Σ(゜д゜lll) これ、どうする?
シンデレラたち四人、そして、ニセ執事のリチャールは、お城の正門前でカボチャの馬車を降りた。
正門前には、出迎えの楽隊がいるし、門番もいる。
「お手元に『招待状』をご準備ください。お城にお入りいただく前に、確認させていただきます」
これは問題ない。リプリスが偽造した『招待状』がある。
ところが、この直後に「ある物」を見つけた。
懸賞金つきの指名手配書だ。正門近くの城壁にたくさん貼ってある。
――この顔か、これに似た顔を見かけたら、「お城」か「最寄りの警察」まで、必ずご連絡を。情けは無用です。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
シンデレラたち四人は無言のまま、うしろをふり返る。
ニセ執事のリチャールは、どこに隠し持っていたのか、「つけヒゲ」を自分の顔に追加しようとしていた。鼻の下につける、逆カモメ型のヒゲだ。
「テテル、サインペンある?」
シンデレラが言うと、テテルが『異空間収納』の魔法で、「サインペン」を出した。この魔法も便利そうなので、あとで教えてもらいたいものだ。
サインペンを借りると、シンデレラは落書きを始める。
指名手配書の一枚に、リチャールと同じヒゲを書き加えた。
「似てる」
「ほぼそっくりですね」
「これは誤魔化せないような・・・・・・」
以上、テテル、リプリス、マルリアさんの率直な感想だ。
お城に入る時に、門番が同じことをしてきたら、一発でリチャード王子だとばれてしまう。自分たちまで巻き添えになるかも・・・・・・。
とりあえず、誰かに見られたらまずい。
リチャード王子にはしゃがんでもらい、シンデレラたち四人で取り囲んだ。
「これ、どうする?」
緊急会議を開く。
少し話し合ったあとで、シンデレラはリチャード王子に切り出した。
「じゃあ、そういうことなんで」
遠回しに言ってみる。
「・・・・・・見捨てるつもりか?」
「ご要望の通り、お城には連れてきましたよ。そういうわけで、約束の謝礼をいただきたいかなー、なんて」
「なるほど。ここで俺を見捨てて、自分たちだけ舞踏会を楽しんでくるつもりか。いいよな、美味しい料理に、美味しい飲み物」
そう言うと、リチャード王子がマッチ箱を取り出した。
その中の一本に火を点けると、
「『マッチ売りの少女』って話を知っているか?」
恨みの視線を向けてくる。
「はて? 王子さまほど教養がないもので、まったく知りません。見たことも聞いたこともありません。その話、ハッピーエンドですか? だといいなぁ~」
堂々とウソをつく。
リチャード王子はマッチの火を消すと、長いため息をついた。
「まあ、当然だろうな。俺がお前たちの立場でも、たぶん同じようにすると思う。適切な判断だ。ここまで色々あったが、おおむね感謝している」
「そんなことを言っておいて、近日中に王子直属の大部隊が、国境沿いに怒りの広域展開とか、そういうのはナシですよ♪」
「するか! 感謝しているのは本当だ。恩を仇で返すようなまねはしないさ」
リチャード王子は小切手にペンを走らせると、
「本当に助かった」
回れ右をして、マルリアさんに渡した。
両手を前に突き出して、受け取る気満々だったシンデレラ。それを無視してである。
「え、私に渡すのが当たり前じゃ。私の中にいる私全員が今、王子に猛抗議していますけど」
「他の三人なら、誰に渡してもいいと思っているが、お前だけは絶対にない。少しの間、黙ってろ」
なぜかテテルもうなずいている。リプリスとマルリアさんも味方してくれないし・・・・・・。
「そういうわけで、マルリア嬢、リプリス嬢、テテル嬢、ここまで世話になった。三人とも本当にありがとう」
そのあと、リチャード王子はシンデレラに顔を近づけてくると、急にひそひそ声になって、
「お前の悪知恵を見込んで話がある。別料金でどこまで協力してくれる?」
お城の中に入るのを、完全にあきらめたわけではないらしい。




