Σ(゜д゜lll) 敗北の予言と最強の魔女
お城の地下にある一室には、十枚以上の絵が並んでいた。
といっても、同じ絵ばかりだ。十枚以上あっても、絵の内容は二種類しかない。
片方は、「不気味な仮面をつけた魔女の絵」だ。
黒い鎧の男が、絵の一枚をじっと見ている。『ホーリーヴァンパイア』のヴァンプラッシュだ。先ほどウルフェニックスと一緒に、お城に戻ってきたばかりである。
仮面をつけた魔女の絵から、ヴァンプラッシュは目をそらさない。
地面の上には、ばらばらになったゾーンビルド。その頭部には杭が刺さっている。脳を貫通しているのだ。
魔女の背後には三つの十字架があり、自分たちの姿がある。ヴァンプラッシュ、ウルフェニックス、エクスアイズ。三人とも十字架に磔にされ、『服従の仮面』をつけられていた。
これと同じものを、エクスアイズは何年間も描き続けてきた。固定された最悪の未来だ。
この魔女と戦い、自分たちは敗北する。そのことを、この絵は予言しているのだ。
魔女の名は【ゴルディロックス】。
史上最強の魔女だ。
この魔女に自分たちは敗北する。
しかし、そんな最悪の未来を変えることができるかもしれない。
エクスアイズは『未来ゴースト』という種族だ。絵を描くことで未来の情報を得る。
ある時から、エクスアイズの絵に変化があった。最強の魔女ゴルディロックスに敗北する絵ではなく、別の絵も混ざるようになったのだ。
ヴァンプラッシュは敗北の絵から、もう片方の絵に視線を移した。
そっちの絵には、テテルたち四人と、シンデレラたち四人が描かれている。
これが別の未来の可能性。
絵の中のシンデレラは、使用済みの『怒り花火』を持っている。
そして現在、この絵と同様に、シンデレラは『怒り花火』を所持している。未来を変えるための条件が、整いつつあった。
「今のところ、どんな感じだ?」
隣にいるエクスアイズに、ヴァンプラッシュは尋ねる。
「先ほど二枚描いてみたけどね」
彼の視線が部屋の隅に飛んだ。ヴァンプラッシュも同じ場所に視線を移す。
そこには、描きかけのスケッチが二枚あった。
「五分五分だね」
エクスアイズが告げてくる。
最悪の未来と、そうでない未来だ。
まだ、どちらになるのかは定まっていない。
「あとは、あの子たち次第だよ」
「そうだな」
ヴァンプラッシュとエクスアイズは、二人そろって絵の一枚を見る。「不気味な仮面をつけた魔女の絵」ではなく、もう片方の絵だ。
テテル、クー、スティンクル、リプリス。そして、シンデレラ、キナコ、フォーテシア、マルリアが描かれている。以上、八人。
この内、四人が現在、お城の中にいる。
特に、一番の不安材料だったスティンクルが、その四人に含まれているのは大きい。面倒な騒ぎも起こしていないようだし。
「エクス、何かしたのか?」
微笑を浮かべながら、ヴァンプラッシュは尋ねる。
「ちょっとだけですよ。スティンクルは一番行動が読めないので、ほんの少し手助けしました。僕は親切な方じゃないんですが」
こうしている間も、二人は絵から目をそらさない。
絵の中には、このお城の時計台も描かれている。その時刻が迫りつつあった。




