Σ(゜д゜lll) 少し気になる相手がいる(前編)
テテルとリプリスによる「しゃれにならない冗談」から、シンデレラが無傷で解放されている頃。
お城の大広間では舞踏会が始まっていた。
大広間の中は、実に華やかだ。特別製の巨大シャンデリアや、豪華な調度品の数々。
そういった人工的な美しさだけでなく、大広間のあちこちには、季節の花々が飾られていた。
この舞踏会は立食形式で、どのテーブルの上にも、美味しそうな料理が並んでいる。
その大半が、カボチャを主食材にしたものだ。他に、ナスやピーマンの料理もある。
そして、華やかな服装の参加者たち。
といっても、その数はそこまで多くなかった。おかげで、会場内には空間が目立っている。
そこにキナコとクーがやって来た。
今夜は仮面舞踏会だ。自前で用意してこなくても、お城で仮面を貸してくれる。
そういうわけで今、ここにいる全員が「顔の上半分」に、何かしらの仮面を着けていた。料理や飲み物を運んでいる人たちや、楽器を演奏している人たちも例外ではない。
この中から、フォーテシアとスティンクルを見つける必要があった。
大変かもと思ったけれど、スティンクルを見つけるのは簡単だった。
この中で一番、お皿に料理を高く盛りつけている。その超絶技巧なバランス芸で、結構な注目を集めていた。
そんな好奇の視線に対して、
「どーも、どーも♪」
スティンクルは愛嬌をふりまきながら、さらなる高みに挑んで成功。舞踏会の参加者たちから大きな拍手をもらっている。
彼女の芸に対して、マナーにうるさい者たちは最初、眉をひそめていた。
が、すぐに他の者たちと一緒になって、拍手を始める。
あの女の子は一見、「舞踏会の招待客」のようだが、その正体はおそらく「お城で雇った道化師」だろう。
そして、「このパフォーマンスは、王子さまが用意された『余興』に違いない」と考えたのである。
ならば、険しい顔をしていては、王子さまに失礼。周りに合わせて、スマイルだ。
その一方で、スティンクルの相方のフォーテシアは、一人で壁際にいた。『お目々のラジオ体操』をしている。
「フォーテシアちゃん、お待たせー♪」
彼女を見つけて、手をふりながら近寄るキナコ。クーもそれについていく。
すると、フォーテシアが目を左右に動かすのをやめた。少しホッとした表情を見せてくる。
「良かった。うまく入り込めたんだ」
「いやぁ~、聞くも涙、語るも涙の、さんざんな苦労があってだね~。なーんて冗談。クーが全部やってくれたから、余裕だったよ。私はずっと楽をしてた」
「スティンクルも言ってた。クーがいるから心配ないって」
二人の言葉に照れるクー。
「で、どんな感じ?」
キナコが視線を向けた先は、スティンクルがいるのとは別の場所だった。そっちにも人だかりができている。
十人前後の女性たち、その真ん中に若い男性がいた。金色の髪をしていて、かなりの「美形」だ。仮面をつけていても、それがわかるほどの「美形」。
あの男性はたぶん、「この国の王子さま」だろう。すぐそばには、白い軍服を着た警護が二人ついている。
キナコの耳元でフォーテシアが囁いてきた。
「一つ気になることがあって」
彼女はキナコたちより先にお城の中に入ったので、色々と情報収集をしていたという。
その結果、次のような噂を繰り返し聞いた。
――今夜の舞踏会で、王子さまは結婚相手を決めるらしい。
そういうわけで今、「王子さま」はあんな風に、女性たちに囲まれているのだが・・・・・・。
フォーテシアには何か違和感があるという。
はっきりと言葉にできるほどではないけれど、
「どう思う?」
この問いかけに対して、キナコは考えた。
フォーテシアの家は狩猟を生業としている。そんな環境で育った彼女も、一流の狩人だ。
そのフォーテシアが、「違和感がある」と言っているのだ。
(本当に何かあるのかも)
彼女の直感を信じてみる。キナコは金髪の男性を注意深く観察した。
だてに、「おだんご屋さん」の看板娘をやっていない。人間観察は客商売の基本だ。そっち方面の能力には、そこそこ自信がある。
もしも、あの「王子さま」に「おかしな部分」があるのなら・・・・・・。




