Σ(゜д゜lll) 食い逃げ
スーパーの野菜コーナーで戦う二人の魔女。
シンデレラは考えた。今の内にカボチャを買ってしまおうか。
しかし、値札シールをもう一度確認して躊躇する。
自分のおさいふはすでに戦意喪失の状態だ。テテルのおさいふがなければ、レジで立ち往生することになる。
「シンデレラちゃーん!」
おかっぱ頭の女の子が、こちらに向かって駆けてくる。
近所にある安くてうまい「おだんご屋さん」、そこの看板娘だ。シンデレラとは女子会仲間。
「キナコちゃん!」
みるみる近づいてくる彼女。桜色の着物姿だ。
そんな服装なのに、走るのがものすごく速い。あの「おだんご屋さん」で食い逃げをするのは、絶対にやめておこう。
おかっぱ頭の女の子が、シンデレラの前で立ち止まった。
「そっちにも魔女が来ていたんだ」
「じゃあ、キナコちゃんの方にも?」
うなずく彼女。目線を忍者の方へと向けた。
二人の魔女はなおも戦っている。もうしばらく続きそうだ。
この間に、シンデレラはキナコと情報交換する。
ここに来た目的は同じらしい。彼女の方でも、魔法で馬車にするためのカボチャが必要なんだとか。
キナコは少し不思議そうな顔になって、
「でも、シンデレラちゃんの家って、カボチャ畑があったよね?」
「おっしゃる通りで。だけど、今はカボチャが一個もなくて」
「えっ!? あんなにあったのに?」
目を丸くするキナコ。
「いやぁ、継母がね」
「・・・・・・ああ、それは災難だったね」
くわしく説明しなくても、キナコの方で適当に察してくれたようだ。
「でも、困ったね。シンデレラちゃんの家にも、カボチャがないなんて」
二人で話していると、スーパーの店員さんが近づいてきた。その手には赤いサインペンを持っている。
ひょっとして、閉店前のタイムセールだろうか。いつもより早い気がするけれど・・・・・・。
シンデレラとキナコは無言になると、そっとカボチャの前をあけた。
しかし、期待していたのとは違う展開になる。
サインペンを走らせる店員さん。カボチャの値段がさらに上がった!
シンデレラとキナコは同時に叫ぶ。
「待って! そのカボチャを今、買おうとしていたんです!」
「でしたら、前の値段でいいですよ」
話のわかる店員さんで良かった。
ところが、次の一言でその場に緊張が走り抜ける。
「どちらがお買い上げですか?」
シンデレラはキナコの方を横目で見る。
相手も同じようにしていた。このカボチャは自分が買いたい、そう二人とも思っている。お城の舞踏会に行くためには、カボチャが必要なのだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
少しの間、二人とも沈黙を続ける。
すると、店員さんが笑顔で提案してきた。
「二つに切りましょうか?」
残りのカボチャは一個で、欲しがっている客は二人。普通だったら、無難な提案なんだろうけれど・・・・・・。
「シンデレラちゃん、どうする? 真っ二つにしてもらう?」
キナコがひそひそ声で聞いてきた。
「ダメだよ」
カボチャの馬車がオープンカーになってしまう。もしくは、人力車か。
そんな状態でお城の前に乗りつけたとして、はたして中に入れてもらえるだろうか。たぶんギャンブルになる。
確実性を重視するなら、ここでの正解は一つしかないと思う。
そのことに、キナコの方でも気づいているようだ。
彼女は決心した瞳をこちらに向けてくると、
「シンデレラちゃん、同盟を結ぼう!」
最後のカボチャを割り勘で購入すること、さらに、お城に着くまでの間は共闘することを提案してきた。
立派な馬車は一台あればいいのだ。それに乗って、一緒にお城へ向かえばいい。