Σ(゜д゜lll) 私が合図をしたら
シンデレラはテントの下に着いた。
特撮ヒーローのような金属スーツを着た人物がいる。『メタルゾンビ』のゾーンビルド先生。
(本当に強そうだな)
味方なら頼もしいのだろうけれど、今は逆だ。最悪の場合、この先生相手に強行突破することになる。
どこかに付け入る隙はないかと、シンデレラが目で探っていると、
「ここは任せる。城の周囲を少し見てくる」
そう門番たちに告げて、ゾーンビルド先生はテントから離れていった。
テテルやリプリスの存在には、さすがに気づいていると思う。あと、リチャード王子にも。
なのに、持ち場を離れたのだ。
(これって、千載一遇の好機?)
というよりも、最初からテテルたちと戦う気がなかったような・・・・・・。
――この機械を修理できたら、お城の中に入っていいぞ。
そういうことなのかもしれない。戦闘しなくて済みそうなので、一安心するシンデレラ。
直後に、マルリアさんからの指示が飛んでくる。
「今から金属板の一つを外すので、そこを押さえていて」
素直に従うテテル。
すでにリプリスは、機械から出ている煙を団扇でパタパタしている。これには、邪魔な煙をよそに送る以外に、機械自体を冷やす意味もあるっぽい。
マルリアさんが複数の工具を持ち替えたり、その持ち方を変えたりしながら、いくつものネジを外していく。
シンデレラは思わず見とれていた。
ドレス姿のマルリアさんに、「タイムアタック」をしている感じはない。なのに、異常に速いのだ。
しかも、見ていて作業が美しい。まるでダンスをしているかのように、次々とネジが回転していく。
金属板の一つをあっさり外し終わると、それをテテルに預けて、マルリアさんは機械の中をのぞき込んだ。小型ライトを使って、内部を確認している。
「たぶん、こういうことだと思うんだけど」
そう独り言を口にすると、シンデレラにも役割を振ってくる。
「私が合図をしたら、そこのボタンを押してね」
何だか、ものものしいボタンだ。
機械の種類によっては、「みだりに押さない方がいい」ようなボタン。黒と黄色のしま模様が、赤いボタンの外側を囲んでいる。さすがに、「自爆用ボタン」とか、そのご兄弟・ご親戚・お友だちではない、と思いたいけど・・・・・・。
マルリアさんは左右の手をそれぞれ、機械の別々の場所にあてると、
「はい、押して」
軽く告げてくる。
おそるおそる赤いボタンに触れるシンデレラ。
これを押しちゃって本当に大丈夫かな、とか余計なことは考えないようにする。自分の思考をほぼゼロにして、指示に従った。だってマルリアさんは、この機械の専門家みたいだし。
ボタンを押すと、機械の中から音が消えていく。どうやら、電源のオンオフに関わるボタンだったらしい。
マルリアさんは機械にあてている左右の手、その位置を少し移動させてから、
「はい、押して」
今度もシンデレラは従う。機械が再起動した。
が、またしても、
「はい、押して」
これが最後だった。ボカーン、ではなく、機械が再び沈黙する。
「ありがとう。問題のある場所がわかった」
予想していなかった言葉に、シンデレラは耳を疑う。
(え、今ので? 少し電源をオンオフしていただけでしょ)
しかし、マルリアさんにはちゃんと、故障の原因がわかっているみたいだ。
あとで本人から聞いた話によると、故障していそうな範囲をある程度しぼってから、機械の振動や発熱を調べていたらしい。
異常がある場所や、その近くには、普通と違う反応が出やすいという。それを手のひらの感覚で探っていたのだ。
門番の一人が言うには、このスピードで「機械の異常箇所を特定できる」のは、ここら一帯ではマルリアさんくらいだとか。
しかも、「特定後の応急処置も得意」で、『ほうらい玉の枝カンパニー』のマルリアさんといえば、その道では結構な有名人。普通の職人が三時間かかるような仕事を、一時間くらいで終わらせるらしい。




