Σ(゜д゜lll) 招かれざる客(後編)
「それって、クーとスティンクルかも」
テテルがつぶやいた。
何かを偽造する魔法、その実力は四人の中でリプリスが突出しているという。彼女の担任のエクスアイズ先生が、そっち系の魔法を得意にしているのだとか。
対照的にスティンクルは、この魔法が大の苦手らしい。で、クーは普通。
あの二人のどちらか、おそらくはクーの方だと思うが、魔法で『招待状』を偽造したが不備があり、そのせいで少し遅れて機械が誤作動を起こしたのではないか。
「と、私は考える」
シンデレラもテテルを支持した。魔法で偽造した『招待状』なんて、そんじょそこらで手に入るとは思えない。機械を故障させた「招かれざる客」は、クーとスティンクルと他二名で決まりだ。
そのあとで、ふと考える。
(でも、あの四人なら)
そこまで得意じゃない種類の魔法に頼らなくても、自力で城壁をよじ登って侵入できそうではある。
(あ、でも、今はドレス姿なのか)
さすがに、それで城壁をよじ登るのは無理かもしれない。
ということはやはり、
(あの四人も使ったな、魔法で偽造した『招待状』を)
一人で納得するシンデレラ。
さて、何はともあれ、ついに念願の舞踏会だ。
お城の中庭は、たくさんの花々とカラフルな灯りに彩られている。ここを進む一歩一歩が、舞踏会への「素敵なカウントダウン♪」。
シンデレラたちがわくわくしながら中庭を歩いていると、
「ようこそお越しくださいました。舞踏会の会場までご案内いたします」
黒い燕尾服を着た男性が前方からやって来て、うやうやしくお辞儀をしてくる。
この男性はお城の案内係で、
「今夜は仮面舞踏会になります。よろしければ、こちらの別室にてお好きな仮面を、お選びいただくことができますが」
自分たちで仮面を用意してこなかったので、シンデレラたちはその提案に素直に従う。
案内係の男性についていくと、途中で急にテテルが足を止めた。ほとんど同時にリプリスもだ。
何かに気づいたらしい。二人が見上げている先は、一番近くにあるお城の建物ではないみたいだ。その向こう側だろうか?
シンデレラもテテルたちと同じ場所に視線を向けてみる。えーと、あの辺かな。お城の塔と塔の間だ。
その向こう側に、古い時計台があって、上の部分だけが見えている。
「学校にあるのと同じ」
テテルとリプリスが同時につぶやいた。
そのあと、二人はひそひそ声になると、
「あの形、どうも破壊してみたくなる」
「気が合いますね。私も今、それを考えていました」
案内係には聞こえていないだろうが、物騒なことを言い始める。
これには眉をひそめるシンデレラ。せっかく苦労してここまでたどり着いたのに、そんな事をされたら、すべてが「おじゃん」になってしまう。お城の兵士たちが集団で飛んでくるに違いない。
スティンクルが言い出すならともかく、テテルもリプリスも普通に賢いのに、こういう危ないことを思いつくなんて、やはり魔女だからなのか?
こっちはまだ、お城の舞踏会を一ミリも楽しんでいないので、
(その悪巧み、何が何でも阻止する!)
それが常識人としての務めだろう。魔女のお守りをするのも大変だ。どうしても破壊したいのなら、舞踏会が終わったあとにでもやってくれ。
しかし、シンデレラは知らない。
この時、舞踏会の会場でもクーとスティンクルが、窓の外に見える時計台を指差しながら、「何が何でもぶっ壊したい!」、そんな衝動と戦っていた。




