Σ(゜д゜lll) 今日って舞踏会のはずだよね?
シンデレラたちがホテルでのんびりシャワーを浴びている頃、クーはキナコと一緒にお城の周囲を歩き回っていた。
そのかいあって、こっそり忍び込めそうな地点を、いくつか見つけることができた。
でも、それは自分一人で侵入する場合の話だ。今回はキナコも一緒。
彼女の負担が少ない侵入方法を選ぶことにする。
そういうわけで、少し前からクーはキナコと二人で、道ばたの茂みに隠れていた。
大きな馬車が通りかかるのを待つ。その屋根に飛び乗って、お城の中に入るのだ。
ところが、困ったことに、馬車が全然来ない。
キナコが少し不思議そうに、
「今日って舞踏会だよね?」
「そのはずなんだけど・・・・・・」
裏道の方から馬車が来ないだけならわかる。もともとの交通量が少ない。しかし、もう片方の道からも馬車が来ないのだ。さすがに普通じゃない。
(あっちの道で何かが起きている?)
クーは考え込む。
光の柱が見えたのも、あの方角だった。あれは、ウルフェニックス先生の『光収束』だ。
あっちの道で何が起きているのかはわからないけれど、間もなく三〇分になる。エクスアイズ先生のかけた魔法が解ける時間だ。
とはいえ、焦りは禁物だろう。先生の魔法が解けたら解けたで、今度は「クー自身の魔法で、(服装を)何とかする」という手もある。
エクスアイズ先生も、そのことには気づいているはず。だから、どう考えてもこの時間制限、嫌がらせ目的に違いない。
(とにかく焦っちゃダメだ)
クーは心の中で、自分に言い聞かせる。
でないと、キナコも不安になる。
「大丈夫、たぶん大丈夫」
そんな独り言をほとんど無意識につぶやきながら、クーは馬車が来るのを待った。残り時間はあとわずか。
そこで気づく。何かが近づいてきている。
これは馬車じゃない。でも・・・・・・。
クーは目を輝かせた。これはトラックだ。トラックがこっちに向かってきている!
馬車よりも当たりかもしれない。車体は大きいし、おそらく荷物の運搬用。だから、お城の正門ではなく、裏門の方に回るはず。
クーはキナコを「お姫さま抱っこ」した。こうすることは先に説明している。
トラックが目の前を通り過ぎるタイミング。その一瞬に茂みから飛び出した。
周囲は暗い上に、クーは隠密行動に長けている。
次の瞬間、二人はトラックの屋根に着地していた。一瞬だけ魔法を使って、衝撃を最小にする。
運転手には気づかれなかったようだ。トラックは走り続けている。
と思ったら、すぐに速度を落とし始めた。
クーは少し不安になったものの、お城の近くなのでトラックは徐行運転に切り替えたらしい。運転手の能天気な鼻歌が聞こえてくる。
トラックが向かっているのは、やはり裏門の方だ。
この間に、クーは『異空間収納』の魔法で「大きな布」を取り出した。キナコと一緒にトラックの屋根に寝そべると、その上から布をかぶる。
布の色は、トラックの屋根と同じものだ。これでお城の高い場所から見られても、少しは誤魔化せるはず。
「このままお城に侵入するよ」
クーが小声で伝えると、わくわくした顔でうなずくキナコ。
こういうことには慣れていないだろうに、
(肝が据わっているなぁ)
本当に頼もしい相方だと、クーは感心する。
少しして、トラックが停止した。お城の裏門に着いたのだ。
見張りの兵士たちがいる。ここさえ無事に通過してしまえば・・・・・・。
クーは聞き耳を立てる。
運転手が兵士たちと話し始めた。どうやら、トラックの積み荷は「大量のカボチャ」らしい。
(あるところには、たくさんあるもんだなぁ)
今日の夕方にスーパーの野菜コーナーで、貧相なカボチャ一個を、テテルと争ったことを思い出す。
あの時よりも、カボチャの値段はさらに上がっているはず。
(裏道で襲ってきた山賊たち、ぼくたちの馬車じゃなくて、こういうトラックを狙った方が儲かるんじゃ・・・・・・)
でも、すぐに気づく。自分たちが乗っていたのは、馬車は馬車でも「カボチャの馬車」だ。
(それで襲ってきたのか)
一人で納得するクー。乗っていたのが、たとえば「スイカの馬車」だったら、あの山賊たちは襲ってこなかったかも。
お城の裏門では、なおも運転手が兵士たちと話している。
特に問題なさそうなので、クーが少しだけ気を緩めた時だった。
「ククククク、バカどもめ!」
トラックの運転手が豹変した。
一瞬で声色を変えたかと思うと、
「カボチャの買い占めは良くないよなぁ。おかげでカボチャの値上げが止まらねーよ。だから、このスーパーテロリストさまが、暴力陳情に来てやったぜ」
まさかの内容に、クーは慌てた。しまった。変なトラックに乗ってしまったみたいだ。
「用意はいいか? 覚悟はいいか? ならば始める! 今から天誅!」
運転手がラップ調で告げている。
クーは急いで考えた。とりあえず、キナコを連れて逃げた方がいいかも。
しかし、逃げる姿を兵士たちに見つかってはまずい。
(そうなったら、ぼくたちまでテロリストだと思われる!)




