、こういう形式での意思疎通が可能だ。
(ここは任せろ)
そう返すと王子は、いきなり叫んだ。
「そこで何をしている!」
相手は一瞬びくっとしてから、王子たちがいるのとは反対方向に逃走した。
しかし、無駄な努力だ。この先は行き止まりになっている。
こうして壁の前へと追い詰められた不審人物。逃げるのをあきらめて、へらへらした笑顔をこちらに向けてきた。
「よ、よおっ。こんなところで奇遇だな」
隣国のリチャードだ。
普通なら、この場にいる人物ではない。今夜の舞踏会の『招待状』を送っていないのだ。
というのも、今夜の舞踏会には重要な目的がある。この国の王子として、結婚相手を決めるのだ。そういう「しきたり」になっている。
そして、リチャードは女好き。邪魔されたくないので、今夜の舞踏会には呼ばなかった。
ところが本日、そのリチャードから手紙が届いたのだ。「今夜の舞踏会、必ず参加してやる」という手紙。まるで犯行予告だ。
そんなリチャードが今、目の前にいる。
王家のカボチャ畑に流れ星が落ちた件など、色々と質問したいことはあった。あれでカボチャにかなりの被害が出た、と聞いている。
だが、今回は不問にしよう。王家のカボチャが全滅したわけではないみたいだし、カボチャがなければないで、ナスやピーマンの料理で補えばいいのだ。
「とりあえず、逃げなくてもいい」
王子はリチャードに言う。
先ほどウルフェニックス先生から連絡があった。
要注意人物のリチャードが城の正門まで来ている、と。
それを踏まえて、ウルフェニックス先生が提案してきた内容に、王子は賛成していた。
ここで追い払っても、リチャードはあきらめないだろう。どうにかして、城内に侵入しようとするはず。たとえば、こちらが予想もつかない方法を使って・・・・・・。
そうなった場合、最悪のタイミングで騒ぎを起こされてはたまらない。
それよりかは、リチャードには目の届く範囲にいてもらった方がいいと思う。
だから、城の中に入れることを許可したのだ。
王子はリチャードの姿をまじまじと見つめる。
どうやら、ここに来るまでに色々とあったらしい。リチャードは執事の服装をしている。
それだけならまだわかるが、鼻のすぐ下には、逆カモメ型のヒゲがあった。どう見ても、「つけヒゲ」だ。
さらに、なぜか両方の頬にはネコのヒゲがある。あれはサインペンで書いたものらしい。
どうして、隣国の王子ともあろう者が、このような「ふざけた外見」をしているのか。
(そこまでして城の中に入ろうとした、そういうことなんだろうが・・・・・・)
その先の思考を王子は放棄する。今は時間が惜しい。
別の話を切り出した。
「リチャード、舞踏会に参加してもいいが、大人しくしていると約束できるか?」
「もちろんだとも。心の友よ」
すぐさま銀髪の執事が冷たい口調になって、
「ウソですね。王子、信じてはいけません」
常識で考えるなら、この意見の方が正しいだろう。
しかし、王子はあえて逆を選んだ。
「問題ない。見張りをつける。それでいいな、リチャード」
「もちろんだとも。心の友よ。あ、見張りは女性がいいな」
余計な一言で、執事の顔がさらに険しくなる。
「王子、私はこの御仁を信用できません」
そう言って、一枚のカードを取り出した。
この国で近年流行っているトレーディングカードゲーム、それに使用するカードのように見える。
だが、あれは仮の姿だ。
金髪の王子は知っている。あのゲームに、こんなカードは存在しない。こういう時のために、エクスアイズ先生につくってもらっていた、特別な「魔法の護符」である。
「リチャード王子、あなたを信用できないので、これを使わせていただきます。それが嫌だというのでしたら、今すぐ兵たちを呼んで確保させていただきます。舞踏会が終わるまで、この城の地下牢でおくつろぎください」
勝手に話を進める銀髪の執事。
金髪の王子はこれに異議を挟まなかった。
別のことを考えていたのである。
(もしもリチャードが逃走しようとしたら、あれを使おう)
一人でこっそり練習してきた必殺技、『王家の反撃・断頭台返し』。
キナコという娘と戦う前に一度、人間相手に試しておきたいところだ。リチャードならゾンビのようにしぶといから、手加減しなくていいだろう。少しの間だけ気絶するくらいで済むはず。
(そういうわけだから、リチャード、この場から逃げようとしていいぞ)
その場合は遠慮なく使う。『王家の反撃・断頭台返し』。




