Σ(゜д゜lll) 招かれざる客(前編)
五分ほどして、機械の修理から顔を上げるマルリアさん。
はればれとした表情で、門番の一人に告げた。
「応急処置ですけど、これで今夜は乗り切れると思います」
そのあとで、こうもつけ加えた。
「お手数ですが、明日にでも当社のお客さまセンターにご連絡ください。担当の者がすぐに回収に参りますので」
「はい、わかりました」
きびきびと返事をする門番。
マルリアさんは工具を置くと、両手を軽くはたいてから、
「この応急処置で問題ないか、念のためにテストします」
そう言うと、リプリスの方を向いて、
「私たちの『招待状』を」
「あ、はい!」
このあと、偽造した『招待状』が機械の中に入っていく。
その様子を見守りながら、シンデレラは少し緊張していた。
(ニセモノだと、ばれたりしないよね?)
でも、今ならマルリアさんがいる。機械の誤作動があっても、まだ直っていなかったとか、言い逃れができるかも。
そんなシンデレラの心配をよそに、偽造した『招待状』は無事に機械を通過した。何の問題もなかった。リプリスが安堵している。
この直後にマルリアさんが、
「やるね」
小さくつぶやいたのを、シンデレラは聞き逃さなかった。
おそらくだけど、自社の最新機種の偽造チェックをあっさり突破されたことで、闘志に火がついたらしい。リプリスという強い好敵手の登場に喜んでいる印象を受けた。
「それじゃあ、私たちはお城の中に入っても」
「もちろんですとも、マルリアさん。本当に助かりました。ご一緒のお嬢さま方も、どうぞお通りください」
門番たちに敬礼されながら、シンデレラたちは前に進む。お城の中に入ることができた。やったね♪
その直後に気づいたのだが、リチャード王子の姿がいつの間にか消えている。どうやら、門番たちの目を盗んで、うまくお城の中に侵入したらしい。
(ということは・・・・・・)
ある事実に気づいて、シンデレラは本気のため息をつく。
リチャード王子とはまだ、お城の中に入るのを手助けする値段交渉が、完全には終わっていなかった。
なので、契約は成立していない。もらえるはずだった小切手が、頭の中で爆散した。
シンデレラたち四人はお城の中庭を歩いていく。
さっきの機械が故障した原因を、リプリスがマルリアさんに尋ねていた。
「えーとね、専門的なことをかなり省いて、ざっくり説明するなら、機械内部の魔力感知システムが異常値を検出したっぽい」
マルリアさんは小さく息継ぎをすると、
「その原因として考えられるのは、次の二つかな」
大きな異常値を一度に検出したか。
または、小さな異常値を短時間に何度も検出したか。
「この種類の故障は、時間を置いてから表に出てくることもある」
だから、その時にチェックしていた『招待状』や、直前の『招待状』が必ずしも「アウト」なわけではない。
もっと前に読み取らせた『招待状』による影響、というのも普通に考えられる。小さな異常値を短時間に何度も検出した場合だったら、特に。
「しかし、今の段階ではまだ、二つの可能性のどちらなのかを断言することはできないかな。あの機械を回収して会社でくわしく調べてみないと。でも、これだけは言えるかも」
マルリアさんは声量を落とすと、
「私たち以外にも、魔法で偽造した『招待状』を使って、お城の中に入った人、または、人たちがいる」
いわゆる「招かれざる客」だ。リチャード王子みたいな奴。




