Σ(゜д゜lll) 最強の必殺技(前編)
シンデレラは、テテル、リプリス、マルリアさんと一緒にホテルを出発し、カボチャの馬車で一路、お城を目指していた。
なお、ニセ執事のリチャールも一緒である。「馬車の御者をしてみたい」と言っていたが、丁重にお断りした。ホテルにいた兵士の一人に、御者をしてもらっている。
その代わりに、リチャールには窓の外を見張ってもらっていた。お城の中に入るまでは、「隣国のリチャード王子」ではなく、「執事のリチャール」を演じてもらう。
このまま何事もなければ、あと五分くらいでお城に着くだろう。楽しい楽しい舞踏会はもうすぐだ。
しかし、まだ油断はできない。
ここに来るまでにも色々あった。
特に、ヴァンプラッシュ先生との戦い。
もしも、他の先生たちも戦いを挑んでくるようなら・・・・・・。
テテルとリプリスは、その心配をしている。
今のところ、リチャールから異常の知らせはない。
クーとスティンクルがボロ雑巾のようになって道ばたに倒れている、そんなことはなかった。また、先生らしき人物がボロ雑巾のようになって道ばたに、ということもない。
でも、もしもの場合に備えて、シンデレラはテテルたちに、魔法についての質問をしていた。戦闘になった時のことを考えると、戦闘系の魔法について少しは知っておきたい。
なお、マルリアさんは車酔いの最中である。澱んだ雰囲気を放ったまま、馬車の壁に寄りかかっていた。必死の攻防戦を続けている。ビニール袋を手放せない。
魔法についての質問をいくつかしたあとで、シンデレラはつぶやいた。
「あれって、やっぱり魔法だったんだ」
ヴァンプラッシュ先生と戦った直後に、西の方角に見えた「光の柱」。
スティンクルの担任である、「ウルフェニックス先生」の必殺技だとか。『光収束』というらしい。
そこでふと、シンデレラは考える。
あんな技を至近距離でいきなり使われたら、テテルたちには防ぐことができないんじゃ・・・・・・。
かなり離れている場所からでも、あんなにはっきり見えたのだ。すぐ近くにいたら、大変なことになりそうな気がする。
「そうだよ。あの技は強い」
テテルがあっさり認めた。リプリスもうなずいている。
あの『光収束』は、強力な光線技であると同時に、強烈な目くらましの効果もあるという。
(ふむ)
シンデレラは密かに考える。
(『光収束』か。便利そうな魔法だな)
あそこまでの威力はなくていい。あの十分の一くらいでいい。
(もしも、あの『光収束』を自分も使うことができたら・・・・・・)
テテルたちの学校を買うことができれば、それが可能になるかも。ウルフェニックス先生に直接教えてもらうのだ。
で、あの魔法を完全習得したあとは・・・・・・。
シンデレラの脳裏に、継母と義理の姉二人のシルエットが浮かんできた。
あの三人を魔法でボコボコにする、そんな光景を想像してみる。
脳内シミュレーションの結果、二人の姉には楽勝だった。
が、継母にはかなり苦戦したので、
「もっと強い魔法はないの? できれば、最強のやつがいい!」
さらなる高みを、シンデレラは目指す。
もっと強い魔法がない場合は、プランBだ。継母対策に特化した、そんな魔法ばかりを覚えまくる。たとえば、えげつない状態異常系の魔法とか。
そういう魔法を使って、本番ではとにかく継母を削りまくる。
で、奴が疲弊しきったタイミングに、必殺の『光収束』だ。
シンデレラは早くも勝利を確信する。完璧な作戦だ。
そうだ、「財産はすべてシンデレラに」、そんな偽の遺書を、リプリスに製作依頼しておこうかな。
こっそり悪だくみをするシンデレラ。
それに対して、
「最強の魔法ですか。そうですね」
少し考えてからリプリスが答えてくれる。
「ヴァンプラッシュ先生の必殺技でしょうか。その技を使っているところを、私は実際に見たわけではありませんが・・・・・・」
ちらりとテテルの方に視線を向けるリプリス。どうやら、テテルは目にしたことがあるらしい。
最強の魔法。はたして、どんなものなのか。




