Σ(゜д゜lll) 好意的な敵意(前編)
キナコからの熱い視線。
本物の王子たちは、それに気づいていた。
とはいえ、彼女を直視はしない。
今は夜だ。この大広間は明るく、外は暗い。窓を鏡の代わりに利用できる。
そうやって相手の様子を探りながら、金髪の王子は銀髪の執事に小声で話しかけた。
「あの子、こっちをじっと見ているが、どう思う?」
自分たちの正体が、ばれたのだろうか。あっちにいる王子は「影武者」で、こっちにいるのが「本物」だと。
しかし、怪しんでいる視線とは、どこか違う気がする。
かといって、こちらに惚れている、という感じでもないような・・・・・・。
あの謎の視線、それをどうにか言葉で表すとしたら、
「好意とは少し違うみたいですね。『好意的な敵意』とでも言いましょうか。そんな視線に思います」
先に執事が口にする。
王子も同意した。
「たしかに、そういう感じだな。『好意的な敵意』か」
別の言葉に置き換えるなら、『ライバル意識』とかが近いだろうか。刺客などが放ちそうな敵意とは違う。彼女から殺意は感じなかった。
「あの子、かなり強いな」
ドレス姿ではあるものの、なかなかの佇まいだ。あの隙のなさは、一朝一夕に体得できるものではない。
「ぜひとも手合わせしてみたいものだ」
王子はほんのりと笑みを浮かべる。
もちろん負けるつもりはない。だが、簡単に勝てるとも思えない。そのくらいの好敵手だ。そういう相手を探していた。
自分の周囲には、好敵手と呼べる者がいない。
戦闘面での王室家庭教師、ウルフェニックス先生やゾーンビルド先生は強すぎる。実力の差がありすぎた。好敵手になりようがない。
また、この銀髪の執事に戦いを挑んでも、「王子の警護がありますので」と断ってくる。
そんな声を無視して、こちらから攻撃を仕掛けても、ずっと回避し続けるだけだ。相手にしてくれない。
しかし、あの女の子は違うようだ。彼女が相手なら、楽しい勝負を期待できる。実力の拮抗した者同士の、本気の戦闘だ。
「そろそろ、お前と肩を並べたいしな」
王子は執事に笑いかける。
執事はすでに「免許皆伝」だ。それに対して、王子はその一歩手前。先を越されてしまっている。
ウルフェニックス先生から出されている「免許皆伝の条件」は、「強い奴と戦って勝利すること」。
あの女の子なら、相手として申し分ないだろう。先生も認めてくれるに違いない。
「ウルフェニックス先生が戻ってきたら、彼女に対戦を申し込むぞ」
「今夜はご自重ください。非常に大事な夜です」
それを聞いた王子は、にこにこしながら執事を見つめる。
ひたすら無言で見つめ続ける。
執事が顔をそらしたので、そっち側に回って、にこにこ見つめ続ける。
そうやって数分後、
「・・・・・・後日、彼女と戦う機会を設けますから、今夜はご自重ください」
執事が折れた。
「ただし、先にお断りしておきますが、彼女はかなり強いですよ」
「有名な奴なのか?」
「その道では割と。『おだんご屋さん』の用心棒をしている娘で、名前はキナコ。隣国のリチャード王子がお忍び中に、無謀にも彼女に戦いを挑み、負けたそうです。しかも、ほぼ瞬殺だったとか」




