Σ(゜д゜lll) 好意的な敵意(後編)
王子は内心で驚く。
リチャードは決して弱くはない。異常にしぶとくて、まるでゾンビだ。
それを、「ほぼ瞬殺」だと・・・・・・。
あの女の子、一撃必殺に特化しているタイプだろうか? 初見殺しの技を使ってくる可能性もある。
「彼女に負けた直後、リチャード王子は苦痛のあまり、叫び声を上げ続けていた、とも聞きました」
店から担ぎ出されたリチャード王子は、全身が真っ赤だったとか。目鼻や耳から赤い液体を流していた、そんな目撃情報もあるという。
「それで、彼女のことを、『鮮血のキナコ』と呼ぶ者もいるとか」
「その一人がお前というわけだな。そんなに強いのか」
「彼女が戦っているところを実際に見たわけではありませんが、とにかく甘く見ないことです。戦うのをやめたいのなら、今の内ですよ」
「そうだな。やめておくかな」
直後に王子はニヤリと笑って、
「とでも、俺が言うと思ったか」
「でしょうね」
ため息をつく執事。
「ほどよくボコボコにされちゃってください。それも良い経験になるでしょう」
「その期待には応えられないかもな」
王子は考える。
戦いには相性がある。あの『鮮血のキナコ』が一撃必殺に特化していようが、初見殺しの技を使ってこようが構わない。
王子という立場上、自分は「反撃系」の技を得意としている。「反撃系」の戦闘スタイルは、刺客などに対処しやすいからだ。
なので、初見殺しの技もそこまで脅威とは思わない。
(一人でこっそり練習してきた必殺技、『王家の反撃・断頭台返し』を使うとするかな)
その技で、あの女の子に勝った時、この執事がどんな表情をするのか、今から楽しみだ。
突然、お城の外が騒がしくなる。正門の方だ。
ここにきて、たくさんの馬車が一気に到着したらしい。
「どうやら、ウルフェニックス先生が戻られたようですね」
「それではさっそく、『鮮血のキナコ』に対戦の申し込みをするとしよう。ダンスの前に、まずは拳で語り合ってくる」
「ですから、今夜はご自重ください。非常に大事な夜です。王家の存亡がかかっていることをお忘れなく」
「・・・・・・」
王子は数秒間、執事にジト目をする。
そのあと、元の表情に戻ると、
「わかっているさ。だから、下手な冗談の一つでも、こうして口にしたくなる。でないと、不安に押し潰されそうだ」
「ですね」
金髪の王子と銀髪の執事はほとんど同時に、それまで見ていた閉じた窓から、別の開いた窓へと視線を移した。
その先にはお城の裏庭があり、古い時計台が建っている。
あの時計台には秘密があった。




